また、夜の学校に・・・
「へえ、そうかい。婚約解消ねえ。」
いつもの生徒会室。
今日はローランド殿下とニコラス君、ドウェイン君がいる。
「いいんじゃないか。彼女は大人しいし繊細過ぎる。どのみち王妃は厳しかったさ。」
「そう言ってもらえると少し気が楽になるよ。」
「それに俺だって婚約者はいない。」
「そうなの?てっきり火遊びしているもんだとばかり・・・」
「俺の場合は婚約者の浮気が原因でな。破棄してやった。」
「ローランド殿下もいろいろあったんだな。」
「修道院送りにしてやったぜ。ざまぁってヤツだな。俺の留学が急遽決まったのもほとぼりを冷ますためだ。」
「それで魔術後進国のうちに来たのか。」
「まあ、性格もアレだったから惜しくはないがな。」
「それで、よさそうなご令嬢はいるかな。バレッタ国内も含めて。」
「そうだなあ。殿下の婚約者ともなればいい加減な事は言えないが、探せばいるぞ。それに、先に側妃や妾を決めてしまう手だってある。」
「確かに。でもそれをすると騒ぎが大きくなるね。」
「まあ、ハーレムサークルの中にも婚約者のいないご令嬢はいるし、殿下も一度参加してみちゃどうだい?」
「バレッタ・ウィンスロット友好懇談会ね。」
「バレッタ・ウィンスロット王子合コンな。」
「まあ、それでいいよ・・・」
「それはそうと、次の七不思議はどうする?」
「いきなりだねえ。」
「気分転換に丁度いいじゃないか。」
「後はトイレと食堂だね。」
「トイレは嫌な予感がするし、包丁は危険だよね。」
「おいテンコー、いるか?」
「いつもいるよ。」
「どっちが安全なんだ?」
「どっちもやば目だね。旧校舎のトイレは禍々しい空気が漂ってるし、食堂だって結構張り詰めてるよ。」
「トイレって所謂花子さんだよねえ。」
やっぱり花子さんもいる世界なんだ・・・
「面白そうだな。先にやっつけちまうか。」
「あれって幽霊?妖怪?」
「○○○の鬼太郎に出てこなかったから幽霊じゃないか?」
「見た目はネコ○そのものなんだけどな。」
「今回は危険だからメンバーは厳選しよう。」
「いつも厳選はしてるんだけどな。」
「役には立たねえが、ジェームズは連れて行く必要があるぜ。」
「大丈夫かな・・・」
「あれでも一応は教師だ。呼べば来るだろう。」
ということで、フラワーチャイルドの謎の解明をすることになった。
そしてやはり23:00に玄関前に集合する。
今回は旧校舎3階のトイレが舞台である。
行くのは私とローランド殿下、ニコラス君、ジェームズ先生の3名にミントとテンコーという布陣だ。
ドウェイン君とゴールドバーグ嬢が旧校舎玄関前、クリフ先輩とケント先輩が中庭、オリヴィア先輩とカーラ先生が保健室で待機となった。
「さすがに夜は信じられんほど寒いな。」
「出てきてくれるといいんだけど。」
「大丈夫。いるよ。」
「テンコーが言うなら確かだな。」
一行は三階に上がり、西側のトイレに向かう。
夜の校舎はいつも蕗見だが、木造の旧校舎は風情が5割増しだ。
さすが、お化け屋敷の会場になっただけのことはある。
「しかし、何で和式なんだ?」
「古いからじゃねえのか?」
「いや、そういう問題じゃなくってだなあ。」
「和式じゃないと引きずり込めないからだろ?」
「花子さん前提の造りって訳じゃねえだろ?」
「演出だよ、きっと・・・」
ローランド殿下とニコラス君では、どうしてもこういう会話にしかならない・・・
そして、問題のトイレに到着する。
「んで、どうするんだっけ。」
「奥から三番目のドアをノックして呼び出すんだよ。」
「ところで、男子、女子どっち?」
「女子用トイレの三番目、ペンキで落書きされてる。」
「そっちで間違いないな。」
「じゃあ、先生よろしく。」
「僕が呼び出すのかい?」
「そりゃ、両殿下にそんな危険な事させられないだろう。」
その前に、そんなとこ来るなよって話なんだが・・・
「分かったよ・・・」
先生が一人でトイレに入る。残りのメンバーは入口で待機だ。
もし戦闘になったとしても、この人数で動くには場所が狭すぎるためだ。
コンコンコン!
