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陛下の懸念

 ニコラス君の補習にドウェイン君が付き添って不在のある日、私は陛下に呼ばれて執務室に行く。


「陛下、お呼びでしょうか。」

「ミッチェルか。掛けなさい。」

「はい。」


「最近、公務も本格的にやるようになったが、調子はどうだ。」

「はい。まだ不慣れで分からないところは多いですが、分からないところは担当らに教えてもらいながら、どうにか進めているところです。」

「そうか。ならばよいが、本題はこっちだ。最近、ジェニファー嬢と疎遠になっていると城内でも噂が立っていることは知っておろう。」

「はい。」

「公爵に聞いても大丈夫の一言だからな。お前に聞くのが一番だと思ったのだ。」

 と言われても、私にとってはあの彼女しか接したことがないからなあ・・・


「恐らく、彼女の中で何か変化があったものと思われます。それが大人になる過程で起こる一時的な事象なのか、学校生活のような変化がもたらした影響か、要因はいろいろあるでしょうが・・・」

「普通に考えればそうだな。それ以外に特段の心当たりは無いか。」

「特には・・・」


「彼女と直接話をすることはあるのか?」

「いえ、普段の会話はほとんどございません。」

「毎朝会っているのだ。挨拶くらいはするだろう。」

「教室では個々に挨拶というより、全員に声を掛け、全員が一斉に挨拶を返すのが一般的で、ニコラスやドウェインともそうしておりますので・・・」

「挨拶くらいはしろ。お前たちはただの級友ではなく婚約者だ。それと、生徒会交流会も彼女は欠席していたそうだな。」

「はい。近頃の彼女を見ていると、そういった華やかな場を避けているように見えます。」

「将来の立場を考えるとそれではいかんな。」

「確かにそうですね。」


「今はどうか知らんが、私の頃は交流会に欠席する高位貴族がいるというだけで騒ぎになったものだがな。」

「他の生徒は特に気にしている様子はありませんでしたが。」

「とにかく、公爵の考えがこれまでと変わらぬ限り心配ないが、それでも不仲などという噂が出ることは好ましくない。」

「分かっております。」

「学校での接触を増やすよう心掛け、城での交流頻度を高めよ。」

「そのように取り計らいます。」


 私は自室に戻り、しばし考える。

 先日、彼女から内々に婚約者辞退の意向を聞かされている。

 何が彼女を変えたのかは分からないが、ああいう心境になっているからには、彼女の方から私に近づいて来ることは無いだろう。

 まあ、女性一流の駆け引きという可能性もあるが、もう5ヶ月近くこんな調子である。

 普通のカップルなら5ヶ月ほぼ接触無しなら破局するだろう。


 であれば、原因は別にあり、解決、あるいは改善策を見つけないといけない。


 個人的には、どうせ誰かとお見合いさせられるのであれば誰でもいいなんて思うが、せっかく決まっているものを無理に解消するのもいかがなものかと思ってしまう。

 しかも、フレミング公爵家の影響力は絶大で、父と私にとっても最大の支持基盤である。


 これに代わる力を持つ貴族家に有力なご令嬢がいなかったからこそ、彼女が私の婚約者に選ばれたのだろうから、彼女の辞退はそのまま政治的混乱の勃発を意味する。


 巷では悪役令嬢モノが流行っているらしいことは知っていたが、実際はもっと強烈な女性が権力を握り、我が物顔に振る舞った例はたくさんある。

 権力者の家に生まれると言うことはそういうことであり、実際はそう簡単に断罪や婚約破棄などできる訳ないのだ。


 今回も、陛下と私さえしっかりしていれば、婚約破棄にはならないだろうが、彼女の意向を全く無視して、これからの長い人生、気まずいまま過ごすのも避けたい。


「じゃあ、どうするのがいいのかなあ・・・」

 問題点は簡単に分かるのに解決策がなかなか出て来ないなんて、公務員をやってたら日常茶飯事である。むしろ、それが日々の仕事であった。


「お茶会を増やすか。しかし、彼女が嫌がるかも知れないなあ。」

 もうすぐ2学期が始まるので、会う機会は増えるが、最も厄介なのは噂好きのギャラリーだ。

 学校なら異常に口の軽い子息令嬢たちがいるし、城なら女中たちがいる。

 だから学校でも取りあえずは仲が良い雰囲気を演出してくれるよう、彼女にお願いしないといけないし、それは城の中でも同じだ。


 しかし、そもそも彼女がそんなことを望んでいない公算が高いので、どうやって彼女の協力を取り付けるかが鍵になる。

「最終的に何を落とし所にするべきかな。選択肢はたったの二つ。このまま続行か婚約解消だけなんだが・・・」

 なかなか答えは出て来ない。


 彼女の意を全く無視したまま無理に王妃をさせるのも、現代的な感覚で行けば抵抗があるし、かといってこの時代の流儀からすれば婚約解消はリスクが高い。

 そう簡単に答えなど出るはずもない。

 やはり、もっと彼女と話をしないと何も決まらない。


「勉強会という名目で会う回数を増やしていくほかないな。」


 結局、妙案が出ないまま、無難な問題の先送りに落ち着く。

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