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お化け屋敷の攻防

 今日は待ちに待った文化祭。

 恋には欠かせないイベントだよね。

 高校でも大学でも、若い男女が近付く一代イベントだったじゃない。

 たかちゃんは絶対にオタクの壁を越えてみせるっ!


 って臨んだまでは良かったんだけど、お相手がいない。

 いや、いろいろお誘いはしたんだけど収穫無しでこの日を迎えてしまった。

 しかも二日とも午前中は魔法の実演を監督することになっている。


 だけど、実演できるほどの実力がある生徒って軍人志望の男子生徒ばかり。

 ピンクちゃんには演劇に出演するからと逃げられてしまった。

 これではノーチャンスである。僕だってお近づきにさえなれれば、良い所はたくさんあると思うし、何より大人だ。

 でも、ノーチャンスではこの有り余るポテンシャルを活かすことが出来ない。


 何とか午前中は我慢して真面目に監督し、午後はネルソン先生に代わってもらい、僕は校内をさまよい歩く。

 もううちの生徒で無くてもいい。何だったら一般市民だっていい。


 でも、文化祭や学祭に来る女子って基本、陽キャなんだよね。今まで積み重なっていた失敗体験のダメージで上手く誘えず、やって来たのは旧校舎。

 そういや、今日はお化け屋敷やってたよなあ。

 もしかしたら震えて立ち往生してる女子がいるかもと思い、入場してみる。


「何かすごく良くできてるなあ。」

 中は照明が明滅し、不気味なピアノの音が響く。

 そしてかなりの入場者がいるのか、あちらこちらで悲鳴が聞こえる。


「ああ、やっぱりここは女性と一緒にくるべきだよねえ。」

 立ち往生している女性を探してみたが、さすがに女性一人でこんな所をうろつく人はいない。


「みんな男連れか大人数の女性グループばっかりだな。」

 そう思っていると、不意にある考えが浮かんだ。

 もしかして、この暗さと恐怖心を利用すればいいんじゃない?

 ほら、みんなスカート短い訳だし・・・

 彼は3階に向かう階段にたどり着くと周囲を念入りに確かめる。


「これならいける。」

 そして近くの教室にあった教壇と、生徒用の机に一つだけ置かれていた花を生けた一輪挿しを拝借し、階段の下にセットし、中に潜んだ。


「僕の熟達した風魔法の力を今こそ活かす時だ。」

 お化け屋敷の中なら、不意に風が起きたところで、誰も不審がらないはずだ。

「ちょっとエッチかなあ。グフッ、グフフ・・・」


~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/ 


 さて、今日はお楽しみの文化祭。

 俺もは生徒会役員としての仕事はあるが、それほど忙しい訳じゃない。

 だから、先日の合宿訓練でパーティーを組んだB組のアンジェリカ・ホイットン嬢、C組のキャシー・ダグラス嬢、D組のマライア・ロンバーグ嬢を誘った。

 残念ながらA組のシェリー・クレヴァリー嬢は午後から演劇の本番があるので、今日は誘えなかった。


 そんな俺がどこにいるかって?そりゃお化け屋敷に決まっている。

 吊り橋効果ってヤツを利用して、彼女たちのハートを鷲づかみだ。

 俺は本物のお化けも知っているし、その彼が仕掛けるイリュージョンと妖精のイタズラである。

 全く怖くない。

 うん?何かおかしな事を言ったか?


「ニコラス様、やっぱり怖いです。」

 さすがに三人にしがみつかれると非常に歩きづらい。

 でも、みんなプルプル震えてて萌える・・・


「俺がついているから大丈夫だよ。それに、ダンジョン攻略実習の方がよっぽ恐ろしいみたいだぜ。」

「本物じゃないんですよね・・・」

 本物だよ?


