初代校長との激論
さて、毎日生徒会室で事務もつまらないので、気分転換をしようという話になり、例の七不思議を調査することになった。
残っているのは美術室、校長、包丁、フラワーチャイルドだが、安全そうな校長の銅像を片付けることにした。
まあ、説教してくるだけのようだし・・・
いつものように校長に許可をもらい、ジェームズ先生とゴールドバーグ嬢を誘って夜の学校に集まる。
「ところで、ゴールドバーグ嬢は夜に出歩くことについて、ご家族から反対されないの?」
「殿下のお側にいられることは大変な名誉ですので、誰も反対はしませんわ。」
「でも、夜だよ?」
「まあ、噂になってしまったらどうしましょう。」
「夜遊びドリルとか言われるんだろうな。」
「まあ、失敬ですわ。でも、殿下自ら危険を顧みず問題解決に取り組んでおられるのに、それに全く協力しない婚約者様の方が、噂になりますわよ。」
それはそうかも知れない・・・
「そういや最近、あまりジェニファー嬢に絡んでいかないな。」
「あまりに弱すぎて張り合いがございませんの。最近は私の方が殿下に相応しいとの声が高まってきているのですわよ。」
そうかぁ?
「そう言えば、殿下は聖女様のことをどうお考えなのですか?」
「どうって・・・特に思うところはありませんが、先生は何か気になることでも?」
「いや、殿下はああいった感じの子が好みなのかと思いまして。」
「う~ん、ほとんど会話したことが無いので分かりませんね。」
「そうですか、うんうん・・・」
「さあ、そろそろ参りましょう。」
いつものように先輩方は玄関前に待機し、それ以外のメンバーとミント、テンコーたちで初代校長像に向かう。
とは言っても玄関からほど近い、職員室前の庭だ。
ぱっと見は、どこにでもありそうな小さな胸像である。
「こうしてみると、ただのオッサンだよな。」
「威厳があるかと言えば、ねえな。」
「本当に、このような物が喋るのかしら。」
「でも、今までの七不思議は全て不思議だったぜ。」
「まともだったのはナタリーだけだったけど。」
「お前たち、騒がしいし失礼じゃぞ!」
「うわぁっ!ビックリした!」
みんなで仰け反る。本当に喋った。
「無礼なヤツらだな。喋って欲しかったんじゃろ?」
「おい。こりゃ間違い無い。悪霊だ。」
「そうだな。聖女を呼んで早く払っちまおうぜ。」
「お望みどおり喋ってやったらこれか。全く、最近の若い者は教育がなっとらん。」
「何を言うか。ここにおられるのは第一王子ミッチェル殿下、そしてこちらはバレッタ王国のローランド殿下だ。お前こそ頭が高いぞ。」
「なんだ、ケチ王ジョンの子孫か。」
うん?何代か前にいたなあ。
「その態度が不遜なんじゃないか?」
「お前に言われる筋合いは無いぞ。成績不振の補習を受けていたじゃないか。それに、頭が高いと言われて頭を下げられる訳がないだろう。金属製なのだから。」
「コイツ、ジジイのクセに生意気だな。」
ローランド殿下が銅像の頭をしばく。
「やめんかっ!この罰当たりが!」
「だが、お前が初代校長の霊だという証拠は無いだろ?」
「確かにそうだな。」
「そういう時は、初代校長しか知らないはずの情報を聞き出すのが一番だよ。」
「そうだな。悪霊なら聖女様に払ってもらわないといけないしな。」
「お前たち、どれだけ私を馬鹿にすれば気が済むのだ。今まで会った中で最悪の連中だ。」
「最悪って言われても、俺たちは生徒会だ。」
「これで生徒会?何と嘆かわしい。」
「やっぱりコイツ、偽物だな。サッサと成仏させてしまおう。」
「それがいいな。」
「まあまあ二人とも。その前に先生が何故ここにいて、何が望みかを聞いてみよう。」
「貴様らに私の高尚な思考が理解できる訳ないとは思うが?」
「やっぱりコイツ、不敬罪でいいんじゃないか?」
「まあ、そう言わずに。それで先生、お亡くなりになられてからずっと、ここにおられるのでしょうか。」
「そうだ。ここは私が校長となり、長きに亘って多くの生徒を育てた学び舎。その行く末を見守るのは当然のことだ。」
「先生の望みと言いますか、心残りはございますか?」
「生徒の質が年々下がっていることが嘆かわしい。特に初代校長に対する礼儀がなっておらん。」
「授業のレベルは近年向上していますし、試験の成績も特に下がっている事実はございません。自己紹介が遅くなりましたが私、魔術教師のジェームズです。」
「ああ、よくそこの木陰に潜んで何かしているが、教師だったのか。」
「殿下、早急に除霊いたしましょう。」
何で?
