ニコラス、補習を受ける
「何で俺はこんなところにいるんだ?」
「ちゃんと勉強しなかったからだよ。」
夏休みも残り僅か。俺だって久しぶりの青春を楽しみたいのに学校に呼び出され、今こうして苦手な勉強に勤しんでいる。
どうやら成績下位10名は特別に補習を受けないといけないのだそうだ。
もちろんサボる気だったが、親父の部下に無理矢理引きずられてこのザマだ。
それで、何でドウェインがいるかというと、こんな俺に付き合ってくれたのだ。
コイツ、なよなよしてるけどいい奴だ。
「しかしなあ、一日中勉強なんて、普通の日より授業がたくさんあるじゃないか。」
「そりゃあ、これだけたくさんの教科で不振なんだから、仕方無いよ。」
「まあ俺の場合、ほとんどの教科が下位10位以内にランクインしてるけどな。」
「ランクインしたんじゃなくて、ランク落ちした結果のような・・・」
「はいそこ、静かにする!」
「へいへい。」
とにかく勉強なんてガキの頃から苦手だったんだ。
人生やり直そうが生き返ろうが、今さらできるようになんてなるもんか。
まあ、座るのは仕事で慣れてるから、何とか昼の休憩までは持ちこたえることができた。
「しかし、散々な目に遭ったぜ。何で進学校じゃないのにこれほど勉強しないといけねえんだ?」
「そりゃやっぱり、貴族は教養がないと馬鹿にされるからじゃない?」
「俺は別にそういうヤツを馬鹿にしたりしねえけどな。」
「そういうとこ、ニコラス君らしくていいと思うよ。」
「でも、補習受けてたヤツら、みんな俺と同じ匂いがしたな。」
「勉強しない匂い?」
「そうそう。そういうヤツはどこにでも一定数いるもんなんだよ。」
「確かにそれは言えるね。でも、この世界ではいいことじゃないよ。みんな足の引っ張り合いなんだから。」
「それは言えるな。だから馬術と剣術、魔法はちゃんと受けてるし、身体もそこそこ鍛えてるぜ。」
「物理で解決するんだ・・・」
「あったりめえよ。陰でコソコソなんてガラじゃねえしな。」
「それで?お父上は怒って無かったの?」
「ああ、何かゴチャゴチャ言ってたな。だが、ああいうお小言の大半は、中身のない自慢話だ。そんなこと言ってる暇があったら仕事しろって感じだな。」
「さすがだと思うよ。」
「俺のことは何も心配しなくていいが、お前の方はどうなんだ?このまま騎士になるつもりか?」
「僕が騎士に向いていないのは自分でも良く分かってるし、なったところで大成はしないよ。でも、それ以外にはならせてもらえないよ。それに、婚約者も僕が騎士になる前提だから・・・」
「騎士になれなきゃ婚約破棄されそうなのか?」
「分からない。でも騎士団長と副団長の家だからね。十分あり得る話だよ。」
「大変だな。もしドウェインが彼女と一緒になりたいんなら、俺も殿下も協力するぜ。」
「ありがとう。まだ自分でも将来のことをはっきり描けてる訳じゃ無いんだ。また相談するよ。」
「おお、頑張れよ。」
「いや、今頑張るのはニコラス君の方だからね。」
「そういやそうだな。まあ、補習たって2学期が始まるまでだ。もうちょっと我慢して座っとくか。」
「座ってるだけじゃダメなんだよなあ。」
「じゃあ、勉強ができるコツを教えてくれよ。」
「記憶力を伴う教科はひたすら反復して暗記するしか無いよ。」
「そりゃあ一番俺に向いてない教科だな。」
「そうで無いものは出来る事を増やしていくしかない。」
「それも反復なのか。」
「作業だと思ったら苦痛になるよ。クイズだと思えばいいよ。」
「あんまりクイズに興味ねえんだよな。」
「後は、友達や好きな子とやるってのはどう?」
「そりゃ楽しくていいな。でも、ジュリア-ナは他国だしな。」
「取りあえずは僕と殿下が協力するからさあ。せめて宰相様が怒らない程度はやろうよ。」
「アイツのためにやるとなると、モチベが下がるな。」
「もしかして、反抗期?」
「今さらそんなもん来ねえよ。何かアイツの嫌みたらしい態度が気にくわねえんだよ。」
「でも、宰相様らしい方だよね。」
「あれが家に居ると想像してみろよ。」
「僕んちだってとんでもないのがいるよ・・・」
「俺はああいうの好きだぜ。分かりやすいじゃねえか。」
「逆だったらよかったのにね。」
「俺はそう思うぜ。しかしいいのか?ウチのは嫌味だぞ?」
「まあ確かに、それは嫌だけどさ。少なくとも鍛錬はしなくていいし。」
「でもジュリア-ナは俺のもんだぜ。」
「はいはい、分かったよ。それよりもうすぐ地理の授業が始まるよ。」
「行かなきゃダメか?」
「それ、僕に聞くの?」
「じゃあサボろうぜ。」
「ダメだよ。せめて出席してよ。」
全く、こういうとこ真面目ちゃんなんだよな。
でもまあ、俺のためを思ってくれてるんだろうからなあ。
コイツ本当にいいヤツだ。