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風紀強化週間

 9月下旬は生徒会主催の風紀強化週間である。


 これは現代でも同じだが、夏休み中に間違ったデビューをしてしまい、貴族の子息令嬢らしからぬ進化を果たした生徒が急増するこの時期に、風紀の正常化を図る目的で実施されるものである。

 毎朝、生徒会役員と風紀委員が交代で正門前にて服装チェックを行うほか、各クラスで抜き打ちの持ち物検査なども実施される。

 風紀委員が唯一活躍する場面でもある。


 そして、今朝は私とケント先輩、3年生各クラスの風紀委員が正門と裏門に分かれて検査を行っている。


「あれ?君、金髪だったっけ?」

「あ、いや、これは殿下・・・」

 この学校には頭髪に関する校則は無い。

 何せ、紫や緑の地毛を持つ人が普通にいる世界だ。

 しかし、別の色に染める人なんていない。

 こういった変化を見落とさないことが風紀を維持するために必要なのだ。


「あの、それは、黒に飽きたので、気分転換で・・・」

「まあ、ダメとは言わないが、ご家族は特に何も言って無かったのかい?」

「全然似合ってないと言われてしまいました。」

 まあ、この世界の人にとっては、そういう認識なのだろう。


「分かった。行っていいよ。」

「そこの1年生、スカートが短いのではありませんか?」

 うん?そうか?


「申し訳ございません。」

「だめだねえ。スカートは膝下までと決められているよ。」

「はい・・・」

 そう、貴族女性は普段、ロングドレス姿で、足なんて出した日にははしたないとかなりキツくお叱りを受ける世界なのに、何故だかこの学校の制服だけは日本の学生服並の長さなのである。

 理由はよく分からない。


「こういうところから心が、生活が荒んでいくのです。すぐに丈を元に戻しなさい。」

「はい。ごめんなさい。」

 その生徒は名前とクラスを違反者リストに記載される。

 風紀委員も3年生ともなれば慣れたもんだ。

 そして、クラスに戻ると持ち物チェックが始まっていた。


「あなた、前から気になっていたのですが、どうして学校に鳥かごを持って来ているのですか?」

「それは、ピーちゃんと離れたくないからです。」

「ペットの持ち込みは禁止されているはずです。それに、授業中もよく鳴いていますよね。」

「それは、ピーちゃんだから。」

「ちゃんと躾けて下さい。」

 それは無理だと思う。


「いずれにしても、明日からは連れてこないで下さい。」

「はい・・・」

「それとあなた。授業に関係無い本の持ち込みは禁止されています。」

「しかし、それほど俗悪な本ではありません。」

「アイドルの肖像画集など、俗悪そのものではありませんか。」

「そんな、これは芸術です。偏見です!」

「では、ご令嬢の皆さんにお伺いします。水着姿ばかりのアイドルの肖像画集を持っている方を、どう思われますか?」

「率直に言っておキモいと思いますわ。」

「隣を歩くのは恥ずかしいのでお断りでございます。」

「綺麗な方を見ると、すぐ浮気してしまう方だと思います。」

 そろそろヤメてあげて!


「そこのあなた、鞄の中にお菓子しか入っておりませんわよ?」

 本当にここ、成績優秀者の集まるA組なんだよねぇ・・・

「それとあなた、前から気になっていたのですが、その身に付けている器具は何ですか?」

「これは、エリート騎士養成ギブスです。」

「制服に余計な物を装着するのは校則で禁止されています。生徒会役員が規則を破っては周りに示しが付きません。」

「僕だってこんな物、着けたくないですが、親の方針なんです。」

「ではミッチェル殿下、生徒会からタウンゼント家への申し入れをお願いいたします。」

「分かった。」

 良かったね、ドウェイン君。


 そして強化週間が終わり、各クラスからの報告を確認する。


「違反件数、多いね。」

「俺から見れば大したことねえがな。」

「僕はギブスを指摘されちゃったよ。」

「でも良かったんじゃない?」

「もちろん、渡りに船だよ。」

「でも、一番風紀を乱してるのはローランド殿下だと思うがなあ。」

「何だよ。ただご令嬢と親しくしてるだけじゃねえか。」

「婚約者のいるご令嬢もいるんだろ?」

「それは婚約者が悪いんじゃないか?」

「言われてみればそうだけどな。」


「僕は地毛とは言え、銀髪やピンクはどうも違和感があるよ。」

「ああ、バンドメンバーみたいだよな。」

「それで会長、違反者個々に指導通知書を出し、反省文を書かせる必要があります。」

「そうだね。当分はそれに係りっきりになるね。」

「おいテンコー、イリュージョンで指導書のコピーはできねえのか?」

「コピー?何だいそれは。」

「一つのひな形から同じ物を沢山複製することだよ。」

「それはイリュージョンではないなあ。その複製をあらかじめ用意しておいて突然出すのはイリュージョンだけど。」

「それは手品だろう。」

「イリュージョンだよ!」

「まあ、みんなで手分けして地道に作業するしかないね。」


 こうして、秋の生徒会最大のイベントは無事に終了した。


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