一年か・・・
春の日差しが柔らかい。
この学校には春休みが無いから実感は無いけど、普段なら卒業シーズンで前世の私なら決算期で忙しかった頃ね。
私がこの世界に来て早くも一年が経った。
お父さんやお母さんたちは元気にしてるかな。
すごく悲しませちゃったんじゃないかな。
すでにあちらの世界には自分の墓もあるのだろう。
そう考えるととても不思議な感覚になる。
「本当にスペ体質なのよね。」
私は今、この世界でジェニファー・フレミングを演じている。
まあ、役柄がジェニファーってだけで、全然その役割を果たしてないけど・・・
そして、私のせいでストーリーは大きく改変され、この先も不透明になっている。
もちろん、私が悪役を順当にこなせば、私以外の人たちがハッピーエンドになるのは分かっているけど、彼らの犠牲になる勇気が私には無いわ。
「お嬢様、いかがなさいましたか?」
「うん、ちょっと考え事をね。」
「最近、お嬢様はそのようなお顔で物思いに耽ることが多くなりました。もし、お悩み毎がおありでしたら私でもドロシーでもお申し付け下さい。」
「ありがとう、メアリー。でも私なら大丈夫だから。」
「では、お茶の準備をいたします。ごゆっくりおくつろぎ下さいませ。」
「ええ、そうさせていただくわね。」
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朝の祈りを終えて普段着に着替える。
今日は午後と夕方の祈りは別の方にお願いしているから、アタシの仕事はこれで終わりね。
「ルシア様、お勤めご苦労さまでした。」
「司祭様もご機嫌よう。」
今日でここに来て一年ね。
そりゃ寂しい気持ちもあるけど死んじゃったものは仕方無いし、日本と比べたら不便なことも多いけど、こちいにも友達はできたし、何と言ってもアレルギーを気にせず食事ができるって嬉しい。
「イリアちゃん、待った?」
「ううん、私も今来たところだよ。そんなに走らなくても大丈夫だったのに。」
「そういう訳にはいかないよ。じゃあ、他のみんなも誘ってカフェね。」
「今日は私が見つけたお店よ。」
「タニアちゃんとミリガンちゃんは店の前で集合なの?」
「あの子達の家は店に近いからね。」
「早く行こ行こっ!」
昨日屋敷に通信簿が来て、来年B組になることが決まったの。
お父様とお母様はちょっと残念そうだったけど、アタシにとっては上出来よ。
ちょっと心に引っかかるのはこのストーリーがバッドエンドに進んでるんじゃないかってこと。
でも、戦争は終わったみたいだし魔王だってやっつけられちゃったみたい。
それでアタシが誰ともくっつかなかった場合のエンドって、何だったっけ?
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今日もいつもどおり、王子用執務室で仕事をしている。
「殿下、そろそろ休憩でもいかがですか。」
「宰相殿か。父はどうしている。」
「陛下はロフェーデ王国使節団受け入れの最終調整打ち合わせを行っております。」
「そうか。なら呼び出されることはないな。それで、宰相殿は向こうに出席しなくていいのか?」
「はい。外務卿から後ほど報告がある予定ですので。」
「そうか。では休憩するとしよう。」
侍従らがお茶を運んでくる。
「宰相も一緒にどうだい?」
「よろしいので?」
「私一人余裕をかますのは気が引ける。」
「なるほど、では失礼をば。」
ここに来てもう一年か。
訳も分からず右往左往したけど、何とかこちらの世界に適応できてるんじゃないかと思う。
それはいいけど、やはり心配なのは向こうに残して来た家族のこと。
まあ、あの場面ではどうすることもできなかったし、事ここに至った以上、最早何も出来ないが、一家の大黒柱を突然失った痛手は大きいだろうし、まだ幼い二人の子供には大きな苦労を掛けてしまって本当に申し訳ないと思う。
でもみんな、父さんは死んじゃったけど、天国で上手くやってるからな。
「陛下、返す返すもジェニファーのこと、申し訳ありませんでした。」
「いや、そのことなら気にしなくても良い。こういったことは往々にして起こることだ。残念ながらご縁が無かったというだけのことだ。あまり気に病む必要はない。」
「そうおっしゃって頂けると、少し気が楽になります。」
「彼女にも、幸せになってもらわないといけないね。」
「あの子には勿体ないお言葉でございます。」
