包丁が舞う
さて、始業式の後、生徒会室にメンバーが集まる。
今年度の会長選挙と新役員選出の打ち合わせも必要だが、その前に昨年度の実績を纏める必要があるのだ。
「お陰様で昨年予定していた行事は全て成功裏に終わり、活動費も予算内に納めることができた。」
「上出来と言えますね。」
「クリフ先輩、監査の方は順調に進んでいますか?」
「大丈夫です。そもそも支出項目が少なかったですし、毎月チェックはしておりましたので、選挙告示前までには監査結果を公表できる見通しです。」
「ありがとうございます。ではこれで、昨年度の活動は全て終わり、一区切りついたと考えて良いですね。」
「まだ七不思議が一つ残ってるぜ?」
「そういやあったね。」
「勇退される先輩方のために、大きな功績を上げておくべきじゃないかい?」
「じゃあ、役員交代前にやる?」
「でも、包丁が飛び交うんだろ?ちょっと危ないんじゃないか?」
「さすがに両殿下を前に出すわけにはいかないね。」
「いや、私は別に構わないけど。」
「俺も問題無いぜ。」
「じゃあ、いつもの縦ドリを誘ってみるか。」
「ジェームズ先生もね。」
「まあ、ヤツを前に出しとけば問題無いだろ。」
ということで、みんなの予定を合わせて夜の食堂へ。
今回もいつものメンバーにミント、テンコー、ヴィヴィアン王妃、フラワーさんという豪華キワモノを加えた厚い布陣で臨む。
そして連絡役として三人の先輩が広報に控え、保健室には養護のカーラ先生が待機してくれている。
「しかし、最後に包丁が飛んだのは20年前なんだろう?」
「父上が夜中に忍び込んだ時以来だと聞くね。」
「陛下も昔はヤンチャだったんですね。」
「若気の至りだったって言ってたよ。」
「しかし、それほどレアな現象なら、遭遇することは無いかもな。」
「ミント、何か感じる?」
「いるよ。」
「かなり禍々しいのが潜んでるわね。」
「いい男なら大歓迎だけどね。」
「フラワーさん、浮気はダメだよ。」
「ジェームズより良い男だったら、乗り換えちゃうかも。」
「先生、魅力無いからな。」
「そんなことないよ。僕だって私生活は充実してるから・・・」
そんな事を言いつつ食堂に到着する。
そしてテンコーにドアを開けさせ、ゴースト衆を先頭に中へ入っていく・・・
「出てきてくれるとありがたいんだけどね。」
ガタン!
「キャーッ!出ましたわよ!」
「ドリル落ち着け。きっとネズミか何かだ。」
「そ、そうですわね。でもそれ以上にB、呼び方が不敬ですわよ。」
「てめえこそ、Bって何だ。」
「あなたただけ違うクラスですわ。」
「それはそうだが、2年B組は担任以外は完璧なクラスだぞ。」
「担任とあなた以外は・・・」
と彼女が言ったところで・・・
ゴゴゴッと地鳴りがしてきた。地震か?
「みんな、伏せて!」
トン!
何かが飛んで来たようだ。
「殿下、包丁が飛んで来た。」
「テンコー、悪ふざけはよせ。」
「僕じゃないよ・・・」
「来るよ!」
何が?
「これは、地震ではありませんわね。」
「ご先祖様、分かるのです?」
「ええ、これは妾たちゴーストでもありません。魔ですわ。」
「魔族ってこと?ここ学校ですよね。」
ドン!
何かが吹き飛んだ。
そして土煙が落ち着くと、そこには何か見覚えのある姿が・・・
「ありゃあ、バロムだったかバランだったか。」
「バロールだね。」
「ワレヲ呼ビ覚マシタノハ、貴様ラカ?」
「魔族を呼んだつもりはねえがな。」
「お前はバロールなのか?」
「ヨク知ッテイタナ。ワレノナハ、バロール。魔ヲスベルモノ。」
「一度倒したはずだが、しつこいな。」
「ナニ?ソウ言エバ最近、大キナ痛ミガアッタガ、貴様ラノ仕業ダッタノダナ。」
「って事は、お前は一体だけじゃ無いって事だな。」
「デハ、返リ討チニシテクレルワ!」
「散開!」
私たちは戦闘態勢に入る。
ニコラス君とドウェイン君が前衛、私とローランド殿下、ジェームズ先生、ゴールドバーグ嬢が後衛、ミントとテンコー、ヴィヴィアン様とフラワーさんが左右に展開する。
「前衛は出来るだけ近い間合いでお願い。」
「ああ、とどめは頼むぜ、殿下。」
「分かってる。聖剣フルンティングよ、再び我に力を!」
「ナニ?ナゼソンナモノガココニアル・・・」
「前にも言ったが、たまたまだ!」
飛んでくる包丁を躱しながらドウェイン君とニコラス君が剣をバロールに突き刺す。
そして三方から魔法攻撃が行われる。
いや、フラワーさんだけは物理だ。
「グワッ!キタナイゾッ!卑怯デハナイカッ!」
「魔王のクセに真っ当な事言ってんじゃねえぞっ!」
ニコラス君が相手の腹に剣を突き立てる。
「最近ノ人間ドモハ騎士道トヤラヲ捨テタノカ?」
「騎士道?さあ、知らねえな。」
ニコラス君、そのくらいは知っておこうよ・・・
「僕は知ってるけどね。」
ドウェイン君は素早く後ろに回り、バロールの背中に剣を突き立てる。
うん、それは騎士道ではない・・・
「殿下、今だ!」
私はジャンプして上段の構えから振り下ろす。
それは丁度、バロールの左肩から袈裟懸けの形で叩き込まれる。
「グワーッ!」
バロールは膝を突く。
「魔王なんて大したもんじゃねえな。」
「我トテ、力ガ十全ナラ、貴様ラゴトキニ負ケハセヌワ・・・」
「前のヤツも同じ事を言ってたな。これで二匹目だ。」
「許サヌ・・・・我ハ貴様ラヲ絶対二許サヌ・・・」
「枠は栄えぬ。それだけは覚えておれ。」
私は剣を振り上げ、バロールの頭に叩き込む。
「ギャーッ!!」
バロールは断末魔の悲鳴を上げ、フルンティングはお約束通り折れた。
「どうやら一件落着だね。」
「しかし、王都の、しかも学校内に魔族が出たとなると大事件なんてもんじゃないと思うよ。」
「どうしてこんなところに。」
「陛下が遭遇したのもバロールだったのかな。」
「恐らくそうじゃ。王族の纏うオーラに反応したんじゃないかのう。」
「しかし、食堂は毎日のように利用しておりますが。」
「夜は魔の時間じゃ。」
「なるほど。」
とにかく、これで本校に8つあった七不思議は全て解決した。
そして、次の日は魔族の遺骸の処理で校内は大騒ぎとなる。
ちなみに、食堂の床に空いた穴から祠が発見されたそうだ。
私たちも確認したが、あの湖畔の祠と同じ造りだったので、同じ目的のものだと結論づけられた。
ということはあの祠、魔族を封印してたんだなあ。