階下の激闘
さて、翌日の放課後、私たちいつものメンバーは旧校舎西側階段に来ている。
いや、今日は昼にジェニファー嬢と昼食をご一緒し、そのあまりの気まずさに疲労困憊状態なのだが、こちらも約束していたのだから休む訳にいかない。
「さて、ここが問題の階段だね。」
「じゃあ早速、ペンキで数字を書いていこうか。」
「1階のフロアから数えるの?」
「まず、1階の廊下と同じ高さの所は0として2階フロアと同じ高さの所を12としよう。」
「逆側に上を0にして下向きに数字を書いていったらどうだい?」
「それいいね。」
そうしてペンキで数字を書いていこうとするが・・・
「ヤメテーッ!そんなもの書いちゃダメ!」
「おっ!何だ何だ?」
「キャーッ!」
夕方の薄暗い廊下に一際黒い影が舞う。
それは素早く私たちの前を横切り、ペンキ缶の蓋を開けようとしたニコラス君に覆い被さろうとする。
ニコラス君は咄嗟に転がるようにこれを避けた。
「何だあれは。」
「幽霊かな。」
「どう見ても敵意あるよね。」
僅か数秒ほど睨み合いになるが。
「こ、こんなことして何になるんだ!」
「コイツ、喋るな。」
「僕たちは学校の七不思議を調査している生徒会の者だよ。」
「13階段の秘密を解明し、解決することを目的にしておりますのよ。」
「そ、そんなことさせないからー!」
影がこちらに向かってくる。
すかさずジェームズ先生が風属性魔法を繰り出すが、影は素早く避ける。何かすごく動きが早い。
しかし、ドウェイン君とジェームズ先生が息を合わせてつむじ風を起こすと黒い影にヒットし、弾け飛ぶ。
「魔法は有効みたいだな。」
「でも効いているかと言われれば、効いてないみたいだな。」
「みんな、二人の邪魔にならないよう、少し離れよう。」
二人はつむじ風を操りながら影を追い詰めようと試みるが、早さは断然影が上である。
「影には光なんだけどな。」
「やっぱり、聖女様がいないとキツいね。」
「成仏させるにも光魔法が一番いいだろうからな。」
やっぱりこの世界でも、昇天じゃなく成仏って表現するのか・・・
「光ほどじゃないが、火だって光は出るぜ。」
「でもどうやるんだい?」
「キャロライン嬢は俺と同じ火属性だよな。」
「ええ、そうですわ。」
「ファイヤーウォールで挟んでしまえば影は消えるんじゃないか?」
「やってみましょう。」
ローランド殿下が戦闘中の相手をすり抜けて廊下の向こう側に行く。
こちら側はキャロライン嬢が構える。
「じゃあ、二人が火の壁を出したらドウェイン君とジェームズ先生は下がって。」
「分かった。」
そしてローランド殿下とキャロライン嬢がファイヤウォールを展開して挟み込む。
いくら相手の動きが早くても、狭い廊下では逃げ道が無いし、元々、相手にダメージを与えるというよりは、影を無くすことに主眼を置いた攻撃である。
「いやぁ、ヤメテ~!」
「大人しく観念しやがれっ!」
「お願い、参った。降参するから許して!」
「信じられんな。このまま光と共に消え失せろ!」
「うわぁーーーーっ!」
幽霊も断末魔の悲鳴って上げるんだなあ・・・
しばらくして静かになったので、二人はウォールの展開をやめた。
「倒せたの?」
「ああ、どうやら何とかなったみたいだな。」
「これで早くも4つ目を解決したのか。」
「今回は私も活躍できたので大満足ですわ。」
「な~んちゃって!」
「うわぁっ!」
「クソッ、しぶといな。」
「何度でもやってやりますわよ!」
「待って待って!降参だから、乱暴はしないで!」
「みんな待って。彼に攻撃の意図は無さそうだ。」
「もしかして殿下、コイツの話を聞くのか?」
「まあ、鏡も割らなかった訳だし・・・」
「人体模型は粉々に壊したぞ。」
「生徒会予算的には痛かったよ。」
「まあ、聞くだけ聞いてみようよ。」
「じゃあ取りあえず、私の名はミッチェル・アーネット。この国の第一王子だ。」
「俺はニコラス。宰相の息子だ。」
「へぇ、みんな偉い人なんだね。僕はピート・テンコーっていうんだ。」
テンコーって・・・
「それで、君はここで何をしているんだい?」
「ちょっとイタズラをしてただけなんだ。」
「そうか。それで、君は幽霊?妖精?」
「一応はゴーストってことかな。」
「じゃあ、かつては人だったんだ。」
「昔はイリュージョニストしてたんだ。」
「何だよ、手品師か。」
「違うよ!イリュージョンだよ、ニクラス君。」
「ニコラスだ!」
「ほら。僕だってイリュージョニストだよ。」
「こだわりがあるんだな。」
「僕の専門は大がかりな手品だからね。」
「やっぱり手品じゃねえか。」
「違うよ。僕のはイリュージョンなんだ。」
「水中から脱出したり爆発したりするヤツか?」
「そうだよ。生きてる時も得意だったけど、今なら誰にも負けないね。」
「そりゃ、実体が無いんだから最強だな。」
「それはいいけど、何で旧校舎なんだい?」
「ここならあまり邪魔にならないだろう?」
「まあ、そりゃそうだけど、学校の七不思議認定されるくらいには噂になってるんだ。」
「僕だって少しは注目されないとやってられないよ。」
「だが、階段は危ない。下手すりゃ転落して大怪我だ。」
「じゃあ、僕は生きがいを失ってもいいって言うのかい?」
「お前、死んでるだろ・・・」
「まあまあ、とにかく階段は危ないなあ。」
「中庭の噴水とかどうかしら。」
「また七不思議が増えるね。」
「では、文化祭の出し物を手伝っていただくというのはそうかしら。」
「なるほど。生徒会主催の手品って言えば、生徒は納得するね。」
「だからイリュージョンだとあれほど・・・」
「手伝ってくれるな?」
「それはもちろんだよ。噴水だけじゃ無く、爆発とかお化け屋敷だって自由自在だよ。」
「危なくないのでお願いするよ。」
「アタシもやりた~い!」
「分かった。ミントも参加していいよ。」
「うれしー!よろしくね、手品師さん。」
「分かったよ。いいよ手品師で。」
「ところで、コイツも生徒会室で引き取るのか?」
「あちこちうろつかれても困るね。」
「じゃあミント、ピートのことよろしく。」
「分かったぁ。」
「そりゃいいけど、さっきファイヤウォールは効かなかったのか?」
「熱かったよ。でも、火から出る光で僕の姿は消せても、昇天は光魔法じゃないと無理だね。」
「やっぱりそういうことか。」
「それで、階段はどうする。」
「生徒会で何度数えても12段だったということを発表しよう。」
「そうだな。コイツが変なことしなければほかの階段と同じだもんな。」
こうして、謎の13階段の秘密も解決し、生徒会室に人ならぬ者が増えた。