「フラワーチャイルドさん、遊びましょ!」
「は~い!」
「うわぁっ!」
先生は尻餅をつく。
私たちもちょっとビビった。
「先生、扉を開けるんだよ。」
ローランド殿下、結構厳しい。
既に半泣きのジェームズ先生は、それでもノブに手をかける。
「いらっしゃ~い!」
ドアが開いた。決して先生が開けた訳では無い。
「久しぶりのお客さんね~。あらっ?いい男じゃな~い?フラワー、嬉しい!」
いきなり出てきた幽霊の正体は、白のシャツに赤い花柄のワンピースを着た、想像通りの花子さんだった。
そして、フラワーさんはジェームズ先生に抱きつくとギュウギュウ締め上げているように見えるが、何故か危険な感じはしない・・・
「何か、既視感あるよな。」
「た、助けてくれ~!」
「何よ~、遊びに来てくれたんでしょ?」
「ありゃ、ジェームズに任せときゃ大丈夫だよ。帰るか。」
「まあ、少し話を聞いてみるべきなんじゃない?」
「そうだな。解決しないといけないんだもんなあ。」
先生は押し倒され、容赦なくキスの嵐に見舞われている。
「フラワーさん、ちょっと話をさせてもらってもいいかな?」
「な~に~、いいわよ~。」
「あの、男性ということでいいんですよね。」
「まあ失礼ねっ!見た目も心も乙女よ!」
「声・・・」
「失礼しました。オネエ様ということでよろしいでしょうか。」
「いうほど年は取ってないわよ~。永遠の12才だから~。」
「何で小学生が高校のトイレにいるんだ?」
「だって、この国にはここしか学校が無いじゃない?」
「そりゃそうか。」
納得しちゃうんだ・・・
「申し遅れましたが、私、ここの生徒会長をしておりますミッチェル・アーネットと申します。そこにいるのは教師のジェームズです。」
「まあ、ジェームズ先生ね。いい名前だわ~。」
「先生が気に入られたようですね。」
「アタシを呼んだのは彼だからね~。」
ご愁傷様・・・
「ところで、こんな所で何してるんだ?」
「出会いを求めてるのよ~。」
「旧校舎じゃ人は滅多に来ないだろ?」
「だから厳選されたメンバーが来るんじゃない。」
「やっぱり、中に引きずり込むのか?」
「若い頃はヤンチャしたわねぇ。でも今はしないわよ。」
「いつからここに?」
「まだここが使われてた時代からだから、もうかれこれ60年は過ぎてるわね。」
「やっぱりババアじゃねえか!」
「失礼ね!幽霊は年なんて取らないんだからっ!」
「失礼しました。申し訳ございません。それで、その、成仏などはご希望されませんか?」
「な~に~、あなたたち、祈祷師系?」
「いや、我々は違いますが、確かな腕を持つ知人はおります。」
「言っとくけどあんなのはインチキよ。アタシだって昔ビデオ撮影でキャーッ!祓われちゃう、苦しいーって迫真の演技をしてあげたことはあるわ。」
結構サービス精神旺盛な人だ。
「一応、聖女様でここの初代校長も浄化したほどの方なんですが。」
「まあ!そんな人がいるのね。でも、アタシは別に今の生活に不満は無いわよ。」
「そうなんですね。」
「そこの幽霊だってお祓いされてないんでしょ?」
「ご紹介が遅れました。私、イリュージョニストのピート・テンコーです。」
「あ~知ってる!水中爆発飛び出すシャーク+激辛カレー地獄からの脱出を見に行ったことあるのよ~!」
「おお、我が傑作イリュージョンを見られた方なのですね。」
「凄かったわぁ。出てきた時はかなり余裕無さそうだったけど。」
「ちょっとカレーが辛すぎて・・・」
「あれって、本当に辛いカレー食べてたのね。」
「いや、予定では赤く着色したカレーにするはずだったんだけど、バイトスタッフに伝わってなくて・・・」
何の話をしてるんだろう・・・
「まあ、それはともかく、校内で良くない噂になっていることもあって、何とか事態を解決したいと考えているんです。ご協力願えますか。」
「ジェームズをくれるなら良いわよ。」
「よし決まりだ。」
「え~っ、助けてくれないのかい?」
「独身だからいいじゃねえか。どうせいないんだろ。」
「まあ!こんないい男が独身なのね。決めたわ。会長に協力するっ!」
解決した・・・