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苦情処理から戦争の足音が

 文化祭が終わると、生徒会は年明けの孤児院訪問まで比較的ゆとりがある。

 こういう時に生徒からの苦情を処理し、実績を積み上げて行く事が重要だ。



「ということで、生徒からの要望や投書ってあるかな。」

「最近、婚約者が放課後に時々姿を消すっていう投書が複数ありますね。」

「そりゃ、隣の部屋だね。」

「食堂のメニューと味の改善について来てるぜ。」

「それは永遠の課題です。殿下。」

「きっと毎年要望があるんだろうね。」

「あと、前庭での不審者情報が来ておりますね。」

「間違い無くジェームズ先生だよ。誰かそれとなく伝えといて。」

「殿下が適任では?」

「・・・分かりました。ほかには?」

「男女問わず、スカートは短くても良い事にして欲しいそうです。」

「却下。ここは一応紳士淑女を目指す人たちが集う場所だよ。」

「まあ、生徒会が許可しても陛下からお叱りが来ては、本末転倒だね。」

「本当にこれと言ったものは無いんだね。」


「これなんてどうです?」

「なになに?男子寮に夜、不審者を見かけます。さすがにコワいので対応願います。」

「ジェームズ先生、怪しすぎる・・・」

「いや、多分違うよ。でもこれって、学校が対応すべき問題だよね。」


 この学校には、地方から出てくる貴族のために寄宿舎が併設されている。

ちなみに、生徒会では留学生であるローランド殿下が入っている。


「でも面白そうじゃねえか。」

「多分、魔族や盗賊に比べれば安全だよ。」

「私はあまり気乗りしないんだけどなあ。」


 隣の部屋でのお茶会を終えたローランド殿下も交えて、方針と作戦を決める。

 ローランド殿下も不審者の噂は知っていた。


「協力してくれるならありがてえな。」

「任せとけ。幽霊で無いなら、ドウェインだって戦力になるはずだ。」

「目撃情報は宿舎の玄関近辺に集中してるが、そもそも夜間に外をうろつく生徒なんていないからな。どうしても出入口に目撃が集中するだろう。」

「誰かを見張っているんじゃないか?」

「一番位の高い人はローランド殿下だよ。」

「あそこにいるのはほぼ地方貴族の子弟だから、見張る必要はないだろうな。」

「やはり狙いは殿下だな。」


「それで、不審者って男なの?」

「女には見えないようだ。」

「じゃあ、そっちの線は無いね。」

「どっちの線だよ。」

「でも、ローランド殿下は気を付けて下さいね。男性の恨みは買っていると思いますよ。」

「たとえそうであったとしても、ウィンスロット王国としての面子もある。やはり不審者の問題は生徒会ではなく、私が解決しよう。」

「さすがは殿下。盗賊の時と同じ流れだな。」

「アタシも行きた~い!」

「当然、私のイリュージョンにも期待してくれるよね。」

「じゃあ早速、夕方から張り込もう。ローランド殿下は早めに寄宿舎に入ってよ。」

「まあ、しゃあねえな。」


 ということで、私、ニコラス君、ドウェイン君といういつものメンバーで寄宿舎に二つある門の付近に張り込み、ローランド殿下が建物内、ミントとテンコーが玄関付近といった配置で不審者を迎え撃つ。


「しかし、いつ来るか分からないんだよな。」

「今日かも知れないし、明け方かも知れない。」

「交代で休むことにしよう。テンコーやミントは疲れ知らずなんだから。」


 そう言いつつ、それぞれの持ち場に分かれて1時間ほど、夕闇迫る時間帯にミントが飛んできた。


「殿下、変な人いるよ。」

「玄関の方?」

「うん。今、テンコー君が見張ってる。」

「もう、そのままテンコーが鎖で拘束しちゃってもいいよね。」

「任せて、テンコー君に伝えてくるよ。」


 彼らは完全に人から認知できないレバルで姿を隠せるのだから、国家機密級の隠密だと思う。

 ところで、過去にはゴーストやフェアリーを使って勢力を躍進させた人物はいなかったのだろうか、なんて下らないことを考えつつ、寄宿舎の玄関に到着。


 ジェームズ先生ではない男性がすでに鎖で絡め取られている。

 彼がたとえ善良な一般市民であったとしても、こっちは王族だ。問題無い。


「あなたは本校の教職員ではありませんね。こんな所で何をされているのですか。」

「あ、あの、別に私は怪しい者ではないのです。この鎖を外していただけるとありがたいのですが。」

「私はこの国の第一王子で、この学校の生徒会長をしております、ミッチェル・アーネットと言います。まずは私の質問にお答え願いたい。」

「こ、これは殿下。大変失礼いたしました。私の名はチャールズ・グレンジャーと申します。」

「ほう、グレンジャー侯爵家の者ですか?」

「傍系ではありますが。」

「それで、ここで何を。」

「いえ、少し知り合いに会いたいと思いまして、ここで待っていたところなんです。」

 ここで、ミントに呼ばれたローランド殿下も到着する。


「ならば俺がその者を呼んで来てやろう。誰だ?」

「あいや、どうも今日はここにおられないようで、失礼いたしたいと存じます。」

「おい待てよ。それじゃ不法侵入者と何一つ違わねえじゃねえか。」

「しかし、名は名乗っておりますし。」

「侯爵家ならすぐそこだな。お手数ではあるが、ご同行願えるか。」

「・・・せ、せめて鎖は外していただけると。」

「悪いが、俺たちゃそこまでお人好しじゃねえんだよ。」


 そうして急遽、グレンジャー侯爵家に赴き、当主直々に面会したが、チャールズは次男坊で、拘束されている者とは全く似てもいないことが判明し、そのまま騎士団に引き渡された。


 そして後日・・・


「先日の不審者、どうやらロフェーデ王国の人間だったらしいね。」

 ロフェーデとは、我が国とバレッタ王国双方と隣接する国だが、近年、対立が深まりつつある。

 このため、我が国はバレッタとの連携を深めると共に、ロフェーデの東にあるファルテリーニ王国との関係も重視し始めている。

 ニコラス君の婚約者も、そういった事情で遠き国からやって来る予定なのである。


「どうやらヤツの狙いはローランド殿下で間違い無い。そして殿下に危害を加えることができなくても、両国間に溝が出来れば良しということのようだね。」

「先日の文化祭での攻撃といい、これは一度ガツンと分からせてやった方が良いな。」

「あれはロフェーデが関与した証拠は無いけど。」

「ミッチェル殿下じゃなく俺を狙う動機を持った者なんて、他にいねえぜ。」

 いや、結構いるとは思うんだが・・・


「まあ、これはすぐに親父に報告だな。場合によっては戦争だ。」

「おいおい・・・」

「先日の盗賊だってロフェーデのせいにすりゃいいじゃねえか。」

「いいのかなあ・・・」

「歴史ってのは、結構こういった捏造や言いがかりが溢れているんじゃねえか?」

 やる気満々だし・・・


 何か、嫌な予感しかしない・・・


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