新入生チェック
さて、入学式も終わり、新入生たちはそれぞれ帰宅、あるいは寄宿舎に帰るのだが、ここで新たに入った人材をチェックしないといけない。
午後からは在校生の始業式があるが、若手でまだクラス担任ではない僕には、比較的時間の余裕があるのだ。
もちろん、他の教員に見つかるとパシリと化してしまうが。
「いいねえいいねえ。アニメでないのが惜しいくらいみんな可愛いねえ。グフッ、グフッ・・・」
校舎から出てくる女子生徒を、近くの木にもたれかかって観察する。
前世の僕なら不審者だが、超絶イケメンの今なら涼しげな魅惑の大人だ。
そう思って眺めていたら、いましたよ、ピンクブロンドの女の子が。
ええ分かりますよ。
きっとあの子がスペ体質のヒロインでしょう。
彼女が王子様ルートに入るなら、さすがに分が悪いですが今日は初日。
まだ僕にもチャンスはあるはず。
そう思うけど、なかなか声をかける決心がつかない。
超絶イケメンにジョブチェンジしても、中身はただのオタク大学生に過ぎないのだ。
そうしているうちに、残念ながら彼女はどこかに去ってしまった。
「まあ、まだチャンスはあるさ。他に有望な子を探さないとね。」
僕はそのまま一年生の教室がある方向を目指す。
これでも一応教師なんだから、怪しくは見えてないと思う。
「まあ、推定ヒロインちゃんを除けば、ハイレベルながら、どんぐりの背比べかな。」
むしろ、ある程度顔の造形や髪型がパターン化されているようで、アニメならともかく、実写でこれは違和感というか、不気味さすら感じてくる。
そりゃ、モブなんだから仕方無いんだろうけど・・・
「不気味の谷だっけ?それは慣れて行くしか無いね。」
そう、この世界に身を置いてすぐに感じた違和感。でも、乗り越えられると思っている。
僕にとっての彼女たちは3Dではなく生身の人間なんだから。
「それに、在校生だって僕のうっすらした記憶の中だけの情報だからね。併せてチェックだね。」
一通り校舎を徘徊した僕は、始業式のため、大講堂に向かう。
~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/
さて、俺は今中庭の噴水前にいる。
何か知らねえけど、ここに来るといいことがあるような気がしたんだ。
特にはっきりとした理由は無い。
目の前には、これから在校生の始業式があるらしく、多くの先輩方が中庭を歩いている。
いいねえ、この眺め。
さて、とにかく誰でもレベル高いんだから、声かけてみようと立ち上がった時に異変を感じた。
足が動かないし声も出ない。一体、何が起こっちまったっていうんだ。
そして、新入生は帰宅し、在校生が始業式を行っている間、俺様は動かない足と格闘する羽目になった。
こう言っては何だが、俺の故郷バレッタは別名魔法大国と呼ばれる国で、俺だってそこそこの実力を誇る魔術師だ。
でも、この状況を打開する策を知らないし、この力が魔力なのかどうかも分からない。
場合によっては、俺を狙った暗殺かも知れないし。
そんな焦りを抱えながら、何とかあがいていると、一時間ほどして突然金縛りが解け、辺りの音が聞こえてきて、日常が戻ったことを実感する。
講堂の方から先輩達がぞろぞろやって来るが、最早ナンパなんて気分じゃなくなった俺様は、足早に寄宿舎へ帰る。
「さすがは魔法すら存在する不思議な世界だな。あそこに誘い込まれたことも、拘束されたことも意味が分からん。」
まあ、それは追々調べて行く事にしよう。
俺だってこの世界にきて、まだ2週間経っちゃいねえんだからな。
~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/
私は帰って来るなり、寝台に倒れ込む。
こんなはしたない事は、公爵家の令嬢としては避けるべき振る舞いだろうけど、今日ばかりは仕方無い。夕食までの時間は人払いして、休ませてもらおう。
「お嬢様、大変お疲れのご様子ですが、お茶にいたしますか?」
「メアリー、ごめんなさい。疲れているので、少し寝かせていただいてよろしいかしら。」
「畏まりました。では、入室しないよう、他の家人に知らせておきます。」
「あるがとう。お願いするわ。」
そうして着替えもせず、そのまま眠る。
予想以上に精神的疲労が溜まっているようだ。
一人になれた安心感からか、深い思考などできないまま、スッと眠りに誘われる。