新年祭
さて、新年は王宮でも公式行事が多く執り行われる。
早朝から中央教会のミサに参加し、帰って来てからは陛下の諸侯に対する新年の挨拶が行われ、第一王子である私も諸侯の表敬を受ける。
そして午後からは宴と称して、大広間にて立食形式のパーティーが行われる。
「新年、明けましておめでとうございます。殿下にとって、今年が良い年でありますこと、お祈りしております。」
「ありがとう。ニコラス君にとっても良い年であることを祈っているよ。」
「でも、ニコラス君もやればできるんだね。」
「まあ、その気にならないとできないがな。」
「しかし、とても多いですね。」
「新年の挨拶は早い方がいいと考えるのは、無理もないな。」
「それに、今日は男爵や子爵でも王族への訪問が叶うし、科長や連隊長以上なら爵位さえ必要無いからね。」
「だが、一番大変なのは料理人だよな。」
「ひっきりなしだし、これを準備しながら夜の王族晩餐会の段取りも同時に進めるんだ。」
「どんだけ重労働させてんだよって感じだな。」
私たちはテーブルから主だった料理を取って控え室に移動する。
主だった諸侯とは既に挨拶を交わしており、控えに下がっても特に問題はない。
「ミント、ごはんだよ。」
「ありがとーっ!」
「ご先祖様もいかがですか?」
「さすがに食べることはできないわね。でも、あれが今の王なのかしら?」
「できれば、挨拶でも。」
「いいわ。ジョンほどの色男でもないし。」
「ジョン王って、あのちょっと頼りなさそうな肖像の方ですよね。」
「誰よ、あんな素人に描かせたのは。」
「まあ確かに、いくら昔の絵でも、あれはねえよなあ。」
「提出したら、先生に説教喰らうレベルだよね。」
「描いたの、エリックだけどね。」
「絵が下手でも校長にはなれたんだな。」
「さすがに後で文句言っといたけどね。」
「それはそうと、これから王族の晩餐会じゃ無い?」
「今日最後のイベントだよ。」
「そしたら、婚約者殿とお食事なのか?」
「そうだね・・・」
こうしてしばらく控え室で雑談した後、ニコラス君とドウェイン君は帰宅し、私は晩餐会場に向かった。
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今日は新年祭に出席するため、朝から登城しておりました。
大聖堂での礼拝や陛下の挨拶、各諸侯との懇談など、公爵家の著所として、また、ミッチェル殿下の婚約者として、やることはたくさんございます。
確か、昨年はここで別の公爵令嬢と大立ち回りを演じ、大層顰蹙を買ったはずです。
また、夜の晩餐会でも、かなり見苦しいアピールを行い、さすがのお父様も一週間ほど顔を合わせてくれなかったと記憶しております。
「しかし、今日登城してくれて助かったぞ。」
「何やらよからぬ噂が立っておりましたね。」
「お前の姿を城で見ることがめっきり減ったからだろう。学校に通っているからさすがに病気説は出ていないが、何かはあったと勘ぐる者が増えておる。」
「申し訳ございません。」
「全く、お前は丁度良い匙加減というものができんのか?」
「最善は尽くしております。」
「フレミング家にとっての最善を考えてくれると有り難いのだがな。」
お父様、ごめんなさい。どうやら期待に添えそうにはございませんわ。
そう思いつつ、晩餐会嬢へ向かいます。
「新年あけましておめでとうございます。殿下におかれましては、本日もご機嫌麗しゅう存じ上げます。本年も殿下にとって良い一年となりますこと、心よりお祈りしております。」
まんま日本の正月ですが、日本人用にセッティングされた世界ですので年初の挨拶はこうなります。
「これはご丁寧に。私もジェニファー嬢にとって心穏やかな一年になりますことをお祈りしております。」
こうして王族方全員と挨拶を交わした後、席に着きます。
ここ最近は、緊張してばかりの晩餐会です。
まあ、以前は皆さんに緊張を強いる側だった訳ですが・・・
「それにしても、ジェニファー殿の最近の成長には、目を見張るものがあるのう。」
「陛下にそうおっしゃっていただけるとは、このヒルマンにとってこの上なき光栄なことでございます。」
陛下にはそうおっしゃっていただけたのですが、王妃殿下の強い視線に思わず伏し目がちになってしまいます。
「しかし、大人になったのは目出度いことであるが、親としてはちと寂しいのではないかな。」
「はい。その変化があまりに急で。」
「母としても、もう少し我が儘を言ってくれるものとばかり思っておりました。」
「うちのミッチェルも同じよ。いつの間にか親が必要とされなくなっておる。それも事後突然に分かるのよ。此奴はもう仕方ないが、クラリスとフィリップがいつかそうなると思ったら寂しくて仕方無い。」
「そうですな。私も今、それを噛み締めております。」
「ジェニファー、あなたも黙っていないで何かおっしゃいなさい。」
「母上・・・あの、ロフェーデ王国の件はどうなるのでしょう。」
「うむ。バレッタが今すぐにでも攻め込む勢いじゃな。そうなると我が国も友好国として兵を出すことになる。」
「そうですな。ロフェーデにはこれまでも幾度となく煮え湯を飲まされてきた訳ですし、今回のことでバレッタ、ファルテリーニの三国と同盟締結ということになれば、ヤツらを降伏させることも十分可能になりますからな。」
「ミッチェルよ、もしかすると初陣になるやも知れん。心構えだけは十分に決めておくことだ。」
「承知しております。陛下。」
思わぬ所に飛び火してしまいましたが、何とか誤魔化せたようです。