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少女達の夏休み

 夏休みになって、やっとアタシの日常が戻って来たって感じよね。


 まあ、この世界に来る以前のルシアの日常なんて、彼女の記憶の中にしかないけど、学校生活の分、生活に余裕が無くなっていたのは事実じゃない?


 夏休み中は教会でお勤めした後、午後は空いてるから楽なの。早く卒業したいなあ・・・


 それと、夏休みと言えば交流会もスルーできたわね。

 ゲーム上級者なら、ここまでに複数のルートに入るフラグを立てているか、ハーレムエンドに向けた好感度稼ぎを順調に進めているところだろうけど、アタシは初心者以下レベルの進行具合だと思う。誰からも交流会のお誘いは無かったし・・・

そんな夏の一日、アタシはイリアちゃんと街に繰り出している。



「今日もスイーツ巡りしよっか?」

「いいわね。夏だし、まずはジェラートよね。」

「じゃあ、その後はアイスね。」

「お腹壊すわよ。」

「イリアも痛くなったら言ってね。アタシの魔法で治してあげるからね。」

「聖女様の力をそんなことに使ってもいいの?」

「あら?お勤め以外は自由に使ってるわよ。」

「ルシアってホント自由よね。」

「力は使ってこそよ。」

「まあ!いいこと言ったって感じが顔に出てるわよ。」

「はしたないかしら?」

「私と一緒の時ならいいわ。それより、交流会に来てなかったじゃない。どうしてたの。」

「普段どおりよ。ああいうのに出ると、仕事が溜まっちゃうの。」

「ああ、だから行かなかったのね。でも、ああいう所は、いい殿方を射止める機会なんだから、出ておいた方がいいわよ。」

「う~ん、あんまり得意じゃないのよねえ。」

「あなたらしいわ。」


「さて、次はどこにする。」

「じゃあ、お昼まではアクセサリーをいろいろ見て回りたいわ。」

「分かった。いこいこ。」

 私たちは軽やかなステップで高級店街に駆けていく。


「ここが最近オープンしたジュエリー店ね。」

「2階は貴族用だけど、1階は平民でもOKよ。」

「でも、ドレスコードは厳しめって聞いたよ。」

「あなた、聖女様よ。何を着てても大丈夫よ。」

「そんなもんかなあ。1年半前まではただの平民だったんだけど。」

「でも、一応は男爵様と血が繋がってるんでしょう?」

「相当怪しいもんだけどね。」

 とは言っていたが難なく入店できたので、1階から商品を見て回る。

 こうやって友達と欲しい物を悩みながら散策するのはホント楽しいわね。これぞ青春って感じで。


「じゃあ、一旦2階の品も見てみない?」

「そうね。違いも知りたいし。」

「アニーへのお土産、何がいいかなあ。」

「それも一緒に考えましょう。」

 そしてフロア中央の階段に差し掛かった時、上から豪華なドレスを纏ったご令嬢が従者と一緒に下りてきた。


 こりゃあ偉い家の人だなと思ったので、階段の横によけて頭を下げる。まあ、何もそこまでしなくてもよかったかも知れないけど、アタシの顔を知ってる人だと面倒だからね。

 できれば、そのままやり過ごしたいし。


「これは、ルシア・ウォルフォード嬢とイリア・オズボーン嬢ではありませんか。」

 ゲッ!この声はジェニファーじゃない・・・


「ジェニファー・フレミング公爵令嬢様、本日もご機嫌麗しゅう。学友として嬉しく存じます。」

「ありがとうございます。そのように畏まらなくても結構ですよ。道をお譲りいただき感謝しますわ。では、ご機嫌よう。」

 そう言うと、あっさり出口の方に向かう。

 さすがのアタシも腋の下に嫌な汗をかいたわ・・・

 でも、咄嗟の対応としては上出来じゃ無い?

