剣術大会
毎年10月10日は学校主催の剣術大会と決まっている。
何故この日なのかと先生方に聞いてみたら、「体育の日だから」という答えが返ってきた。
不思議な世界だよなあ・・・
さて、剣術大会は最大32人まで参加が可能であり、それ以上の人数が応募した場合は予選が行われるのだが、今回は30名の参加者数なので、二つのシードが二回戦から登場するトーナメントから開始される。
ちなみに、昨年準優勝した3年生の先輩が第二シードで、私が第一シードである。
さすがは封建時代。エラい忖度が働いている。
「もうすでにミッチェル殿下の優勝が決定しているかのような空気だな。」
「もしローランド殿下が出場してたら大変なことになってたよ。」
「どっちが負けても国際問題だからな。」
ちなみに、ドウェイン君は1回戦第4試合、ニコラス君は第7試合で登場する。
「初戦と2回戦さえ自力で勝てば、準々決勝と準決勝は俺と殿下が対戦相手だ。体力を温存して全てを決勝にぶつけろ。」
「いいのかなあ、そんなことで・・・」
「決勝で勝ったヤツが最強なんだよ。それに始めるんだろ?ドウェイン伝説を。」
「ええ・・・」
まあ、決勝戦は正々堂々だろうし、そうで無ければみんなが私に負けてくれる大会なんだろうからなあ・・・
ということで試合は順調に進み2回戦。第一試合は私にとって初戦になる。
相手は2年生の先輩、なのだが、何故だか防具にデカデカとクリストファー・エリクソンとペンキで書いてある。
剣道の防具に氏名が入っていることがあるが、あんなものではない。
そこまで自己アピールが必要なのだろうか?
「では、2回戦第一試合、始め!」
「おぅりゃっ!」
とにかく凄い声を上げながらクリストファー先輩は突っ込んで来る。
剣を上段に構えて一直線に走ってくる。
まるで、デカデカとペインティングした部分に打ち込んで下さいと言わんばかりだ。
あまりの突飛な技につい警戒してしまい。大きく横に飛んで避けた。
私は剣道や剣術は素人だが、それでもこれはおかしいと分かる。
「この、エリクソン家一子相伝の必殺技、受けてみよ!」
先輩はことさら大きく振りかぶり、大股で間合いを詰めてきた。
もう、こうなったら仕方無い。踏み込んで相手の胴に剣を打ち込む。
「うわぁ、何と言う・・・これが、王の剣・・・」
そう言うと、先輩は見事に倒れた。何とも酷い・・・
「勝者、ミッチェル・アーネット選手!」
大きな拍手と歓声が沸き起こるが、途轍もなく恥ずかしく、自分でも赤面しているのが分かる。
まあ、激しい運動のせいだと誤魔化すことはできそうだが・・・
そして、2回戦が終了したところで午前の部が終わり、昼食の時間になる。
二回戦を突破した我々三人は、選手控え室で昼食を摂る。
「やっぱり二人とも順当に勝ち上がって来たね。」
「さすがに、ここで負けてるようでは話にならんからな。」
「そうだね。僕だって毎日欠かさず鍛錬しているからには、このくらいは勝たないと。」
「しかし、初戦で負けて、騎士を断念してもらう方法もあったんじゃないの?」
「父を倒した方がまだ簡単な道のりだと思う。」
「そんなになのか・・・」
「命の危機を感じるよ。」
「ところで、殿下も盛大に忖度されてるじゃねえか。」
「ちょっと酷いよね。あのデカネームは何?」
「そりゃあ、殿下へのアピールだろ。将来取り立ててもらえたら儲けもんだ。」
「やっぱりそういうことか・・・」
「卒業時に騎士団への口利きくらいはしてやらねえといけないかもな。」
「大人の世界って大変なんだな・・・」
「そろそろ午後の部が始まるよ。」
準々決勝第一試合は、オリヴィア先輩が相手だ。
昨年もベスト8に残った実績を持つ紅一点である。
「では先輩、胸を借りるつもりで頑張ります。」
「殿下とお手合わせできるなんて光栄でございます。」
「では、準々決勝第一試合、始め!」
開始直後、思いっきり踏み込んで剣を突き出す。