「よく聞け、学校というのは学業に励むことと同時に貴族としての人格と品性を高める場だ。にもかかわらず、私に対する敬意に欠ける生徒ばかりじゃ。この像の前を通る時はお辞儀をするのが礼儀、雨上がりには柔らかい布で優しく水滴を拭き取るのが礼儀、そして」
「ああ話が長いぞ。」
「聞いてりゃ老害そのものじゃねえか。」
「殿下、こんな尊大な人間、生前からロクでもなかったに違いねえ。」
「それは僕も教師として同意するよ。早く除霊しよう。」
「無礼じゃぞ!私はその情熱を教育に捧げ、生涯をかけて後進の育成に力を注いだというのに、今の生徒はこの体たらくじゃ。もっと真摯に精進せい!」
「お前がそんな素晴らしい人間だった証拠なんてどこにも残ってないからな。」
「台座に書いているでは無いか!」
「こんなのはお世辞と相場は決まってる。」
「そうだな。過去の王をケチとか言うヤツに説得力はねえな。」
「こんなヤツに教えを受けて礼儀が身につくはずがない。」
「私は死後、献体をしてその身をお前たち未来に捧げたんだぞ。理科室の人体模型を見たことあるだろう。」
「へっ?」
「そこまでできる人間などそうはいまい。どうだ、分かったか。」
「やっぱりお前、悪霊じゃねえか!」
ローランド殿下のパンチに力がこもる。
「何をするっ!」
「あの勝手に走り回るはた迷惑な骸骨、お前だったのか。」
「やっぱりこの校長、許せませんわ。」
ついにゴールドバーグ嬢まで反対派に回ってしまった。
「校長、申し訳ありません。その人体模型ですが、夜中に徘徊し、危険と判断されましたので廃棄処分とさせていただきました。」
「な・・・何じゃと?」
「廃棄処分と言やあ、穏やかだが、粉々にしちまったぜ。」
「お前たちは何と罰当たりな。」
「心配するな。新品を買ったぜ。」
「そういうことではないであろう!」
「しかし校長、あれは客観的に見て危険な行為です。それに、生徒の悪い噂になっておりました。ですので申し訳ありませんが、廃棄については適切な判断だったと考えています。」
「いや、そんな危険は無かったはずじゃ。」
「危険でしたわ。私ははね飛ばされましたのよ。」
「そういやそうだったな。」
「それは・・・私の与り知らなかったことで、現教職員の管理不行き届きが原因とは言え、私にも一定の道義的責任はあると思われるので、大変遺憾に思う。」
「おい、どっかの政治家みたいになりやがったぜ。」
「この手の人間はいつもこうだ。」
「こりゃ除霊だな。」
「結論は出たな。帰ろ帰ろ。」
「こりゃっ!待たぬか!」
こうしてみんなが調査意欲を無くして帰り始めたので、私も付いて帰らざるを得なかった。
そして後日、聖女様の協力を得て浄化に成功し、七不思議の5つ目が解決した。