文化祭
11月3日と4日の二日間は、学校主催の文化祭である。
もちろん、文化の日だからである。
この世界、本当に日本だよなあと思う。
前日から各クラスで出店の設営や校内の清掃、飾り付けなど忙しく奔走し、何とか準備は間に合った。
1年A組は講堂で演劇、他の三クラスは物販と型抜き、金魚すくい、2年と3年は焼きそばやチョコバナナ、カフェなどの飲食が多い。
何か、文化祭というよりは祭りのノリだ。
生徒会のメインは旧校舎の2階と3階を使ったお化け屋敷だ。
例の13階段が入口で、3階の西階段が出口の本格的なものである。
ここにテンコーの大道具とイリュージョン、姿を隠したミントたち妖精のイタズラが入場者の恐怖を誘う本格的な物だ。
しかも理科室から借りてきた人体模型は本当に走るし、ピアノもちゃんと演奏する。
他に、中庭での噴水、最終日の花火、案内係のポ○モンそっくりの着ぐるみ人形など、今年の生徒会は一味違う。
「しかし、お化け屋敷のBGMがあれなのはどうなんだ?」
「ああ、お化け屋敷というよりは手品ショーだよね。」
「じゃあ、何だったらいいんだよ。」
「そりゃあ、ヒュードロドロだろ。」
「何それ?」
あっ、それ無いのか。
「せめて○ファイルのテーマ曲だな。」
「それ、どっちかっていうと宇宙人だよ。」
宇宙人はいるんだ・・・
「やっぱり映画ハロ○ィンかナイ○メアの音楽がいいな。」
ローランド殿下、ホラー映画好きなんだな。
「そんな曲知らないよ。」
結局、適当な音をピアノで鳴らすのが一番無難だということで決まった。
そして、本番の日を迎える。
「本日はみんなが楽しみにしていた文化祭です。これは、伝統と格式ある本校の活動を市民に、家族に知ってもらう目的で行われているものです。そして何より、今日と明日がみなさんの良き想い出に、そしてこれからの勉学の励みになってくれることを願っています。ではみなさん、共に頑張りましょう。」
私の挨拶の終わりと同時に、テンコーの打ち上げる花火とファンファーレが鳴り、祭りが華やかにスタートする。
よく見たら白いハトも沢山飛んでいる。
さすがは手品師だ。
「殿下、お疲れ様でした。」
「さて、お化け屋敷の受付に行くか。」
「ところでドウェイン君、そちらの女性は?」
「ああ、こちらは僕の婚約者でアナベル・キースリー嬢だよ。よろしくね。」
「アナベルです。よろしくお願いします。」
「初めましてレディ。私はミッチェル、こちらはニコラス・ラトリッジ君だ。」
「ニコラスです。よろしく。」
「アナベルです。よろしくお願いします。」
「来年入学か。楽しみにしていますよ。」
「じゃあ、ドウェインは先に二人で回ってくるといい。アトラクションは俺と殿下で対応すっから。」
「いいんですか?」
「疲れたら休憩がてら受付をやってくれればそれでいいさ。」
「そうだよ。先輩方だっているんだから。楽しんでくれば良いよ。」
「ありがとうございます。殿下、ニコラス君。」
こうして二人は店を回る。
今日は各クラスの出店だけではない。
生徒達が各先生の指導のもと、バザーやダンス、魔法の実演などを行い、意外に回る所はたくさんある。
旧校舎に着くと、すでにクリフ先輩が受付を行ってくれていた。
「殿下、お疲れ様です。どうです?最初に一度、テンコー達の頑張りを視察されては。」
「そうだね。」
「面白そうだな。ちょっと行ってみようぜ。」
ということでお化け屋敷に挑戦してみる。
まず13段に増えてる階段を上ると2階はかなり暗い。
「幽霊がプロジュースしたお化け屋敷なんて斬新だな。」
「おおっ!」
突然、光の球が目の前を飛び去って行く。なかなか本格的だ。
「キャーッ!トラウマ!トラウマですわっ!」
先客がいるのか、と思ったら女子生徒が人体模型に追いかけられていた。
「ありゃ縦ロールじゃねえか。」
「本番前にこんなとこいていいのかなあ。」
「あれっ、ここ行き止まりじゃねえか。」
「さすがだね。直線的な校舎が迷路と化してる。」
と不意に、鎖が巻き付いて身動きが取れなくなる。
「おいテンコーっ!こんなの聞いてないぞ。これじゃお化け屋敷じゃなくて脱出イリュージョンじゃねえかっ!」
「ごめんごめん。この方が恐怖心が増すでしょ。」
すっと影が現れる。ここでは普通に徘徊しているようだ。
「そりゃそうだが、これどうやって脱出するんだ?」
「そこはテクニックだよ。3分以内に抜け出さないと爆発するんだ。」
「素人にそんな物を求めるな!」
何とか鎖を外して先に進む。途中で勝手に鳴るピアノや急に飛び出すゾンビ、砂嵐が映し出されている画面から女性が這い出てくるテレビなど、ツッコミどころ満載のスペースを過ぎて3階へ。
ここでは、点滅する照明の中、白い布を被ったミントたちが飛び回り、壁から不意に手が出てきたり手形が現れたりと、なかなか本格的である。
また、入場者のものかミントたちの演出かは分からないが、あちこちから悲鳴が聞こえる。
「こりゃ本格的だよな。」
「絶対ローランド殿下は入り浸ってるね。」
「ワザと同行者を怖がらせてな。」
「ドウェイン君には無理だよね。」
「ジェームズにだって無理だと思うぜ。」
そして、30分ほど校舎内を迷った末、ようやくゴールすることができた。
受付前にはゴールドバーグ嬢たちがへたり込んでいた。
「無事クリアしたようですね。」
「怖かった・・・怖かったですわ・・・」
何かボロボロの放心状態なんだが、これからパンがなくてケーキを食べる役が務まるのか?
その後、昼になったので中庭の噴水を確認してみた。
正午の鐘と同時に噴水が高く吹き上がり、水が輝きを放ち、周囲に虹が架かるそれは見事なものだった。立体的なプロジェクションマッピングを見ているようだ。
21世紀の知識を持つ私ですら見事だと思う出来なのだから、この時代の人たちにとっては途轍もない演出だろう。
そして、祭りは午後の部に入っていく。