婚約破棄に向けて
私は次の日、陛下にジェニファーの件を伝える。
「そうか。かなり危ういとは思っていたが、そこまでか。」
「はい。最近の彼女の様子からかなり思い悩んでいることは知っておりましたが、どうやら本心のようです。」
「何とか説得はできないのか。」
「もう一年も悩んでいると言われてしまうと、なかなか・・・」
「お前ももう16だ。今になって辞退は厳しいぞ。」
「ヒルマン卿からはまだ何も言ってきておりませんか。」
「さすがに公爵家も言いづらいのであろうな。」
「確かに公爵家の立場では難しいでしょう。ですので私からお話させていただいております。」
「お前の気持ちはどうなんだ。」
「私は彼女の希望を聞いてあげたいと思いました。」
「何とかならんのか。」
「本人の辞意は固く、このままでは彼女自身が病んでしまいます。」
「それほど酷いのか。」
「残念ながら。」
「そのようなご令嬢にはとても見えんかったのだがな。しかし、最近は以前の元気が全く無かったから心配はしておったのだがな。」
「突然の変わりように私の驚きましたが、あの様子では妃教育の継続すら難しいと存じます。」
「それでどうする。揉めるだろうし、諸侯から責任追求の声が上がることも考えられる。」
「今回の責任は全て私にあります。公爵家には咎めの無いようにお願いしたいと存じます。」
「お前だけの責任ではないが、そう簡単なことでは無いぞ。」
「これは私の力不足でもあります。いかなる罰をも受ける所存です。場合によっては王位継承権をフィリップに譲っても構わないと考えております。」
「馬鹿な事を申すな!それを含めて簡単なことではないのだ。」
「申し訳ございません。」
「今回のことはお前の失点でもある。しかし、だからといってそう簡単に投げ出せるような軽いものではないぞ。」
「はい。」
「もしお前の言うとおりの結末になろうとも、それを挽回する解決策を見出すのが王族の責務よ。」
「他に候補を募るしかないと考えております。」
「再度の説得を含めて対応を考えよ。お前もいい歳だから余裕は無いし、他家も今からは中々出せんぞ。」
「分かっております。しかし、説得できたとしてもあの様子では将来の王妃としての責務を果たすことはできないと判断しております。」
「分かった。公爵を呼べ。」
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「陛下、此度のこと、全てこの私の不徳の致すところでございます。」
「それは良いが公爵、翻意を促すことはできそうか。」
「大変申し上げにくいところではございますが、私の力をもってしても分かりかねます。」
「そうか・・・」
エドガーは長いため息の後、しばらく沈黙する。
「できることなら余も二人には幸せになって欲しいとは思うておる。しかし、王族の結婚となればあるていどの不自由や忍耐は避けられん。」
「おっしゃるとおりでございます。」
「だが、こちらが無理を通すのも気の毒なくらい憔悴しておるであろう?」
「はい。ずっと沈んだ表情のままでございます。」
「ではミッチェルよ、卒業までは婚約を継続する。その間に水面下で別の候補者を探すこととする。見つからなければジェニファーには申し訳ないが、据え置きとする。公爵もそれで良いな。」
「承知仕りました。」
ヒルマン・フレミングは帰って行った。
「さて、候補に心当たりはおるのか?」
「いえ、今のところは全く白紙でございます。」
「例え水面下と言っても、それはあくまで建前の話。こういったことはたちまち諸侯の間に広がることになる。面倒事が増える前に早めに探すことだ。」
「学校を中心に探してみることにします。」
「伯爵家以上のご令嬢はもうほとんど婚約者が決まっておろう。そして、その婚約破棄も起こるであろうな。それが、お前の判断の結果であるし、お前が王となる際の試金石ともなる。心して掛かれ。」
「はい。それとフィリップの婚約者探しも本格化させるべきではないかと存じます。」
「そうだな。お前が事態の収拾に失敗した際のことも考える必要が出てきたな。」
「弟には申し分けありませんが。」
「まあ、どうせ近々決める必要はあったのだ。それで、お前は誰か良い者に心当たりは無いのか?」
「お恥ずかしながら、今までそのようなことは全く考えておりませんでしたので。」
「そうか。他国を含めて考えた方が良いな。それと聖女がおったであろう。」
「男爵令嬢ですが。」
「過去には平民を高位の者の養女として王族に嫁いだ例もある。フレミングに責任を取らせて引き取らせる方法もあるぞ。」
「あまり気乗りはしませんが。」
「選り好みできる立場ではないことを理解せよ。よいな。」
「畏まりました。」
こうして、ジェニファーとの婚約を解消することを基本とし、新たな婚約者を探すことになったが、さて、どこかにいるのかなあ。
ローランド殿下なら顔も広そうだし、相談してみるか。