何故か自由研究
さて、夏休み最大の行事は終わったが、夏休みはまだまだ続く。
特に地方出身の生徒は交流会後にそれぞれの領地に帰省する者がほとんどなのである。
話は変わるが、この学校には夏休みの自由研究というものがある。
やったなあ、小学生の頃。
でも、やりたくてやっていた訳じゃ無いから、どんなことをしたのか全く記憶が無い。
「あ~あ、宿題なんて面倒くさいな。」
「さすがの私もそれには同意だね。」
「領地に帰省する人たちは僕たちより大変だよね。」
「往復の時間は何もできないんだからな。」
「それで、どうするんだい?」
「僕はアサガオの観察日記にするよ。」
「随分子供っぽい題材を選んだな。」
「どうせ成績には関係無いんだし、モチベ上がらないよ。」
「でも、ドウェイン君ならもっといい題材できるんじゃない?何か勿体ない気がするね。」
「そうかなあ。じゃあ、何がいいと思います?」
「騎士団の歴史を調べるとか?」
「せめて夏休みの間くらいは、そっちのことは忘れたいなあ。」
「そういう殿下は何をやるつもりなんだ?」
「私は聖剣フルンティングについて調べようかと思っているよ。」
「まあ、王になるなら知っておくべきことだもんな。でもそれ、ドウェインがやれば父上も大喜びだと思うぞ。」
「だから嫌なんだよ。」
「まあ俺も、国の経済や財政なんて調べたくないからな。気持ちは分かるぜ。」
「そういうニコラス君は何をやるの?」
「俺は効率的な荷台の使い方と荷物を積み込む手順だな。」
「何を調べるつもりなんだよ・・・」
「実用的だと思うんだけどなあ。」
アイデアを出し合った結果、ドウェイン君は「歩兵と弓兵、槍兵ごとの理想的な筋肉の付け方」に決まり、それぞれ研究を行う。
「それで、今日は二人に荷物の運び方と荷台への載せ方を伝授する。」
「じゃあ、早速やろう。」
「まず、重くてデカい物からだな。」
「それ、一番手前に載せた方が降ろすときに楽なんじゃ無い?」
「大型の荷台の場合はそうしてもいいが、馬程度の馬力しかないなら、車軸の上若しくは荷車の重心に近い所に配置した方がいいな。」
「そうか。じゃあそれを計算しながら載せていこうか。」
いや、単純に王族が何やってんだって話なんだけど・・・
そして、全部積み込んだ後に馬車を実際に動かして加速の具合やスラローム走行をして小回りの具合を確認していく。
「意外に研究らしくなったねえ。」
「そうだろ?こういう実用的な研究こそ、世の中に役立つものだと思うぜ。」
「まあ、宰相に必要な知識かと言われると微妙だけど。」
「まあ、これを親父の部下使って文章にまとめれば、俺の分は完成だな。」
自分で書けよ・・・
「じゃあ、次はドウェインのを片付けようぜ。」
次の日は騎士団にお邪魔してドウェイン君の自由研究を手伝う。
まあ、騎士はどの武器であっても一通りこなすことができるが、その任務の特性上、剣や槍を扱う者が多く、弓を主要装備としている者はごく少数しかいない。
そんな騎士達をパン一にして、身体測定をする。
「いやあ、さすがは殿下。愚息の研究を手伝っていただきかたじけない。」
「この研究は、タウンゼント卿にとっても有意義なものでしょうから、期待していて下さい。」
「それがしの鍛え上げた肉体も是非、調べてみて下され。」
まあ、男の裸なんて、見たいわけじゃ無いが・・・
「ドウェイン、身長も測るのか?」
「ええ、身長と胸囲や腰回りの比率も出しておきたいと思いまして。」
ほかに体型や略歴、普段の訓練メニューを調べた後に、それぞれの運動能力、筋力などをテストして調査は終わった。
二人の研究は、高校生レベルと考えると微妙な題材だが、きっとこの科学レベルの世界においては画期的な研究ではないかと思う。
いや、荷台はそうでもないか・・・
それはさておき、残る私の研究課題、聖剣を調べるため、私は一日図書館に籠もり、次の日に実物が保管されている神殿に三人で足を運んだ。
「ここの地下に聖剣が保管されてるんだって?」
「王族以外は見ることすら叶わないものだよ。」
「それで魔王と戦うんだってな。」
私たちは神官長の案内で神殿地下の保管場所に向かった。
聖剣は石の台座に刺さった状態で保管されている。
見事なまでにテンプレだ・・・
「これが聖剣フルンティング。」
「いかにもって感じの剣だな。」
「王族しか抜けないって本当かなあ。」
「ええ、本当でございます。しかも、国家危急の場合で無ければ、王をもってしても抜くことはできません。」
「じゃあ、王がここに差さずにいつも身につけていればいいんじゃないか?」
「この剣は身につけている間、魔力を消費し続けるんだ。だから持っているだけで負担になる。」
「なるほど、健康に良くないんだな。」
まあ、そうとも言う。
「じゃあ、城で無く神殿で保管しているのもそういう理由かな。」
「そうお考えになっても間違いではございません。この台座は神殿が作ったものですから。」
「じゃあ、試しに抜いてみたらどうだ?」
「神官長、よろしいでしょうか。」
「まあ、抜くことはできないと思いますが。」
私は剣を握る。確かに何かが吸い取られるような感覚がある。
そして、剣を引き上げる・・・
それはスルッと抜けた。
「・・・・」
あまりのあっけなさに一同沈黙・・・
「抜け、ちゃった・・・」
「国に危険が近付いているっていうことなのかなあ。」
「すぐに皆に知らせてまいります。」
神官長は急いで駆けていく。
「取りあえず、どうする?」
「元に戻して帰るか。」
「そうするよりほかないね。」
「とにかく、王族なら抜けるって証明はできた。」
「それって、書いていいのかなあ。」
「研究成果としては十分過ぎると思うぞ。」
「まあ、出す前に陛下に相談してみるよ・・・」
今からでも別の題材に変えようかな、なんて考えつつ、帰路に就く。