その後は、ドッと疲れた身体を引きずってアニーへのお土産を買ったわ。


~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/


 夏休みも後半を迎えて、自由研究や宿題も終えましたし、2学期の予習も順調に進んでおりましたので、今日はブレンダとともにジュエリーを求めにやって来たのです。


 普段は出入りの商人に屋敷まで来ていただくのですが、息抜きをしたかったのと、新しくオープンした評判のお店があるということでしたので、思い切って外出することにしましたの。


 個人的には安くて可愛い物が好きなんですけど、私の立場と、中身とあまりに不釣り合いな見た目から、どうしてもそういった物に手を出すことができず、案内係に誘導されるままに2階の応接室に直行となりましたの。


「あの、本日は普段使いの物を見に来ましたの。」

「では、ショーケースのものと同じ物をお持ちいたします。」

「いえ、できればその、ショーケースのコーナーを見て回りたいのですが、ご迷惑でしょうか。」

「とんでもございません。しかし、公爵家の方を歩かせてガラス越しに吟味させるのは、少々・・・」

「そうなのですね。お店の評判にも影響が出るのですね。」

「ご希望に添えず、申し訳ございません。」

「それでは髪留め、ブローチ、イヤリングを拝見したいのですが。」

「それではすぐにお持ちいたしますので、お待ち下さい。」

 そう言って壮年の店員さんは急いで退室します。

 やはり、日時を決めて屋敷にお呼びするのが良いのでしょうか・・・


 そんなことを考えていると、すぐに店のオーナーが来て下さり、いろいろなお話をさせていただきました。

 結局、ブローチを4点、イヤリングを2点購入しました。

 どれも庶民が購入するにはお高いかも知れませんが、貴族にとっては安価なものです。


「せっかくブレンダと一緒に選びたかったのに、ごめんなさい。」

「いいえ。私はお嬢様と一緒であれば、どこでも楽しいですし、光栄です。」

 恐縮する若い店員さんを従えて応接室を出て階段を下りた時、通路を譲ってくれたご令嬢がおりましたので、前を通り過ぎるときにお礼を申し上げようと彼女の方を見た時に一瞬、身体が硬直してしまいました。


「これは、ルシア・ウォルフォード嬢とイリア・オズボーン嬢ではありませんか。」

 こう言うのが精一杯でしたわ。


「ジェニファー・フレミング公爵令嬢様、本日もご機嫌麗しゅう。学友として嬉しく存じます。」

「ありがとうございます。そのように畏まらなくても結構ですよ。道をお譲りいただき感謝しますわ。では、ご機嫌よう。」

 私はただ足早にこの場を去ることしかできませんでした。


 それにしても、こういうイベントは無かったはずですから偶然なのでしょうけども、彼女と一緒に居たのはチュートリアルキャラです。

 この時期にまだ誰のルートにも入っていないということなのでしょうか。

 今回のプレイの難易度は分かりませんが、もしこれが初級モードなら由々しきことです。

 何故なら、今回のヒロインがその程度の腕前と知識しか持ち合わせていないということですから・・・


 どうしてこのとうな事態に陥っているのでしょう。

 もしかして、私が想定外の動きをしているからでしょうか。

 理由は知る由もございませんが、バッドエンドは誰にとってもバッドです。

 私は何かするべきなのでしょうか・・・


「お嬢様、今日は良いお買い物ができましたね。」

「あ、ええ、そうね。いい気分転換になりましたね。では、はい、これ。」

「あの、これは?」

「これはブレンダに買ったものですよ。こちらのブローチはメアリーとドロシーの分です。みんなお揃いですのよ。」

「お嬢様・・・」

「ああいった場では、あなたはお買い物できませんものね。次は露店でお買い物もいいかも知れませんわね。」

「グスッ・・・」

「あら、またブレンダを泣かせてしまいましたね。」

「とても嬉しいです。本当に・・・」


 今日は驚きと不安も湧きましたが、良い一日だったかなと思います。


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