何故か肝試しを行う
若者は羽目を外して悪ふざけをするものだ。
それは十分に分かってはいるが、酒をしこたま飲んで気が大きくなったローランド殿下とニコラス君の発案で肝試しを行うことになってしまった。
「じゃあ、俺とカミラ嬢のパーティー合同で先に行くからな。ミッチェル殿下たちは10分後にスタートでよろしく。」
「しかし、そんなに大人数で大丈夫なのかい?」
「これがいいんだよ。じゃあ、行ってくる。」
ニコラス殿下率いるほぼ女子だけのグループは交流会の時と同じルート目指して出発する。
「あれはもう、肝試しとは言わないな。」
「ハーレムですね。」
「ドウェイン君もあっちに参加していいんだよ。」
「遠慮しておきますよ。僕はあんまり女子が得意じゃないので。」
しばらくして、殿下たちの嬌声が聞こえなくなったので、私たちも出発する。
こちらのグループにはミントとテンコーもいる。
「しかし、幽霊ならすでにここにいるんだがなあ。」
「言い出しっぺのニコラス君がそれ言う?」
「ミント、夜は大好き!」
「ミントは何か朧気に光ってるし、鱗粉みたいなのがキラキラ舞ってるね。」
「これが妖精さんだよ。」
「それに比べて、テンコーはどこにいるのかサッパリ分からねえな。」
「僕は影だからね。」
そうして歩いていると祠が見えてきた。
「丁度中間点だね。」
「しかしこの祠、何を祀ってるんだ?」
「さあ、石碑も看板も無いから分からないね。」
「この扉を開けてみれば何かヒントがあるんじゃねえか?」
「ニコラス君、いくら酔ってるとは言え、あんまり罰当たりなことしない方がいいよ。」
「ミント、何だかコワい・・・」
「ほら、ミントもこう言ってることだしさ。」
と言っても、こういうときの酔った若者は自制心ゼロだ。
ニコラス君は祠の扉に手を掛け、力任せに引く。
「おおっ!こりゃなかなか重いな。ドウェイン、手伝え。」
「ええ、ヤダよ・・・」
と言いながらドウェイン君も駆り出される。
そうして思いっきり引っ張ると、小さな扉が蝶番ごと壊れて外れる。
大きな音を立てて、二人は尻餅をつく。
「うわぁ、ビックリした。」
「壊しちゃった・・・」
「まあ、終わったことを気にしても仕方無いぜ。誰か明かりをくれないか?」
ゴールドバーグ嬢が火魔法で辺りを照らす。
「なになに?何かお札みたいな物はあるが、読めねえな。」
ニコラス君が中から置物というか、位牌に良く似た物を取り出す。
私も手にしたが、見たことも無い呪文のような文字が書かれているだけで、サッパリ分からない。
しかもニコラス君はさらに祠をのぞき込んで祭壇らしき場所を確認している。
「おっ、何か蓋があるぞ。」
「いやそれ、触っちゃいけないヤツじゃ・・・」
「すまん。もう取った。」
ゴゴゴゴ!
その瞬間、大きな地響きが始まった。
「いやいや、これシャレになんないって。ニコラス君、早く元に戻して!」
「おう、分かったぜ。」
しかし、祠の中から黒い煙が湧き出していて、既に手遅れ感がハンパない。
「みんな離れて!」
私たちは祠から離れる。しかし、ここで逃げる訳にはいかない。何たってこの異常現象の張本人だ。何とかする責任がある。この地響きと言い、いかにもな感じの煙と言い、大規模災害の予兆っぽいじゃないか。
「ゴールドバーグ嬢はすぐに戻ってみんなに知らせて。避難する必要があると思う。」
「分かりましたわ。」
彼女は一目散に元来た道を戻っていく。
「俺たちゃ、ここで迎え撃つしかねな。」
「ああ、一応聖剣だって持ってる。」
「なら、何が出てきたって勝てるさ。」
煙は一箇所に集まり、徐々に形を得ていく。
そして、どうやら人型の何かになった。
「ワレヲ呼ビ覚マシタノハ、貴様ラカ?」
「呼んだつもりはねえがな。」
「お前は誰だ。」
「ワレヲ知ラヌカ・・・良イダロウ、教エテヤル。ワレノナハ、バロール。魔ヲスベルモノ。」
「おいテンコー。こいつ幽霊か?」
「違う。どう見ても魔族だよ。」
「妖精、幽霊ときて次は魔族か。ホントここは何でもいるなあ。」
「ワレハ魔族ニアラズ。魔王ナリ。」
「魔王って言うほどデカくないし、強そうでもないけどな。」
