戦争は不発に終わり・・・
さて、ジェニファー嬢と話し合った翌日、バレッタ王国から使者が来たので陛下とともに謁見した。
ロフェーデ王国に宣戦布告するので協力して欲しいとのことだった。
陛下は参戦を即答し、直ちに出陣準備を開始する。
私とニコラス君、ドウェイン君もここで初陣を飾ることになる。
ロフェーデは我が国の南東に隣接する国で、我が国とは建国以来の敵国である。
この近隣では最も国力のある国ではあるが、今回はバレッタ、ファルテリーニとの三カ国連合軍である。
さすがに兵力ではこちらが圧倒している。
今回動員されたウィンスロット軍はおよそ8万。これは我が国の最大兵力である。
我が国は北東に隣接するバレッタ南東のロフェーデのほかに北のサラーデンという国と隣接しているが、この国は現在内戦中であり、とても他国とやりあっている余裕は無い。
だから今回はバレッタ共々、全軍をロフェーデに投入できるのだ。
「しかし急な話だったな。」
「バレッタは相当お怒りらしい。」
「それだけじゃないよ。今まではどこもロフェーデと本格的にやり合うのを躊躇していたけど、今は三カ国とも兵力を集中できる政局にある。」
「今叩いておこうということだな。」
「そっちの思惑の方が大きいと思うよ。ローランド殿下を襲った実行犯だって単なる暗殺者だったし、殿下を本気で亡き者にしようとするならもっと本格的にやるでしょう。」
「ロフェーデが黒幕じゃないと?」
「そこまでは言わないけど、本気度には欠けるし、バレッタだってたかが賊一人の証言でいきなり戦争はちょっと先走り過ぎると思う。」
「言い掛かりなのか?」
「そうかも知れないね。ただ、絶好の機会だったことは間違い無い。」
「それが政治なのですね。」
「まあ、ドウェインは未来の騎士団長なんだから、そんな難しい事を考える必要はないさ。」
「いや、こんな危ない事したくないんだけど。」
「まあ、今回活躍すればまた、騎士団長の席が向こうから寄ってくるさ。」
「やだなあ・・・すぐに終わらないかなあ・・・」
「それはそうと、何で殿下は聖剣をモテるんだ?」
「いや、陛下が、お前の役割は敵を意気消沈させることだ、って言うんだよ。」
「確かにそれは魔王ですら倒す剣だもんな。」
「すぐ折れちゃうけどね。」
「どうせ敵に見せつけるだけなんだろう?ならそれで十分だ。」
それで十分な聖剣って・・・
「まあ、のんびり行きましょうや。」
「でも、てっきりニコラス君は馭者やると思ったんだけどね。」
「誰も俺にさせてくれねえんだよ。不思議だな。」
「一応、公爵家のご令息だよ。」
「戦に身分は関係ねえぜ。」
そんなことを語りながら、半月かけて国境に到達する。
そして、事前の手筈どおり、2月10日に参加国軍が一斉に国境を越える。
ロフェーデには20万近い軍がいるとされるが、三カ国連合軍は30万の兵で一気に首都を目指して推し進む。
特にバレッタの魔法師団は圧倒的とされていて、さすがのロフェーデ軍も各地で敗走を重ねることになる。
ここでさすがのロフェーデも諦めたか、和睦の使者が訪れたが、バレッタと我が国はこれを蹴ってさらに進軍。ここでロフェーでは全面降伏の道を選んだ。
戦闘期間僅か10日余り。あの大国があっさり白旗を上げてしまった。
私たちも全く見せ場のないまま、首都リーフェンの手前、第二の都市ベリコに入った所で戦争終結の報を聞いた。
「しかし、ほとんど損害が出ないうちに終わってよかったね。」
「学校サボれると思ったんだがな。」
「僕は勉強が遅れずに済んで嬉しいよ。」
「まあ、そんなこと言ってられるくらいが丁度良いね。」
「あまりに歯ごたえがなくて拍子抜けだがな。」
「これからどうするの?」
「とにかく戦争は終わったんだから、私たちは帰国だね。軍の本体は残って敵の武装解除なり抵抗を止めない敵の制圧に動くだろうけど、一義的には宰相と外務卿をトップとする政治の出番になる。」
「じゃあ、親父は当分それに付きっきりになるな。」
「宰相は内政の責任者でもあるから、付きっきりなのは外務卿だけどね。」
「何だよ、そっちも拍子抜けだな。」
「それで殿下、僕たちはこれで初陣を飾ったことになる?」
「さあどうだろ。戦場にいた事実は残るけど、ほとんど馬に乗って移動しただけだからなあ。初陣というにはあまりにおこがましい気がする。」
「よかった。」
「よかったの?」
「だって、騎士団になんか入りたくないし。」
「でも、騎士団の人たち、みんなドウェイン君によくしてくれてたじゃない。」
「それは父上がおっかないからだよ。」
「そうなの?
こうして、全く戦場の緊迫感を感じること無く戦争は終わり、私たちは3月4日、ブレンドンに帰還する。