教師と貴公子
「まあ殿下、今日の髪型もなかなかおしゃれですわね。」
「そういうバーバラも深紅の髪飾りがとてもお似合いだよ。」
「ありがとうございます。」
「さあ、皆さん方もこっちに来て座りなよ。」
「キャーッ!」
「あなた邪魔ですわよ。もう少し端に移りなさい。」
「校内では身分は関係無いと先生もおっしゃっておりましたわ!」
「それは建前よ!淑女なら分を弁えなさい。」
この学校の敷地西側にはちょっとした庭園があり、生徒達の憩いの場となっているが、最近の昼休みはもっぱらローランド殿下とそれを取り囲むご令嬢方が占拠している。
「これはローランド殿下。相変わらずお盛んなことですね。」
「ああ、ジェームズ先生ですか。」
「いくら昼休みが自由とは言っても、これは風紀上、無視できない騒ぎですね。」
「ご心配いただき申し訳ございません。しかし、私も生徒会副会長で一国の王族。自覚も信用もありますので、ご懸念には及ばないかと。」
そう言われると二の句が継げない。
相手は王族だし、僕とは違って陽キャだし・・・
でも何でだろう。僕だってルックスは遜色ないのにこの差。
やっぱり王族だから?
ステータスってそんなに重要?
「し、しかし、ご令嬢の中には許嫁のいる方もちらほらおられるご様子。あまり好ましく無いのでは?」
「これだけたくさんいれば、そういうご令嬢の一人や二人、いても不思議ではないと思いますが、何か?」
「いや、他の生徒の風紀にも影響するし・・・」
「先生、私たちの貴重な時間を邪魔しないで下さいまし。」
「そうです。いくら先生といっても、学生同士の親睦を妨げるのはよろしくないと思います。」
「これだけ沢山の人がいて、不純異性交遊など起こるはずがありませんわ。」
「先生だって先週、私を誘って来ましたわよね。」
「二人きりになったのですか?」
「いいえ、婚約者がおりますのでお断りしましたわ。」
「そちらの方が遙かに危険な問題行為ではありませんこと?」
マズい。
ここにいる女子生徒みんな殿下の味方だ。
「あ、あまり騒ぎすぎないように。ここは静かに休みたい生徒だって来るんだから・・・」
「ジェームズ先生、とてもおウザでございますわよ。」
「そうですわ。しつこい殿方は嫌われるのでございます。」
「残念ながら殿下と先生ではウマとロバほど違いがございますわ。」
「グヌヌ・・・」
何でここまで言われなければいけないんだろう。
そんなに差があるとは思えないんだけど。
「先生。短い憩いの一時、校内の隅で慎ましく楽しむくらいは許してくれてもよろしいのでは?」
「ま、まあ、あまり騒ぎすぎないように・・・」
そう言って退散するのが精一杯だった。
彼女たちの嬌声が背中に突き刺さる。何だか悔しい。
しかし、どうしてここまでの差が付いて付いてしまったんだろう。
新学期早々は僕だってかなりモテていたはずなのに。
やっぱり陽キャオーラが足りないんだろうか。
それとも、大人しいタイプの子に絞った方がいいんだろうか。
そんなことを考えながら職員室に戻り、崩れるように自席に座る。
「先生、まだお昼なのに随分お疲れのようですね。」
「ああ、最近の若い生徒は奔放過ぎてね。指導が大変だよ。」
「先生もまだお若いではありませんか。」
「いやあ、私の全盛期でも、あのパワーは無かったよ。」
「もうすぐ午後の授業ですけど、元気を出さないと乗り切れませんよ。」
「クレア先生はいつも元気ですよね。」
「仕事ですからね。それにしても、最近ジェームズ先生の雰囲気が変わったように思われますが。」
「そうかい?例えばどんなとこ?」
「以前はもう少し仕事と魔法の研究に熱があったと言いますか、それでいて近寄りがたい雰囲気があったというか。」
「自分では無自覚なんだよねえ。」
「テストの採点が遅いなんてこと、考えられませんでした。」
そうか、そういう些細な違いを修正していく必要があるんだな。
僕の記憶の中でも、以前はもっと羨望の眼差しで見られていたような気がする。
「もしかしたら僕自身、いろいろ見失っていることがあるのかも知れないねえ。」
「先生、以前はご自分のこと、私って呼んでいましたよ。」
「気分を一新したつもりだったけど、ダメだったかなあ。」
「もう少し、教師らしく威厳を持たせた方が良いと思います。」
「分かったよ。元に戻すよ。これからも気が付いたことがあったら遠慮無く教えてよ。」
「そもそも、以前は私なんかが気軽に話しかけられる雰囲気ですらありませんでしたが・・・」
「いや、親しみやすさも重要だと思うんだ。」
話しかけづらい雰囲気じゃ論外だからね。
「では、私でよろしければ都度、お伝えいたしますわ。」
「よろしく頼むよ。」
たかちゃん、第二ラウンドはそう簡単にへこたれないぞ!