青春の悩みは深し?
合宿訓練で魔族を倒したことは大変な騒ぎとなった。
あの祠が何を封印していたのかは結局分からなかったが、王都にあれほど近い所に封印してあった意味を含めて現在調査中である。
そして、殿下とニコラス君、僕の三人は国王陛下からデーモンスレイヤーの称号をいただき、後日表彰されることになった。
ちなみに、折れた聖剣だけど、実は過去に何回も折れたことがあり、その度に修繕しているとのことで、特に問題にはならなかった。
僕たち三人は、聞き取り調査に協力するためという名目で、一週間の休みをもらい、今日は屋敷で休養しているところだが・・・
「ドウェイン、でかしたな。さすがは我が息子だ。」
「ありがとうございます。でも、殿下とニコラス君がいなければ、まるで歯が立たなかったと思います。」
「確かに、お前の未熟な技で大きな称号を得てしまうと、これから却って苦労することになるであろうな。」
「それは十分自覚しております。」
「だからこそ、なお一層の鍛錬が必要だ。」
「父上、やはり私は騎士ではなく、学者を目指したいと考えております。」
「まだそんな馬鹿な事を考えておるのか。我が一族は代々剣により身を立て、今の爵位と名声を得たものだぞ。騎士と学者では適性が違う。」
「私は騎士の適性がございません。」
「そう思うなら、もっと鍛錬に励め。」
「別に騎士になるのは弟でも良いではありませんか。家を継ぐのも。」
「では、違う道を歩みたければワシを倒してみよ。そうすれば学者を目指すことを認めてやる。ただし、婚約はどうなるか分からんぞ。」
「分かりました。あらゆる覚悟はできております。」
「じゃあ、あれこれつまらぬことを悩む前に剣を振ってこい!」
また相手にされなかった。
本当は勉強がしたいし、勉強をしないと不安で仕方無い。
学校卒業後に進みたいのは騎士団では無く大学なのだ。
そんな調子だから剣を振っていても、雑念ばかりで全く集中できない。
いや、本来は休みをもらってるんだけど・・・
「いつかは父を越えないといけないんだろうけど、魔王より強いんだよなあ。」
僕は一体、どうすればいいんだろう・・・
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「ニコラス、魔族に立ち向かう勇気と今回の手柄は褒めてやる。だが今の惨憺たる成績と仕事のやる気の無さは由々しきことだ。もっと励め。」
「父上、いや親父。俺に事務仕事は向かねえぜ。」
「コラッ!親に向かって何と言う口の利き方だ。」
「俺は普段、ミッチェル殿下ともこんな感じだぜ?公式の場でなければいいんだろう?」
「いくら何でも、そんな粗野な言葉遣いで良いわけなかろう。」
「だから家族ならこれでいいだろって言ってるんだ。だいたい、褒める時にはきちんと褒めるべきだ。後でけなすのは本心から褒める気が無いからだろ?」
「お前は口ばかり達者になりおって・・・」
「言っておくが、俺は事務員には向かんし、なるつもりもない。」
「お前が目指すのはただの事務官ではない。政治家だ。」
「政治家なんてタヌキジジイがなるもんだ。俺に向いてねえのは見りゃ分かるだろう。」
「では将軍にでもなるつもりか?」
「将軍になれるのは将軍家の人間だけじゃないのか?」
「将軍職は世襲ではない。」
「そうなのか?将軍の後を継ぐのは子か一族の者じゃないのか?」
「当家が代々、政治の要職を目指しているように、軍の要職を目指す貴族もあるが、決して将軍の子という理由で無条件になれるものではない。」
「知らなかった。まあ、俺は別に将軍になりたい訳じゃないからな。」
「お前は何を目指しているんだ。」
「一番は馭者だな。他の街や国に道が続く限りどこまでも馬車を走らせ、荷物と笑顔を届ける。そんな男に、俺はなりたい。」
「何を馬鹿な事を言ってる。お前は侯爵家の跡取りだし、殿下の側近だ。」
「殿下は別に反対して無かったぜ。」
「第一、それは平民の仕事だろ!」
「宰相ともあろう者が、職業差別をしているようじゃ、この国の未来は暗いな。」
「何故この国の宰相が、馭者を目指す人間に国を語られねばならんのだ!」
「そりゃ、肉体労働を軽視してるからだろ。」
「お前は何を言っている。そんなことは貴族として当然のことだろう。」
「政治なんてものは、お偉いさんが勝手するための方便だ。そして、そのとばっちりは下々の者が受ける。そして、お偉いさんは馬鹿にしている者に世話されていることに気づきもしねえ。残念ながら、親父もその中の一人に過ぎん。」
「お前はその私の世話になって大人になったんだろう?」
「最近は事務仕事にこき使われてたがな。第一、親が子の面倒を見るのは義務であって自慢することじゃねえんだよ。」
「しかし、馭者ではジュリア-ナ殿を食べていかせることはできんぞ。」
「そうか?馭者って結構収入あるんだがな。」
「お前は何を言っている・・・少し、頭を冷やしてこい。」
親父を言い負かしてやっと解放される。
だが、ああいう勉強バカにはガツンと言ってやるのが一番だ。
でもそうだなあ。ジュリア-ナは貴族の生活を望んでいるだろうからなあ。
貴族の馭者ってできないもんかなあ。
これは悩むぜ・・・