「いや、婚約していた5年という日々を、私は彼女から奪ってしまった訳だし、このくらいのことはさせて欲しい。」
「ありがとうございます。」
そう、今はここで成すべき事を成すしか無い。
もしこれが私に与えられた命なら、全力で全うするのみだ。
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「和子、今日も俺は走ってるぜ・・・」
俺は屋敷に食い物を運んできた商人の荷馬車を借りて、王都の郊外を走っている。
スピードこそ、かつてのジュリア-ナの半分以下だが、そのスピリットはあの日のままだ。
「俺はあれこれ考えるのが苦手なクチだが、今日だけは考えちまうな。」
珠里亜は次で小学三年生、もう立ち直って元気よく学校に行けてるだろうか。
寿機亜は新入生だ。まだ父の死の意味を分かってねえかも知れねえな。
「済まねえが任せたぜ、和子・・・」
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「ドウェイン!また勉強などしておるのかっ!早く訓練場に来ぬか!」
今日も今日とて、父の怒鳴り声が屋敷に響く、いつもの日常。
でも、これを聞き続けた一年だったんだよなあ。
みんな元気にしてるかなあ。
いつも思い通りの結果が出せずに悔し涙を流していた望月さん、合格できたかなあ。
僕は今、ここにいます。
「何をグズグズしておるっ!戦場ではそれが死に繋がるのだぞ!」
「はいはい。分かりましたよ・・・」
最初は泣いてばかりだった僕も、随分強くなったもんだと思う。
ペンを走らせる手を止め重い腰を上げ、訓練場に走る。
そしていつものように剣を振る。いつしかこれが自分にとっても日課と認識するようになった。
もちろん、コレが将来僕が進むべき道だと納得している訳じゃ無い。
お父さんとお母さんが期待していた成績と、それに続く成功を目指すことが、両親を悲しませてしまった僕がやるべきことだと思っている。
そして、全く実感も愛情も湧かない父と名乗る人が僕に押しつけていることには未だに共感できてない。その葛藤の一年だったと言える。
「振り切った後にしっかり剣を止めよ。まだブレておる!」
でも、なかなか勉強できない日々を過ごしていても、僕は遊ばず努力だけは続けていると思う。
僕はここで頑張っていくんだ!
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「一年か。」
こういっては何だが、俺はそんなに過去を振り返る人間じゃ無い。
だが、俺の代わり映えしなかった人生があの日、がらりと変わったんだ。
そりゃ少しは感慨に耽るよ。
「ヤツら、死刑になったかなあ。強いて言えばそれだけが心残りだな。」
正直、ヤツらには感謝しているが、だからといって許すつもりは無いし、裁判官には是非とも頑張ってもらいたいと思う。
「まあ、女友達だいたい100人できたし、新入生もいるからな。ちょっと幼いのもいるが、ノリさえ良ければまあ、いいだろ。」
目下の大問題は、卒業後に何人バレッタに連れ帰ることができるかということだ。
どこの親だって他国に嫁がせるとなれば、そりゃ躊躇もするだろう。
えっ?100人も連れ帰るつもりかって?当たり前だろ。
確かアラブの王様だか石油王には500人の妻がいるそうじゃねえか。
それに比べりゃ可愛いもんだぜ。
愛?もちろんあるに決まってるだろ。
全員を愛し、毎日パーティーさ。
まあ、多分上手く行っても10人がいいとこで、残りはバレッタに帰ってからだろうけどな。
それにしても王族になれるとは運が良かったぜ。しかも超絶イケメンの絶倫だからな。
この一年は何も言うことが無いほど充実していたと言える。
「トップ オブ リア充を目指し極める。これが次の一年の目標だな。」
さあ、今日もデートだ。
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「今日も絶好のデート日和だねえ。」
僕はいつもの一張羅を着込んで待ち合わせ場所に向かう。
丁度一年前、目を開けると僕はこの世界にいた。
夢にまで見た異世界、魔法と学園のファンタジー世界。
アニメじゃなく実写版だったのはご愛敬だ。
ここに来た当初こそ、勝手が分からず適応に苦慮したけど、最近のたかちゃんは絶好調だ。
清楚で可憐な彼女と過ごす毎日はとても充実している。
これこそが僕が望んだリア充生活だ。
僕は希望を胸に、繁華街に中心にある噴水を目指して駆けていく。