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浮気現場

 さて、今日は生徒会主催の清掃活動の実施場所を確保するために商工会を訪れた。


 話は順調に進み、城門から昨年度も実施したローガン通りまでの街路を清掃箇所として確保した。

これで来月の清掃活動も滞り無く実施できるだろうと安堵して学校に戻る。


 その途中、街を歩くエリーを見つけた。

 少しくらいサボってもいいかなと思い、彼女に声を掛けようとしたところで別の男が。

 エリーも手を振り仲良くハグ。そして手を繋ぎ商店街の中へ・・・


「えっ?何で?」

 僕という存在がいるにもかかわらず手を繋ぐなんて。

 心が狭いとお叱りを受けるかも知れないけど、あの雰囲気は間違い無くカップルのそれだ。そのくらいは僕にだって分かる。


「アレン、今日はブティックと宝石店に行きたいわ?」

「それはいいが、俺はそんなに金持ってないぜ。」

「大丈夫。お金なら心配しないで。」

 コイツ、デートなのに女性に金を出させるつもりか?

 僕は彼女たちの後を付けることに決めた。


 二人はまず高級ブティックに入り、楽しそうに服を選んでいる。服だけでは無く、アクセサリーも選んでいるようだ。

 そして彼女はドレスとお揃いのアクセを買って意気揚々と店を出る。


 次に訪れたのは宝飾店。ジュエリーを買うのかと思いきや、小箱を取り出し店員と何か交渉している。

 箱には見覚えがある。

 確か先々月にプレゼントした誕生日プレゼントのはずだ。

 そして、何か書面を交わした後、現金を受け取ったようだ。


 宝飾店を出た二人を更に追跡する。


「結構な金が手に入ったじゃないか。」

「そうね。高い物だとは思ってたけど、思っていた以上の値段で売れたわね。」

「しかしバレないのか?」

「だって、あのデザイン気に入らなかったんだもの。それにあの男はこういうの詳しくもなければ気にもしないわよ。」


「随分な扱いだな。」

「むしろ、お金になってくれた方がアタシの役に立ったと言えるわね。」

「しかし、送ったプレゼントが売られるなんて、そいつのダメージでかいぞ?」

「大丈夫よ。似たような安物着けてりゃバレはしないわよ。」


「バレたらどうする?」

「酷いこと言われたって泣き叫んで、その勢いで別れてやるわ。」

「酷え話だな。」


「確かにパトロンとしては優秀だけど、アレと結婚はちょっとね。アタシももういい歳だからそろそろ本気で相手を探さないといけないのよ。」

「だが貴族学校の教師だろ?お相手としては申し分無いじゃないか。」

「でも話がつまんないのよ。それに、どうせなら金持ちの商人とかの方がもっと贅沢できそうじゃない?」


 僕は少し離れた物陰で拳を握りしめるほか無かった。

 これじゃ前世のATMまんまじゃないか・・・


 どうして僕がこんな目に遭わないといけないんだ。

 もうこれ以上、ここにいられる精神力が残っていない。

 一人になりたくて、その場を離れた。


 どうにか帰宅できたけど、道順なんて覚えていないほど気が動転していた。

「どうして・・・」


 次の日、授業をすっぽかしたことを教頭にこっぴどく注意されたが、最早そんなことはどうでも良かった。

 そしてその日の夜。僕はいつものカクテルバーに足を運ぶ。


「お客さん、今日も待ち合わせですか?」

「まあ・・・マスター、いつもの。」

「畏まりました。」

 そう、彼女に事実確認をしないといけない。


 そのままブッチしても良かったんだけど、一応半年も付き合ったのだ。

 別れるにしてもしっかり清算しておきたいと思ったのだ。

 しばらくすると、ここの常連であるエリーも入店してくる。


「あら、今日も来てたのね。」

「ああ・・・」

「元気無さそうね。どうかした?」

 お前のせいだよ!まだ酒を一口飲んだだけなのに、胃がむかむかする。


「昨日のデートは楽しかったかい?」

「あなたに会ったのは三日前よ?」

「じゃあ、昨日指輪を売った時に一緒にいた男は彼氏じゃなかったんだな。」

「ど、どういう意味?」

「いや、逆に意味を僕に教えて欲しいね。」

「・・・見たの?」

「せめて金は返して欲しいもんだね。」


 もちろん、こういうところで金をせびるのが男らしくないことは重々承知している。

 でも、このまま引き下がったら舐められるような気がするんだ。


「えっ・・・あれは・・・私には病弱な母がいて、どうしても必要だったの・・・」

「だから話の面白くない僕から指輪を受け取って換金したの? 随分手間の掛かることをしたじゃない?」

「いえ、倒れたのが今週の初めだったのよ。」

「大金が必要なくらい重い病気なら、こんなところで飲んでないで看病してあげたら?」

「・・・・」


 彼女はそそくさと帰って行く。

 本当は、投資した倍は返してもらわないと気が済まなかったのだが、彼女の頭の悪い嘘に、その気が萎えてしまった。


「マスター、同じのをもう一杯頼むよ。」

 シェイカーの音が軽やかに響く。憂鬱な気分を軽く弾いてくれるような心地よさを感じる。

「お客さん。これは私からの奢りです。」

 マスターから出されたのは、いつものではなく、ベルモント・・・


「これは?」

「これで慰めになるかどうかは分かりませんが。」

「そういうことか。マスター、ありがとう・・・」


 夜更けまで静かに一人、カクテルを楽しんだ。

 そして次の日、しっかり遅刻して教頭にたっぷり絞られた・・・


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