ジェニファーは対策を練る
私がこの世界に降りたって間もなく1年。
そして、このゲームはあと2年でエンディングを迎えることになるわ。
まだ序盤が終わった段階で、先を見通すことは難しいけれど、恐らく、最悪のパターンは回避できていると思うわ。
私が犯罪行為をせず、王子に対して距離を保ち、聖女に手出ししなければ、少なくとも私が悪役として処断されることは無いと思うの。
もちろん、何もしないことで、先日の孤児院訪問みたいに、高位貴族の義務を果たしていないとか陰口を叩かれることはあるわ。友人も随分減ってしまったしね。
でも、私に突っかかって来るのはキャロライン・ゴールドバーグ嬢くらいだし、あの子もそれほど当たりが強いというほどでは無いので、ここまでは平穏に暮らしているとは言えるわ。
まずこれが、私個人に関する現状確認ね。
そして、ストーリー全体を見たときに、ヒロインが誰のルートに入ったかは依然、分からないわ。
あの感じだと、まだどのルートにも入っていないと考えるのが妥当ね。
このまま誰のルートにも入らない場合、バッドエンドに向けた警告イベントが起きると思うけど、きっとその前にサービスイベント連発で回避できるはずよ。
バッドエンドなんて故意に狙わない限り、そう起こることじゃないもの。
では、ヒロインは誰を目指すか、となるとこれが全く読めない。
まだ誰のルートにも入っていないということは、攻略対象たちが抱える悩みや葛藤が解決されていない状態なのは間違い無いわ。
このまま行くと、各攻略対象の心の歪みが大きくなり、表面化するので、ヒロインは嫌でも関わらざるを得なくなるはず。
本来ならここまででも攻略対象に声を掛けるだけでそこそこゲージは上げられるはず。
ここまで何も無いのは、彼女が絶望的なほど初心者か、逆に超上級者が縛りプレイしている状態ね。
じゃあ、ここから私が取るべき行動が何かを考える必要があるわね。
まず、ミッチェル殿下との婚約破棄は既定路線ね。ヒロインが超上級ならここからハーレムだろうし、超初心者でもここに流れ着く公算が高いわ。
ここで殿下との関係を切ってしまえば、殿下の側近であるニコラスとドウェインルートについてもジェニファーの影響力は皆無になるはずよ。
残るはローランド殿下とジェームズ先生だけど、こちらは二人とも攻略難易度の高いキャラなので、彼女が逆ハーを狙って射る場合のみ注意していればいいわ。
とにかく、私の個人的な評価がどこまで落ちようと、犯罪を犯さなければ断罪される謂われは無いわ。
濡れ衣を着せられる可能性はあるけど、大概のことは公爵家の力で何とかなると思うし、それ以前に、そんな恨みを買う覚えは無いわ。
「あの、お嬢様?」
「うん?なあに。」
「その、何かお悩みごとでも・・・」
「そうね。悩み事と言えばそうかな。」
「やはり、殿下のことでしょうか?」
「あら、殿下に会うことのないメアリーに分かっちゃうようじゃ、私もまだまだね。」
「今のお嬢様が殿下に嫌われるとはとても思えませんが。」
「上手く嫌われるというのは、好かれるよりずっと難しいものですね。」
「フフッ!そうでございますね。お嬢様には無理かと存じます。」
「でも、どうしてもそうしないといけないのよ。」
「私には難しいことは分かりませんが、お嬢様は幸せを掴むべきだと思います。」
「ありがとう。」
もし、このままストーリーが進めば、私はどうなってしまうのでしょう。
メアリーには申し訳ありませんが、みんなの期待には沿えそうにもありません。
このまま修道院に行くなら、それが最善な気がしますね。
「私は、フレミングの家が安泰なら、それでいいのですよ。」
「旦那様はそれで良しとはしないはずです。」
「そうね。何とかお父様を説得しないといけませんね。」
「差し出がましいことを申しますが、このままお嬢様が王妃様になる訳にはいかないのでしょうか?」
「ごめんなさい。私に幸せになる運命はないのよ。」
「そんな・・・」
「メアリー、このことは内緒ね。それと、お茶が飲みたいわ。」
「畏まりました・・・」
やはり、お父様を説得するのが先決なようね。
その前に当面すべきこと、してはいけないことについて、考えをまとめましょう。
まずは、今までどおり攻略対象とヒロインには近付かず、絡まずを徹底しないとダメね。
その上で、次の交流会は絶対に欠席しないと、魔族に乗っ取られるイベントに巻き込まれる可能性が高いわ。
私はこれから怒ることも大体は把握しているから、本当はみんなと協力してバッドエンド回避に協力すべきだけど、薪込めれるリスクを考えると、それもなかなか難しいわね。
そう考えると心苦しいけど、遠巻きに見守るしかないわね。どうせならモブだったら良かったのに、悪役令嬢ではちょっかいを出して最悪のシナリオを演出してしまいかねないもの。
「お嬢様、お茶とお菓子をお持ちしました。これで元気を出していただければ・・・」
「ありがとう。いただくわ。」
私に何かできることはないかしら・・・