期末試験に向けて
さて、7月に入ると1学期の期末試験がある。
この学校では、家柄や将来の就職のために熱心に勉強する層と、お茶会や友人作りに熱心な層にはっきり別れている傾向があるが、生徒会メンバーはどちらも手が抜けない人たちの集まりである。
そして、本来は成績優秀な人の集まりである。本来は・・・
「ニコラス君、ここ間違ってるよ。」
「いや、合ってるはずだぜ。」
「何で3分の1が0.2なんだよ。」
「だいたいそれくらいじゃないか。」
「せめて0.3にはして欲しいな。」
「ドウェイン、細かい殿方はモテないらしいぞ?」
「僕は婚約者がいるから今さらモテる必要はないよ。」
「おっ?俺だってそうだぜ。」
「まあ、それはいいから、次の問題やろうよ。」
「しかし、何で今さら算数なんてしなけりゃいけねえんだ?」
「それ、できてから言おうね。」
「だいたい、足し算と引き算ができりゃ、何も困らないじゃねえか。」
「いや、掛け算と割り算は必要だと思う。」
「じゃあ、分数も小数も要らねえな。」
「いや、試験に出るから・・・」
この学校では基本的に非行を行わない限り落第はしない。
でも、クラスは成績順で振り分けられるし、あんまり成績が悪いのは貴族の体面的によろしくない。
特に、宰相のご子息ならトップを争っていて欲しいのだ。
「でも、俺レベルのヤツ、結構いると思うぜ。」
「確かに、僕の父上は割り算できないっぽいけど、騎士団長ならともかくニコラス君はできないとお父上に叱られると思うよ。」
「何だ。アレン団長は割り算できないのか。」
「そんなもん出来なくてもいいって言ってた。」
「数は数えられるんだよな。」
「敵の数なんて見りゃ分かるって言ってた。」
「きっと天才肌なんだろうな。」
「剣の指導だってそうなんだ。もっと右からズバッと、とか、剣がぶつかった瞬間にドン・バーンだ、とか。」
「分かりやすいな。」
ニコラス君、そっちだったか。
「しかし、ドウェインのお父上は間違い無く天才肌ではあると思うよ。」
「俺もそう思うぜ。」
「僕は紙一重であっちだと思うんだよね。」
「ところでニコラス君、ここの答えは56だよ。」
「ああ、だから56って書いてあるだろ。」
「65って書いてるよ。」
「えっ?そうか?これが5でこれが・・・」
「違うよ。それは6。」
「なのか?俺は今までこれが5だと思ってたんだが。」
「前途多難だねえ。」
「よく父にも計算間違いだって言われるんだよなあ。やっと原因が分かったぜ。」
「まあ、試験まであと一週間だ。できるとこまで頑張ろう。」
「ところで、ドウェイン君は勉強進んでるの?」
「僕は結構自信あるよ。神学や地理、歴史なんかは暗記することが多くて大変だけど。」
「でも将来は騎士になるんだろ?無駄な知識だな。」
「必要な知識が身についてないニコラス君に言われるなんて・・・」
「俺だって馭者に必要の無い知識を詰め込んでるんだぜ。」
「まず馭者になるっていう前提からしておかしいんだよなあ。」
「だって殿下の側近だろ?馬車くらい操れないでどうするんだよ。」
「いや、そんなことできなくたっていいんだよ。」
「俺の手綱さばき見ただろ。城の馭者より上手い自信あるぜ。」
「まあ、そうだろうけどさあ・・・」
「きっと宰相様に反対されると思うよ。」
「別に宰相なんてなりたいヤツがなればいいし、家だって継ぎたいヤツはいくらでもいるだろ。」
「でも、家は継がないと婚約は破棄されるかも知れないよ。」
「あっ!それもそうだな。それはちょっとマズいな。」
「愛するジュリア-ナだっけ?彼女は侯爵夫人をになれると思って嫁いでくるんだから。」
「今度会ったら聞いてみないとな。」
「いや、答えは分かりきってると思うんだけど。」
「どんなご令嬢なんだい?」
「結構明るくてノリが良かったぞ。まあ、一度しか会ったことはないんだが。」
「いくらノリが良くても、馭者の妻になってくれるかと言えば・・・」
「おいおい。まさか殿下まで馭者は負け組なんて言わねえだろうな。」
「そんなことは思わないけど、貴族の暮らしじゃないよね。」
「朝から晩までつまらん書類と睨めっこしてるのが貴族らしいとも思わんがな。」
「確かにそれは言えてる。」
「要は、愛する妻をどれだけ喜ばせるかだと思うんだ。はっきり言うが、ウチの父はその点不十分だな。」
「まあ、僕たちも応援はするけど。」
「次にジュリア-ナ嬢がこちらに来る機会があれば、私たちにも紹介してよ。」
「ああ任せとけ。それと、協力頼むぜ。」
結局、毎日こんな調子であんまり勉強に集中できなかった。
そして大方の予想どおり、ニコラス君の試験の出来はあまり芳しいものでは無かったみたいだ。