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親子げんかに巻き込まれる パートⅠ

「ニコラス。ちょっと来なさい。」

「ああ。」

 俺は親父の執務室に呼ばれる。最近はこうしてお小言を頂戴することが増えた。

 ウザいことこの上ないが、どこの家でもこの年頃になると親子喧嘩くらいする。


 前世だって親父ととっくみあいの大喧嘩を何度もし、最後に勝って自分の進むべき道を掴んだ経験だってある。


「それで話って何だよ。」

「お前はこの先、殿下の側近として宰相を目指す使命ががあることは理解しているな?」

「側近になることは理解してるぜ。」

「それだけではダメだ。宰相を目指さねばならん。」


「俺は事務屋には向いてない。そんなことは向いてるヤツがすればいい。」

「お前の肩に国の将来が掛かっているのだぞ。自覚が足りんのではないか?」

「俺はできることで殿下に貢献する。先日の魔族退治だってそうだ。」

「私がお前に求めているのはそんなことじゃない!」


「何が言いたい。」

「お前は勉学に励まず学校ではB組落ち。仕事も不十分でミスが多い。」

「じゃあ親父に魔族に立ち向かう勇気はあるか?」

「そんなものはそれこそ騎士に任せればいいのだ。」


「ドウェインだけじゃ足りなかったぜ。それにミッチェル殿下は聖剣に選ばれた英雄だ。これからも危険な場面は多い。宰相だか何だか知らねえが、現場にも出ずに偉そうに指示だけ出してるようじゃ、殿下に忠実な側近とは言えねえな。」

「後方支援や後顧の憂いを絶つのがラトリッジ家代々の役目だ。」


「それは法律で決まってるのか?」

「何?」

「そんなものは他に何も出来ねえ親父の言い訳だ。側近なら身命を賭して共に戦う方が尊いじゃねえか。」

「じゃあ、殿下の後ろは誰が守る。日々の課題は誰が解決する。」

「事務は事務屋がすればいいだろ。それが俺でなければいけない法は無い。」

「ニコラス、貴様・・・」

「こんなつまらねえことでいちいち呼び出すんじゃねえよ。」



「ってなことがあったんだ。最近親父も小言ばかりなんだ。」

「大変だね。でも、宰相様の気持ちもニコラス君への期待も分からないではない。」

「期待の方向が明後日の方角なんだよな。」

「ドウェイン君なら文句なしなんだけどね。」

「僕なら宰相様の期待に応えられると思うけど・・・」


「そうだな。それで、殿下とドウェインには親父の説得に力を貸して欲しいんだよ。」

「ええ~、私かい?」

「僕も余所様の家庭の話に首を突っ込むのはヤだなあ。」

「そう言わずに頼むよ。アイツを完膚なきまでやっつけたいんだ。」

「まあ、付き合いはするよ。」

「さすがは殿下だ。」


 そして次の休日。私とドウェイン君はラトリッジ家にお邪魔する。


「これはミッチェル殿下。お休みのところ当家にお越しいただき、誠に有り難うございます。」

「こちらこそお休みの日にお邪魔して恐縮です。」

「殿下、ドウェイン、良く来てくれた。」

「三人で勉強でもするのですかな?」

「何言ってんだ。三人で親父をコテンパンにするに決まってるだろ。」

「へっ?」

 何、いきなり始めちゃうの?


「ニコラス、どういうことだ。」

「殿下が俺は馭者兼荷物運び並びに護衛でいいとおっしゃってるんだ。親父には悪いが次の宰相は別の人間から選んでくれ。」

 そんなこと、一言も言った覚えないんですけど・・・


「殿下、それは・・・」

「ああいや、最終的にはラトリッジ家で決めるべきことだということは承知しているんだ。ただ、ニコラス君には彼なりの忠誠の示し方や望む将来もあると思ってね。」

「殿下、お心遣いは非常に有り難く、光栄に思う所ですが、側近は私心を押し殺してこそ勤まるものでございます。」

「確かにそういう一面はあると思う。しかし、私の側近は皆で必要な役割を補完できればいいと思ってるよ。」

 難しい事はドウェイン君がやってくれるだろうし。


「例えそうであったとしても、今のニコラスに側近たる実力があるとは到底思えません。」

「なんだ親父、そんなことを心配してたのか?なら試してみるか?」

「試さなくてもお前の不出来は知っている。」

「俺は親父には負けねえぜ。」

 ニコラス君は剣を抜く。


「宰相の前に、陛下に忠誠を誓った騎士なら、それに見合う実力は備わってるんだろうな?」

「な、何をするかと思えば・・・」

「側近の一番の仕事は、殿下をお守りすることだ。」

「それはそこにドウェイン君がいるだろう。」

「なら宰相ってのはドウェイン以下の存在だな。」

「な、何を抜かすか、この馬鹿者がッ!」

「文句があるならかかって来いよ、チビ眼鏡。」

 そこまで言う・・・


「こ、この愚息が・・・」

「何だ? もうグウの音が出なくなったか?」

「貴様は廃嫡だ!婚約も解消させるし側近の任も解く。私の後は甥のダレンに継がせる。」

「おいおい。ジュリア-ナ嬢は困るなあ。」

「お前なんぞに家を継がせる訳にはいかんし、貴族で無いならファルテリーニ王国宰相家のご令嬢と結婚なんて到底無理だろう。」

「そりゃ困ったな。ジュリア-ナは馭者の嫁になってくれないかな。」

「何を言っておるのだ・・・」

 正直、私もそう思う・・・


「ヴィクター様、不肖、私ドウェインが宰相様に師事するということはできますでしょうか。」

「ドウェイン君、どういうことかね。」

「私は将来、学者か政治家になりたいと常日頃考えておりました。ニコラス君は私より優れた剣士ですし、彼に騎士団長を目指してもらった方が良いと思ったのです。」

「そうだね。ドウェイン君もお父上の反対に遭っているようだし、宰相殿から騎士団長にお口添えいただければ有り難い。」

「そ、その・・・」

「馭者になるよりはマシだと思いますが・・・」

「はあーっ!」

 ヴィクター卿は大変力強いため息を吐かれた。


「ドウェイン君の事は、私からもタウンゼント家に申し入れしてみよう。ニコラスの処遇についてはもう少し時間が欲しい。」

「俺はジュリア-ナ嬢との結婚が許されるなら、それでいいぜ。」

「ところで、ニコラス君は騎士団長でいいのかい?」

「騎士団長だって荷馬車の運転くらいできるんだろう?」

「いや、ほぼ騎乗だよ。」

「まあ、そのくらいは大人だからな。我慢も必要だ。」


 さて、ラトリッジ家の親子喧嘩、これからどうなるんだろう・・・


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