側近候補たち
貴族学校入学を数日後に控えたこの日、私は陛下に呼ばれて国王執務室に向かう。
一応、王族としてのマナーは身体が覚えているが、この緊張感を払うことはできない。
そりゃそうだ。これから会う人は、知事より遙かに偉い人なんだから。
「失礼いたします。ミッチェル・アーネット、ただ今参上いたしました。」
「ミッチェル・アーネット第一王子、入るが良い。」
「はい。」
室内に入ると、陛下はいつもの執務机で仕事中であり、脇に宰相が立っているが、その手前に二人の少年が立っている。
「良く来たなミッチェル。」
「陛下におかれましては、本日もご機嫌麗しゅう、このミッチェルも嬉しく存じ上げる次第です。」
「まあ、堅苦しい挨拶はそのくらいで良い。」
「はい。」
「来てもらったのはほかでもない。そなたももう15になったし、すぐに貴族学校に入る。そこでだ。将来の側近候補を紹介しようと思ってな。」
そういうのって、幼馴染みから始めるもんじゃなかったの?
「まず、そちらにいるのがニコラス・ラトリッジ侯爵令息。そこにいる宰相のご子息だ。」
「ニコラスです。よろしくお願いします。」
「ミッチェル。アーネットです。以後、よろしく。」
宰相は切れ者という評判だから、ご子息もきっと相当優秀なのだろう。
「そしてこちらが、騎士団長ダウンゼント子爵家のご子息でドウェインだ。」
「殿下、お初にお目に掛かります。ドウェインと申します。」
「ミッチェルです。これからよろしくお願いします。」
文武双方で側近を付けるということなのだろう。
「では、ここで話すのも緊張するだろう。その辺を散策してくるとよい。」
「ではお二方。私がご案内しましょう。」
ミッチェルは王宮の庭園を案内する。
内心、女性ならもっと喜んでくれるのだろうが、とは思ったが、あのまま陛下や宰相を前に弾まない会話に終始するよりは、外の空気を吸いながら歩いた方が力も抜けるし、何より気楽だ。
「やっと解放されましたね。王宮は初めてで?」
「はい。成人前は特に呼ばれねえ限り、来ることはないと思います。」
確かに、そのような機会が過去にあった記憶は、ミッチェルだった記憶を紐解いても出て来ない。そういうものなのだろうか・・・
「まあ、これからは気軽に来てくれると嬉しいよ。それに、学校でも会うわけだしね。」
「そうですね。毎日勉強は憂鬱でしかないがですが。」
うん?さっきから何か違和感あるな。
「僕は勉強するのが楽しみです。」
おいおい。こっちは見た目と真逆の喋り方だなあ。
どっちかというと、ニコラス君が騎士団長の息子と言われた方が、まだ納得出来る。っていうか、ニコラス目力強いな。
「ドウェイン殿は剣の鍛錬だけでなく、勉学にも励んでいるのですね。」
「正直、僕に剣は向いていないですので。」
腕がそんなに太いのに意外だ・・・
「でも、卒業と同時に騎士団に入るのですよね。」
だから将来の騎士団長候補として、ここにいるのだろうし。
「本音は学者になりたのですが。」
「いいじゃねえか。それがドウェインの目指す道なら、俺は応援するぜ。頑張りな。」
「あれっ?やっぱりニコラス君はそっち系の人だったの?」
「あっ、しまった。」
「いいよいいよ。陛下や君のお父上がいる所ではダメなんだろうけど、三人の時はお互い素のままでいいよ。」
「こりゃありがてえ。どうも堅苦しいのは苦手で・・・」
「お父上はこれ以上無く堅そうですが。」
「いやぁ、面目ない。」
「それに、ドウェイン君も何か見た目と違い、弟みたいですね。」
「仲良くなれるよう、頑張ります。」
「そうだね。私の事も三人の時はミッチェルでいいよ。」
「いやいや、いくら何でもそりゃいけねえ。せめて殿下にしとかないと。」
「そうですよ。それがクセになっちゃうと、肝心な時にミスをしてしまいます。」
「ハハハッ、ドウェイン君も素が出てきたねえ。」
「殿下もそういうキャラだったんですね。」
「何か、久しぶりに気兼ねなく話せるな。」
「そうだね。二人とも親しみやすくていいと思うよ。それにしても、同い年なのにこの歳で初対面って、何だか変だよね。」
「僕は一昨日初めて側近の話をされました。」
「俺もだ。しかもそこで初めて俺が家の跡継ぎに決まった。」
「そういうものなのかなあ。」
「良く分からんが、そんなもんなんだろうな。」
「私としては、もっと同年代の子ども同士、交流を深めた方がいいと思うんだが。」
「もう俺たち、子供じゃないしな。」
「僕のところは、どっちみち鍛錬しかさせてもらえなかったと思うよ。」
まあ、そんなことを話しつつ、初顔合わせは無事に終わった。
取りあえず、腹に一物ありそうな人物でないことは良かった。