「キャッ!」

「火の玉です。」

 火の玉が俺たちに纏わり付くように飛んだ後、頭上で静止する。

 単にミントたちが光を発しながら飛んでいるだけだが、本当に良く出来ている。

 ピアノ線では絶対に出せない素晴らしい動きだ。


「大丈夫だ。さあ、先に進もう。」

 その後、追いかけてくる骸骨を危うく壊しそうになりながらも、何とか3階の階段に到達する。


「さあ、これで半分はクリアだ。みんな良く頑張ったな。」

「はい・・・」

「ありがとうございます・・・」

 キャシーとマライアは涙目、アンジェリカはグジュグジュだ。


「階段は危険だから足下に気を付けてゆっくり上ろう。」

「はい、殿下。」

 さすがに抱き合ったままでは階段を上れないので、4人で手を繋ぐ。

 数珠つなぎになりながら上っていくが、事前の視察で階段は何も仕掛けが無いことを知っている。




 おっ、次のターゲットは・・・ってニコラス殿下たちか?

 また違う女の子をゲットしやがって、本当に目障りだ。

 アイツさえいなければ、私の学園ライフは遙かに明るいものだったはずなのに。

 でも、マライヤちゃん、いい子なんだよなあ・・・

 じゃあ、そろそろ頃合いだな。行け!ライド・アップドラフト!

 床から階段を這うように上っていくちょっとした旋風、それが巻き上がる・・・



「うん?」

 俺は反射的に身構えた。明らかな魔力反応だ。

 魔術そのものが見えないから魔力反応を追ってファイヤウォールを展開する。

 過去に何度も訓練してきた動きだ。


「あの、殿下・・・」

「いかがなされましたか?」

「急いで上へ!」

「はいっ!」

 彼女たちを3階に逃がし、俺は踊り場で敵と対峙する。

 相手が悪意ある相手なら問答無用で排除する。

 こういうとき王族の身分は便利だ。

 それに、イタズラならすぐに姿を現し弁明なり謝罪をするだろう。


「ファイヤショット!」

 魔術による本物の火の玉が魔力の発信源に向けて放たれる。


「うわっ!」

「やはりそこか。誰だか知らんがただで済むと思うなよ。」

「・・・」

 出て来ない。どうやらイタズラ目的ではないらしい。


「ファイヤボール!」

 魔力源を取り囲むように火の玉を10個ほど展開した。

 ヤツの魔術は目で確認できなかったところから風か闇だ。

 圧倒的に風の可能性が高い訳だが、火は風を打ち消すことが出来るし、逆を言えばヤツはファイヤボールに対する防御手段を持たない。


「勝てないことは分かっているはずだが、往生際が悪いな。そこで蒸し焼きにしてやろうか?」

「ヒィ~!」

 バタン! と階下の机のようなものが倒れ、中に潜んでいた輩が逃げ出す。

「逃げられるはずが無いだろ。」

 火の玉をヤツの逃げる速さに合わせて操り、最後に一個だけヤツの尻に当ててやった。

 別にヤツの命などどうでもよかったが、この旧校舎は木造だし、何より近くに他の生徒がいる可能性が高い。

 いくら何でも10個ものファイヤボールを炸裂させる訳にはいかなかった。


「うわぁー!」

 ヤツは悲鳴とともに闇に紛れた。

 本来なら追うべきだろうが、この暗闇で追跡するのは困難だ。それに上で震えている彼女たちを放っておく訳にはいかない。

「ここはまず、ゴールを急いでみんなに報告と相談だな。」



「そうですか。中でそんなことが・・・」

「悪質極まりねえな。」

「人に向けて魔術を放っちゃいけないなんて、生徒ならみんな知ってるはずなのに。」

「今日は不特定多数の者が校内に入ってるからな。」

「しかし、ローランド殿下と知った上で襲ったんだろうか?」

「盗賊の生き残りじゃねえか?」

「いや、それならまずはミッチェル殿下が狙われると思うよ。」

「とにかく教頭先生に報告して、判断を仰ぐほかないね。」


 その結果、校内は教員、お化け屋敷内はミントとテンコーによる見回りを強化しつつ、文化祭を続行することに鳴った。


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