意表を突かれた先輩であるが、最初から下がって間合いを取るつもりだったらしく、大きく体勢を崩すことはない。
だが、私は半身で剣を突き出しながら前進しており、息つく暇も無く防戦を強いられる先輩は次第に追い詰められていく。
さて、どちらに飛ぶつもりか。と思ったが、身をかがめて右後方に飛んだ。
そして起き上がるやいなや、私の後ろに回り込む。
一切の迷いの無い見事な動きだった。
「さすがは先輩です。」
「殿下こそお見事です。」
オリヴィア先輩は女性参加者であることも異例だが、侯爵家のご令嬢でもある。
成績もトップを争う生徒会副会長でもある。
何かいろいろ尊敬してしまう。
その後は両者激しい打ち合いになるが、同時に膠着してきた。
そして制限時間の10分が経過しても勝負が着かず、審査員の判定となった。
そして、ここでも盛大な忖度が働き、2対ゼロで判定勝ちを収めた。
「さすがは殿下でございます。」
「いや、これは疑惑の判定ですよ。」
「いいえ。私も体力的に限界でした。時間制限に助けられたのは、私の方でございます。」
いや、絶対にそんなことはないと思う。
ちなみに第二試合はドウェイン君がニコラス君を圧倒した。
そして次は私がドウェイン君と対戦する。
「では、準決勝第一試合、始め!」
まあ、ここはドウェイン君に是非、見栄えの良い大技を決めてもらいたいものだ。
私はいつも二人で練習しているコンビネーション技を出すことにした。
剣を大きく横に薙ぐ。
ドウェイン君はこれを華麗に飛び越え、剣を振りかぶる。
素早く横に転がりながら避けた私は、起き上がりながらドウェイン君の剣を受ける。
二人は激しくぶつかり、剣と防具同士の激しい音が真剣勝負を演出する。
そして、双方のつばぜり合い、3,2,1のタイミングで両者後ろに弾け飛ぶ。
同時に二人が渾身の一撃を打ち込み、私の剣が後ろに吹き飛んでいく・・・
それまで大きな歓声が上がっていた会場は、一気に静まり返る。
「そこまで!勝者、ドウェイン・タウンゼント選手!」
会場が動揺しているのが手に取るように分かる。
「おめでとうドウェイン君。さすがはデーモンスレイヤーだ!」
水を打っていたかのように静まり返っていた会場は、一気に沸き立つ。
どうにか誤魔化せたようだ。
やはり、練習は嘘をつかない。
「さあ、次はいよいよ決勝だね。」
「何か、罪悪感がハンパないけど、頑張るよ。」
決勝の相手は第二シードのジュリアン・ゴールドバーグ先輩だ。
「縦ドリの兄貴、強いんだな。」
「去年の準優勝者だからね。実力は本物だよ。」
「では引き続き決勝戦を行う。選手は前へ!」
ドウェイン君とジュリアン先輩が中央で対峙する。
「それでは決勝戦を始める。では、両者構えて。」
会場は再び静まり返る。
「では、始め!」
両者踏み込んで剣をぶつけ合う。牽制など一切無い力比べだ。
しかし、体格に勝るドウェイン君が押し切ってジュリアンが後ろに下がる。
その後は激しい打ち合いとなるが、ギブスを外したドウェイン君は速く力強い。
相手が攻めに転じるきっかけを与えないまま会場の隅に追い詰めていく。
そして、素早く剣を左右に振って相手のガードを上げておいて身体を入れると、先輩は吹き飛んで足が場外に出てしまう。
「そこまで!勝者、ドウェイン・タウンゼント選手!」
大きなどよめきと歓声が会場を包み込む。
正直、八百長しなくてもドウェイン君が優勝してたような気がする・・・
「大したもんじゃねえか。」
「さすがの強さだよ。」
「いや、2試合少ないからね。体力的には随分助けられたと思うよ。」
「来年は第二シードだし、縦ドリの兄貴もいねえからな。優勝は堅いぜ。」
「ありがとう。二人のお陰だよ。」
「もう、親父さんを倒せるんじゃないか?」
「いやあ、いくら何でもこんなもんじゃないと思うよ。」
とにかく、ドウェイン君にとっては最大の課題をクリアしたわけだ。
騎士を目指さない理由付けが更に難しくなったような気はするが・・・