「ワレノ最終形態ヲミテモ、ソレガ言エタラ大シタモノダガナ。」
「ほう、じゃあ見せてくれよ。」
ニコラス君、酔ってるとは言え、スゲえな・・・
「ザンネンナガラ、ナガキニワタル封印ニヨリ、チカラノ多クガ失ワレテイル。オマエタチヲニエトスルコトで、復活ノ第一歩トサセテモラオウ。」
どこからともかく剣が現れる。黒い煙というか稲妻というか、刀身に不思議なものを纏ったいかにも禍々しい雰囲気だ。
そしてバロールを名乗る魔族も黒い光のようなものに包まれていて、所謂力を溜めている状態に見える。
「隙アリッ!」
ニコラス君がいきなり斬りかかる。
「グオッ!」
「おい、効いてるみたいだぞ。みんなで一斉攻撃だ。」
ニコラス君とドウェイン君が剣で、後衛設定の私が後ろから水属性魔法で攻撃する。
ミントも風属性魔法を撃ち込んでいる。
「グワッ!オマエタチ、ヒキョウダゾッ!」
「おい、何か言ってるぜ。」
「コウイウトキハ、ビビリナガラ我ニ疑問ヲブツケルモノデハナイノカ?」
「何言ってるんだ。隙があるなら攻撃するに決まってるだろう。」
私たちは全く攻撃の手を緩めない。
「イタイッ!イタイデハナイカッ!」
「こりゃ、俺の親父より弱いぜ。」
「ユルサン!ユルサン!ユルサンゾッ!」
バロールは前屈みになり、ワナワナ震えている。その間にもニコラス君たちは彼を滅多打ちしている。
ただ、少しだけバロールの身体が大きくなったような気がする。
「グオッ!」
「うわっ!」
バロールが振った剣に弾かれ、ニコラス君とドウェイン君は後ずさる。
「オマエタチ、ケシズミジャッ!」
属性は分からないが魔法、しかもかなり高威力だ。
少なくとも、こんなものをどうにかできる術など持ち合わせていない。
「さすがにヤベえな・・・」
「消エ去レッ!」
「イリュージョン!」
「グオッーーー!」
巨大な爆発音とバロールらしき悲鳴が辺りに響き渡る。
何が起きたかは分からないが、どうやらバロールは自分の魔法で大ダメージを喰らったらしい。
「どうだい、僕のイリュージョン、”マジックミラー3号”の味は。」
「グゥゥゥ・・・」
「かなり効いているみたいだな。」
「多分、技の名前にショックを受けているんだと思うぞ。」
バロールは唸り続けているが、かなり弱っているらしく、先ほどまで全身からほとばしっていた黒い稲妻のようなものは消えている。
「殿下、聖剣だ。」
そうだった。聖剣持ってたんだ・・・
「覚悟せよバロール。古よりこの国に伝わる伝説の聖剣フルンティング。その久しぶりの獲物としてみせよう。」
「ナ、ナニ・・・セ、セイケンダト・・・ナゼ、ココニ・・・」
「そんなこと私にも分からん。ただの偶然だ!」
私は思いきって踏み込み、バロールの胸に聖剣を突き刺す。
「グワッ!!」
分かる。これは大ダメージを与えている。剣を握る手に力を込め、さらに押し込む。
「グワッァ!ヤメロ、コレ以上ハ・・・」
「やめて俺たちに何か良いことがあるのか?」
ニコラス君も構わず斬りつけている。
「キサマ、ニ、ジヒ、ハ、ナイ・・・ノ、カ。」
「殿下、構わねえ。このいまま止め差しちまいな。」
「いいのかなあ。」
「魔族なんて生かしておく理由はねえだろ。」
「それもそうだよね。じゃあ、これで終わりだ。」
全力で剣を刺す。
「オ、オノレ・・・イツノ日カ・・・必ズ・・・」
そうしてバロールを名乗る魔族は事切れた。
「コイツ、魔王とか言ってたが。」
「いや、本物の魔王がこんなに弱いはずがないよ。」
「それもそうだな。こんなヤツが正直に名乗るはずはないわな。」
「ところで、剣が抜けないんだけど。」
「おいおい。神殿で抜けたのにか?」
「いや、単純にコイツの身体が硬いんじゃないかな。」
そして3人がかりで抜いてたら、何と聖剣が折れてしまった・・・
「どうする?」
「魔王を倒したってことで、剣が折れたことについては許してもらおう。」
「大手柄を立てたから、きっと大丈夫だよ。」
「しかし、聖剣が折れるって何だよ・・・」
こうして、私たちの初の実戦は、魔族を倒すという大勝利に終わった。
そして、バロールの遺骸をキャンプ地まで運んだ結果、大騒ぎとなり、合宿訓練は中止となってしまった。