夏休み交流会
夏休みに入り、生徒会主催行事である交流会の日となった。
これは王都ブランドン郊外にある湖畔の宿泊施設で全校生徒を対象とした催しである。
目的としては、生徒同士の親睦を図るためであるが、まだ婚約者が決まっていない子息令嬢にとっては重要なお見合いイベントでもある。
こういった生徒間の交流イベントが多いのは、この時代の上流社会特有のものなのだろう。
そして、生徒会役員はスタッフとして陰日向問わず奔走することになる。
日程は二泊三日で、湖水浴や肝試し、ダンスパーティーなど、いかにもといった行事が予定表に並ぶ。
なお、宿泊施設は学校が所有するもので、2学期に予定されている合宿訓練もここで行われる。
「こうやって見ると大移動だな。」
「生徒の8割近くが参加しているからね。これに引率の先生や荷役作業の人員とか料理人を含めると凄い数になる。」
「さすがに男子は野営なんだよね。」
「いくら夏とは言え、ご令嬢を外で寝かせる訳にはいかないからね。」
「みんな泳ぐのか?」
「それが不思議だよねえ。ほとんどの生徒が泳ぐらしい。」
「まあ、男はスケベ心満載だから泳ぐだろうけど、ご令嬢はそもそも泳げるのか?」
「岸に近いところでバシャバシャするだけじゃない?」
「事故さえ無ければ何でもいいよ。」
そんなことをいいながら目的地に到着する。
その後は出欠確認をして、しばし自由時間だ。
「さあて、夕食までは自由だな。今のうちに一杯引っかけておくか。」
「ニコラス君、一応学校行事だからね。」
「殿下、固いこと言っちゃあいけねえ。せっかくの夏休み、しかも親父の目が無いんだ。」
「おお、いいねえ。俺も交ぜてもらっていいかい。」
「ローランド殿下がいれば無敵だな。ドウェインもどうだい?」
「僕はお酒飲まないよ。」
「何だ。いかにもって面してるのに、下戸か?」
「美味しくないよ・・・」
「まあ殿下、早速お酒を召し上がっているのですね。」
「キャロライン嬢も一杯どうだい?ここはマナーとか固いことを考えなくてもいい場所だ。」
「そうですわね。ために羽目を外すくらい、いいですわね。」
「だそうだ。ミッチェル殿下も気にせず飲めばいいさ。」
「いや、役員自ら飲むのはマズいんじゃないかい?」
「一国の王族が二人もいるんだ。教師だって口を挟めないさ。」
「夜のパーティーですら酒は出ないのに・・・」
とはいうものの、多数決で、いや、ニコラス君たちは構わず飲み始める。
キャロライン嬢の取り巻きもやって来て、最早隠しようも無いほどに盛り上がってしまう。
「ところで殿下、婚約者は欠席ですの?」
「そうみたいだね。理由は聞いてないけど、参加しそうな雰囲気じゃないよね。」
「殿下の婚約者としては、せめてお手伝いでもするべきではありませんの?」
「まあ、役員でもないしなあ。」
「そもそもそれがおかしいのですわ。殿下が日々これほど苦労して、さらに七不思議の解明にも絶大な貢献をしているというのに。」
「七不思議はイレギュラーだけどね。」
「こんな大切なお役目を放り出して勉強で首位を取っても、値打ちは半減ですわ。」
「まあ、彼女が生徒会入りしなかったことについては、私の不徳の致すところでもあるから、勘弁してくれると有り難いなあ。」
「私から見れば、殿下の優しさに甘えているとしか思えませんわ。いずれは王族になるという自覚に乏しいと誹られても仕方の無いことです。」
そんな誹り、初めて聞いたが、そのうちそう言った声が出ないとも限らないんだよなあ。
「まあいいじゃねえか。みんなが全てこういう場が好きな訳じゃ無い。」
「さすがは宰相様のご子息であらせられますこと。でも、行き過ぎた博愛主義は良い事よりも悪い事の方が多いのでございますわ。」
何か、お酒の力なのか、いいこと言ってるような気がする。
「そういうお前だって、学級委員長でクラス10位はちょっとな。」
「あなたはクラス最下位だったじゃありませんか!」
「馬術は首位だったぞ。」
「馬が優秀だったのですわ。」
「口だけは達者じゃねえか。」
「次は勉強で馬に勝つべきですわ。」
「いきなり無理な目標を掲げると成長を阻害するんだぞ。」
「まあまあ、そのくらいにしませんか。」
「そうですわね。建設的な話にはなりそうもありませんし。」
「そっちが矛を収めるならいいぜ。」
いつの間にかローランド殿下は取り巻きのご令嬢方といい感じになってるし・・・
「やっぱりお酒が入るとこうなるんだねえ。」
「僕は飲んでないよ。」
「私もだ。」
「殿下もお酒は飲まないんですか?」
「いや、さすがに学校行事で飲む気にはならないなあ。」
「今夜のパーティーに酒は出ないのか?」
「出るわけないでしょ。」
「残念だなあ。親睦を深めるにはもってこいのアイテムじゃないか。」
「翌日覚えていない親睦は避けたい。」
「それに明日は泳ぐんだからね。」
「ご令嬢方も皆さん泳ぐのかい?」
「ローランド殿下とご一緒したいです。」
「いいぜ。みんなで浜辺に繰り出そうじゃないか。」
「元気だねえ。バレッタではいつもこうなのかい?」
「いや、この国に来てからだよ。意外に最近のデビューなんだよ。」
「さあ、そろそろ夜の準備だ。先輩方の手を煩わせちゃいけない。」
「そうだな。ちょっくら頑張ってくるか。」
こうしてダンスパーティーの準備に向かう。
それにしても先生方、注意に来なかったな・・・




