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巡礼の旅に出る

 期末テストが終わればすぐに冬休みよ。


 3週間程度しかない短い休みだけど、クリスマスやお正月があって、楽しかった思い出があるわね。

 このスペ体質の世界でもクリスマスと新年は大切なイベントが目白押しよ。


 逆ハーエンド以外を目指しているなら、だいだいここら辺りではルートを決定しておかないとね。

 でも、アタシはよりにもよって教師Jからマンツーマンでの魔法研究に誘われてしまったから冬休みは逃亡することに決めたの。


 どこに行くかっていうと、バレッタ王国との国境に近いコルビー神殿よ。

 ここは聖女であれば一度は必ず訪れるという特別な場所なの。

ただし、ゲーム中ではバッドエンドを避けたい場合に攻略相手と訪問する「聖女駆け込み寺」みたいな扱いなの。

 ここを今回も駆け込み寺として使わせてもらうわ。

 クリスマスや新年の礼拝は、別の聖女様や大司教様がいれば何とでもなるわ。


 ということで王都ブランドンから馬車で1週間かけて神殿に到着。

 奇しくも今日はクリスマスイブね。


 いかに聖地とはいえ、雪が積もるこの時期に訪れる人は少ない。

 私も本音を言えば、暖かい部屋でみんなと一緒にケーキを囲んで楽しい時間を過ごしたいわ。

 でも、Jなら今日を選んで研究とか言いだしかねないし、色んな意味でシャレになんないくらいの危険を感じるからね。

 もしかしたら、モブでいいから早く彼氏を作った方がいいのかもね。


 ところで、この世界にはキリスト教は無いけども、それを明らかにモデルにした宗教は存在してて、12月24日は聖誕祭って呼ばれてるの。

 その日は特別な祝日で、聖女である私も祭壇に祈りを捧げる。

 きっと、王都にいたとしても、大聖堂で祈ることにはなっていたわね。

 まあ、その前後にJの個人授業があったんだろうけど・・・


 そして次の日。

 アタシは神官の案内で、コルビー神殿にほど近いエルムズゲートという祠に行った。

 ここも聖地だという。


「神官様、ここはどういった謂われのある場所なのでしょう。」

「はい。コルビー神殿は古の魔王バロールの魂を浄化した場所として、歴代の聖女様に祈りを捧げて頂いているのですが、バロールの頭、心臓、利き腕、その他の部分、装備品を各地に散らばる祠に分散して封印しております。」


「なるほど、万が一の際にも容易に身体を取り戻せないようにということですね。」

「そのとおりでございます。神殿にはバロールの心臓、この場所には彼の利き腕が封じられているとされております。」

「でも、分散させているということは、それぞれかなり弱体化が成功しているという事なのでしょうか。」

「はい。ただし、その他の部分を封じた場所が長い年月の末に分からなくなっている所が懸念すべきところではございますね。」


「そんな重要な事が不明になってしまうのですか?」

「はい。前王政末期に教会と激しく対立し、混乱した時代がございまして。このため、今やこのことを知っているのは教会上層部を除けばこの神殿の高位神官のみで、王家ですらこの事実は知られていないはずでございます。」


「対策を早急に打った方が良いのではありませんか?」

「そうなのですが、どうしても祠の場所が分からず、また、信徒の不安を煽る訳にも行かず、先送りになっているのでございます。」

「そうですか。私も不勉強で詳しくは知らなかったのですが、何故、この神殿を聖女が必ず訪れないといけないのかが良く分かりました。」

「神殿の方は、各国の聖女様などを含めて数年に一度程度の頻度で祈っていただけますが、それぞれの祠にお越し頂ける機会はあまりないため、大変有り難く存じておるところです。」


 アタシだって、Jから逃げる口実でここまで来てるからね。

 家に帰るのも新学期直前の予定よ。

 そして、祠の扉を神官に開けてもらい、アタシは祈りを始める。

 本当はこんな寒い中、ひたすらに祈るなんてしたくなかったんだからね!

 全部アイツが悪いんだからね。


 ここに祭られてる腕だか何だか知らないけど、八つ当たりよ!

 この世界のチートヒロインの本気を受けてみなさい!

 アタシ渾身の祈りは神に届いたか、いつもとは比べものにならないくらいの太い光の束が天から降り注ぐ。


「おおっ!これは・・・」

 神官達もビックリ。正直アタシもビックリよ。

 何か炭酸飲料のCMみたいなシュワ-って音と同時に光が降り注ぐと、アタシの身体も光り始めたの。

 すると、祠の中の置物がガタガタ揺れて、中からうめき声のような物まで聞こえ始めたの。

「グググッゴゴガァッ!」

 アタシだって生まれて初めての本気よ!


「何か知らんけど、消えてしまいなさい!」

 さらに力を込めると何かが弾けた。

 周りはどんどん白く眩しくなる中で、クライマックスを迎えているのが分かったわ。

 さすがはヒロインね。

 そして、少しづつ元の風景が色を取り戻して行き、音も戻って来た。


「さすがで・・・」

「素晴らしいです。聖女様。」

「私もこれほど本気を出したのは、もちろん初めてですわ。」

「何かうめき声が聞こえましたね。」

「ここの遺物は完全に浄化された上で封印されているのですよね。」

「そのはずでございます。」

「しかし、過去に何度かバロールは復活しております。」

「それってきちんと浄化されていないってことじゃないの?」

「原因は良く分かっておりませんが、数百年から三千年周期で復活するとされております。」

「随分ばらつきがあるわね。」

「ですから、聖女様の巡礼はとても重要なのです。」

「まあ、役に立てたのであれば、それでいいわ。」


 その後、新年の祈りをコルビー神殿で行って帰路に就き、始業式前日に王都に戻ってきたわ。

 疲れたけど、教会からもかなり感謝されたし、良い旅だったわ。


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