ジェームズの課外授業
ジェームズもこの貴族学校の教師となってはや5年。
クラス担任となり、魔法科の副主任として、順調な教師生活を送っている。
また、行きがかり上、仕方無かったとは言え、生徒会活動にも深く関わっている。
このため、新学期開始後はかなり多忙な生活を送っている。
しかし、しかしだ。彼がそこで満足するはずはない。
日々の業務の合間を縫って、魔法の研究や一年生の指導に余念が無い。
そんな彼は放課後、有志を集めて魔法の課外授業まで始めた。本当に熱心である。
「じゃあみんな、今日は魔力制御のコツを掴もう。」
「はい。」
いいねえ。すれた三年生なんかより、純真な一年生の方がずっと魅力的だ。
言っておくが、決してロリコンという訳じゃないからね。
あくまで僕は人物の中身重視だからね。
「君は肩から背中にかけて随分力が入っているね。」
「そうなのですか?」
「そう、首の付け根から背骨にかけての部分は、力を慎重に込めるんだ。決して力んではいけない。」
「はい。分かりました。」
「君はしっかり立つこと。グラグラしていてはだめだよ。」
生徒には若干名の男子も混ざっている。これは昨年からの反省だ。
ある程度は男子とも交流して上手くカモフラージュしないと、女子はこういうのに敏感で、すぐに警戒してしまうからね。
「じゃあ、みんなコツが掴めるまで続けてみて。」
「はい。」
僕はその間に、呼び出しておいたルシアたんの元に行く。
「やっと念願叶って光属性魔法の研究ができるよ。」
「ええ、お手柔らかにお願いします。」
「ああ、とても柔らかく研究させてもらうよ。」
「先生が言うと、何か違う意味に聞こえて怖いです。」
「何も怖がらなくていいよ。純粋に高尚な学術研究目的だから。」
「はい・・・」
「じゃあ、いつものように光を出してみて。」
「分かりました。」
ルシアは魔術を発動させ、彼女の手から光が産み出される。
「ふむふむ、こうなってるんだね。」
本当はよく分からないけど、分かる男を演出する。
「もう少し強く出せるかな?」
「はい。」
「その時、身体はどう変化させてるの?」
「強く念じています。」
「力んだり、身体が温まったりしてない?」
「少し力は入ります。」
「どの辺りかな?」
「えっ?肩とか腕とかです。」
残念。胸とか腰とか言って欲しかったんだけども・・・
「少し、魔力循環を調べさせてもらっていいかな?」
「嫌です。」
「まあまあそう言わずにお願いするよ。」
「触らないで下さいね。」
「そりゃちょっと無理な相談だねえ。」
「ならお断りします。」
「仕方無いなあ。じゃあ、決心がついたらよろしくおねがいするよ。」
「多分、一生無いと思いますけど。」
「・・・」
「先生。私、もう限界です。」
「うん? 何故だろう。魔力制御は普通、それほど身体に負担は掛からないはずなんだけど。」
僕は一年生の方に行く。
「どこかに力ガ入りすぎてるんじゃないかな?」
「肩でしょうか・・・」
また肩か・・・
そう思いつつタッチしてみる。これはスキンシップも兼ねているからね。
そして、彼女の後ろに回り手を背中に這わせてみると、彼女は驚いたのかビクンッと大きく跳ねる。
「大丈夫だよ。心配はいらない。」
「はい。先生。」
そうそう、これだよルシア君。
上達するためには羞恥心を捨て、全てを受け入れる度胸が肝心なんだ。
僕は、彼女の背中に当てていた手をお腹に回す。
「もし力を入れるとすればここだ。」
「はい。先生。」
なかなか素直でいい子じゃないか。
「君はなかなか見所あるよ。きっといい魔術師になれる。だから、もう少し頑張ってみよう。」
「はい、分かりました。」
こうして一人一人と十分な会話を交わしながら講義を続けていく。
みんな去年の一年生よりは上達が早いし、授業で違いを見せつけることができれば、他の生徒もこれに続いてくれるだろう。
毎日忙しい中、これは僕にとって更なる負担になりはするが、僕は今、公私ともに充実してるからね。
きちんとやり遂げてみせるよ。
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ああもう、気分は最悪ね・・・
アタシは帰宅するなり石鹸で丹念に手を洗い、部屋に戻ってベッドに倒れ込む。
「全く、J って前世はナメクジか何かだったに違いないわ・・・」
「お嬢様、今日は襲いお帰りでしたね。」
「アニー、アタシもうヘトヘトよ・・・」
「本当はお茶とお菓子をお出しして差し上げたいのですが、もう夕食が近い時間ですので。」
「仕方ないわ。少しだけ休ませて。」
「畏まりました。」
ホントに今日は精神を削られたわ。ただ、二人きりじゃなかったのがせめてもの幸いね。
どうせまた呼ばれるんだろうけど、どうやって断ってやろうかしら。
疲れているのに、腹が立って眠ることが出来ない。
「アタシも攻撃魔法を覚えるべきね。」