夕食会にて
建国祭の三日後、王族の夕食会が開催された。
建国祭は公式行事も目白押しだったので、両陛下を始め、王族皆が忙しかったのだ。
本来ならば私も諸侯への挨拶や晩餐、夜会の出席など、忙しい予定だったが、無理を言って盗賊検挙をさせてもらったのだ。
まあ、その効果は絶大だったけど・・・
そういう訳で、行事が終わり落ち着いたので、最近あまり顔を合わせることの無かった家族が集まっての食事会となった訳である。
国王と王妃がホスト席に、私の横にはジェニファー嬢とフレミング公爵、向かいには弟と妹、宰相のヴィクター・ラトリッジが並ぶ。
「では、食事を始めるとしよう。皆の健勝と建国祭の成功を祝して。」
「乾杯。」
こうして食事会は始まる。
「それにしても、殿下のご活躍、まこと立派でございましたな。」
「ありがとうございます。日頃の鍛錬の成果を活かすことが出来て嬉しく思います。」
「そうだな。騎士の先頭に立ち民の安寧を守る。王族としてこれほど相応しい働きは無い。余もそなたを頼もしく思うぞ。」
「それで結局、賊の狙いは何だったのでございましょう。」
「民の扇動のようだな。どうやら貴族の関与も疑われる状況らしい。」
「しかし、何も強盗殺人などしなくても、他に方法はあったでしょうに。」
「騎士団の不手際をあざ笑う目的もあったらしい。何せ、民はそういう話が好きだからな。」
「まあ、アレン卿も面目が保てて良かったですな。」
「浮浪者の多さも明るみに出てしまったから、事後処理は大変だがな。」
「しかし、バレッタのローランド殿下も素晴らしい働きをしたとか。」
「すでに国王には礼状を送っておいた。彼の者の実力なら、良い抑止力になるだろうな。」
「そうですな。」
「建国祭も盛会に終わり、万々歳ですな。」
「ああ、盗賊に揺さぶられて心から楽しむことはできなかったが、終わってみれば成功だ。本当に良かったと思う。」
「ヴィクターのご子息も大活躍だったそうじゃないか。」
「うちの愚息も殿下の側仕えとして役に立ったようで、安堵しております。」
「戦う宰相というのもいいかも知れんな。」
「残念ながら、実務の方はまだまだでございますが。」
「良いでは無いか。ミッチェルの護衛でも構わぬ。」
「本人は馭者を目指しておりますが。」
「ハッハッハ!面白い男よのう。余は反対せぬぞ。」
「陛下、私めが困りまする。」
「それはそうとミッチェル。隣のジェニファー嬢とは上手くやれているのですか?」
「ええ、まあ・・・」
「どうにも頼りない返答ですわね。ジェニファーはどうなのですか?」
「はい。王妃殿下にはご心配をお掛けして、大変申し訳なく思っております。」
「まあ、成人を迎え、学校に通い、そろそろ結婚が現実に見え始めたことで迷い、悩むことは多いだろう。」
「でも、あなたたちの結婚はただの結婚ではありません。このウィンスロット王国の未来そのものなのですよ。」
「はい。」
「庶民のような青臭いことを考えているようではいけません。避けられないなら堂々と前を見て悩みなど振り払いなさい。」
「そうだぞジェニファー。お前たちの姿如何によっては、政局に隙が生じる。味気ない言い方にはなるが、甘い事を言っている場合ではないのだ。」
「分かっております。お父様。」
「まあ、せっかくの食事だ。楽しい話題で行こう。そうだフィリップ、先月の誕生日に与えたカピバラは元気にしておるか。」
「はい、エドガーJrと名付けました。とてもよく懐いて可愛いです。」
「何だ、余の名前を付けたのか。」
「お風呂で飼ってます。時々キュッっと鳴いて可愛いのです。」
「餌は何を与えておるのだ?」
「葉っぱも果物も何でも食べますよ。」
「齧歯類は歯が伸び続けるので、固い物も与えるといいですよ。」
「そうなのですね。さすがは兄上でございます。」
「クラリスは来月の誕生会のドレスをジェニファーと一緒にに選んでもらいなさい。」
「はい・・・」
妹はどうやらジェニファーが苦手なようだ。
みんな、私とジェニファー嬢に気を使っているのがアリアリと分かり、かなり気まずい思いはしたが、それでも無事に食事会は終わる。
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今日は予定外にお城に呼ばれてしまいました。
お父様も出席されるとのことで、断ることが出来ません。
こういった夕食会も、私がこの世界に来てからはすっかり無くなっておりましたが、やはり、その全てを避けることはできません。
「以前は夕食会ともなれば、別の心配をしていたものだがな。」
「もう、そのようなはしたないことはしませんわ。」
そして、王宮の奥にある春の間、王族専用の食堂に案内されます。
以前はこれほど緊張することなどありませんでしたが、今日は特に身体が強ばっております。
殿下や陛下より、ヴィクトリア妃殿下の方が厳しい方ですので・・・
食事中も緊張のあまり、上手くお話しすることができませんでしたし、表情もかなり強ばっていたと思います。肝心のお食事の方も、味など覚えておりません。
しかし、その王妃殿下のご配慮により、クラリス殿下と早めに退席することを許され、殿下のお部屋で休むことができたのは幸いでした。
これまで、あまり親しくお話したどころか、かなりキツく対応していたためか、殿下の表情も固かったのですが、殿下のドレスを全て褒め、どこが良いのかを語り合っているうちに少し打ち解けたように思えます。
クラリス殿下の好感度を上げても、私にとって何もプラスにはなりませんが、恨みを買ってはいけません。彼女に似合うアクセサリーを選んでいると、フィリップ殿下がペットのカピバラを連れて来てくれました。
正直、カピバラは苦手だったのですが、大人しく懐いており、両殿下の笑顔が弾けている様子を見ると、少しだけ可愛いと思ってしまいました。
それ以上に、フィリップ殿下の心遣いが嬉しかったです。
これがスペ体質の世界で無ければ、と思った一日でした。