やはり肝試し
この交流会って、俺のためにあるようなイベントだな。
ダンスパーティーにビーチでのBBQ、そして肝試しだ。
今回の肝試しは、宿泊所裏手の森にある祠まで三人一組で行くものだ。
道は周遊路となっていて、一度出発してしまうと、ゴールまで他のグループと会うことはないはずだ。
そして、所々にお化け役の先生が潜んでいるという趣向らしい。
ちなみに、俺のパートナーはキャロライン・ゴールドバーグ嬢と彼女の取り巻き筆頭、カミラ・エルドリッジ伯爵令嬢だ。
「じゃあキャロライン嬢、カミラ嬢、よろしくお願いするよ。」
「こちらこそよろしくお願いしますわ。殿下。」
俺たちは先頭だ。まあ、生徒会副会長だからこれは順当としたものだろう。
そして、真っ暗な森の小径に入る。
「とても光栄なことではあるんだが、キャロライン嬢はどうして俺をパートナーに?」
「七不思議の際に、とても頼りがいがあると思ったからですわ。」
そういや彼女、普段の強気な振る舞いとは対照的に、お化けは苦手そうだったな。
「でも、ミッチェル殿下やニコラスも度胸なら申し分無いぜ。」
「ミッチェル殿下はニコラスとドウェイン様の三人で挑戦すると聞きましたわ。」
まあ、ミッチェル殿下はともかく、ニコラスとは合わなさそうだしな。
「そうか。殿下たちは男三人なのか。それなら俺が見目麗しいご令嬢二人を独占しても問題無かったんだな。」
「嬉しい事をおっしゃってくださいますわね。」
とはいうものの、両腕を二人にガッチリホールドされていて歩きづらいことこの上ない。
しかもキャロライン嬢は内股でプルプルしながら歩いている。
「キャロライン嬢を見てると、何だか生まれたての仔牛のようだな。」
「殿下、そこは子鹿ですわよ。」
と、その時。
ガザガザッ!
「キャーッ!」
すぐ近くの茂みで大きな物音とキャー×2が響いた。
これにはさすがの俺も一瞬固まる。
そしてすぐに笑いがこみ上げる。
「雰囲気あるなあ。大丈夫だよ。」
二人は俺にしがみついて震えている。
そうだよ、これこそが肝試し最大のメリットだ。
頑張ってくれている先生方に感謝しつつ、先を急ぐ。
すると前方がポッと明るくなり、ぼんやり祠が見える。
「キャーッ!コワいですわ!」
「私も、もうダメでございますっ!」
「落ち着いて、大丈夫。あれは火の魔法だから。」
「あぁ、そうですの?」
「二人は俺が守る。だから気を強く持っていればいい。」
俺は吊り橋効果を最大限利用するつもりだ。
そして、そこそこ明るい祠に置かれている通過確認用の紙に印とサインを書いてゴールに向かう。
「何とか、もう少しでゴールですわね。」
「俺としては、少し物足りないな。ご令嬢と仲を深めたければ、もう少し長い距離があった方が良い。」
「私は、十分でございますわ。」
キャロライン嬢はしっかり腕にしがみつき、顔を肩にピッタリ寄せる。
その瞬間。
またしてもガサガサという音とともに突風が吹いてきた。
「イヤァ-ッ!でございますっ!」
いきなりキャロライン嬢は手を前に突きだし、無詠唱で火属性魔法をぶっ放した。
ドンッ!
「うわぁっ!」
何かが後ろに弾け飛んだ。
「ヤバい、ここから早く離れよう。」
「分かりましたわ。」
俺たちは足早にゴールに向かう。
普通、術式を組んでいない魔法なんて大した威力は無いはずだが、恐らく彼女の純粋な魔力放出だったのだろう。
そして同時に、彼女の持つ最大火力だろうが、それは見事なものだった。
意外にコイツ才能あるかもなと思いつつ、二人と手を繋いで走る。
ところであれ、誰だったんだろう・・・
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私たち生徒会役員は最終組だ。
みんなの安全を確認しながらの移動となる。
前の方では生徒達の悲鳴があちこちから聞こえる。学校の肝試しらしい光景だ。
「実は僕、お化けが大の苦手なんだ。」
「知ってるよ。七不思議の調査に巻き込んでゴメンね。」
「いや、殿下の側近として恥ずかしいよ。」
「別にいいじゃねえか。魔物は平気なんだろ。」
「まだ見たこと無いから分からないよ。」
私たちが祠を過ぎてゴールに近付くと・・・
「だ、誰か・・・」
「うわぁっ!」
「ドウェイン君、落ち着け。」
「誰だ?誰かそこにいるのか?」
「僕だよ、ジェームズだよ・・・」
私たちは暗闇の中、何とか先生を見つけ、助け起こしながら遊歩道まで戻って来る。
「先生、どうしたんですか。」
「いやぁ、生徒を驚かせようとしたら、魔法を撃たれてね。」
「お怪我されているじゃありませんか。すぐに戻って手当てしてもらいましょう。」
「しかし、撃った生徒はもちろん、これまで誰も助けないとは。」
「みんな驚いて逃げてたよ。役目だけはきちんと果たせたんじゃないかな。」
「そんな・・・」
先生は全治2週間と診断された。
まあ、大事に至らなくて幸いだ。
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楽しみにしてた学生交流会は散々だった。
ダンスは空振りだったし、溺れるわ火傷するわでとにかく災難しか無かった。
何より、女子生徒から「魔法の先生が魔法でやられるなんでダサい」と言われてしまったことが僕にとって一番ダメージがデカかった。仕方無いだろ。
あんな至近距離であの威力のものを不意に撃たれたら、超一流の魔道士だってこの程度の怪我はするって・・・
後でキャロライン嬢から謝罪は受けたが、何ともやりきれない思いで一杯だ。
ああ、これからどうやって名誉挽回すればいいんだろう・・・