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交錯する想い

 翌日、ミッチェルはジェニファーを誘い、昼食を共にした。


 この学校、さすがに貴族らしく2時間も昼食タイムがあるので、比較的ゆっくり話が出来る。

 ランチボックスを持って中庭の噴水近くに陣取る。

 ここは食事を取る者も通行も多く、賑やかな上、見通しの良い場所なので、目立つけど話を聞かれる心配もないだろうという判断だ。


「ブレンダ嬢も久しぶりだね。元気にしてたかい?」

「はい。お気遣い頂き畏れ多いことでございます。」

「そんなに改まらなくていいよ。それとジェニファー嬢、急に誘って済まなかった。」

「いいえ。こちらこそ昨日は失礼をいたしました。」

「いや、こちらこそ何度も済まないし、気が進まなかったのなら申し訳ない。」

「そんな・・・私のことならお気遣い無く。」

「じゃあ、早速食べよう。そんなに緊張することはない。軽く雑談するような感じでいいんだ。」

「はい。」


 とは言うものの、何となく雰囲気が固い。

 ミッチェルの記憶のどこにもこんなジェニファーは存在しないのだが・・・


「学校はどう?勉強とか難しいところは無い?」

「正直、とても難しいとは思いますが、予習復習を丹念に行い、何とか付いていっているような次第です。」

 ちなみに、予習復習をするようなジェニファーも存在しない。


「そうか。頑張ってるんだなあ。入学してからとても雰囲気が大人びたから、良いことだとは思うけど、ちょっと心配になってね。」

「ありがとうございます。今までの自分を省みて深く反省し、フレミングの名に恥じないようにと考え、振る舞っているものでございます。」

「とても立派な考えだと思うよ。あまりに急な変化だったから、私が嫌われてしまったのかと思ったけど、そうでは無かったのかな。」

「殿下をお嫌いになるなどとんでもございません。ただ・・・」

「やはり、何か悩み事でもあるのでしょうか。」


「はい。私ははっきり申し上げて、これまでの我が身の振る舞いが原因で、評判がとても悪いです。お世辞にも優秀とは言えませんし、その、殿下の婚約者としての資質が決定的に欠けていると思うのです。」

「至らない点があるのはお互い様だよ。私だって自信は無い。でも、それを互いに励まし合い、補い合うことが大事じゃないかな。」

「殿下は本当にお優しい方だと尊敬いたしますし、お慕いしております。」

 彼女は俯き、視線を落とした。


「ただ、私のような者ではとても王妃として務まるような器ではございません。現に私より王座に相応しいご令嬢はいくらでもおります。早いうちから、私に代わるより良きお相手をお探しするよう、進言いたします。」


 ここでまさかの別れ話である。

 内心、マズいとは思っていたが、まさかここまでとは・・・


「それが簡単な話で無い事は、もちろん知ってるね。」

「はい。」

「フレミング卿には相談したのかい?」

「いいえ、父は反対するはずですし、そもそもこのようなこと、公爵家側から申し出られるものではございませんので。」

「確かにそうだね。でも、現状で君以外の方を婚約者にしようなどという声は無いし、両親からもしっかりやるよう言われている。」

「はい。とても有り難いことだと思います。」


「もうお互い子供じゃないし、それを分かっているからこその不安だろうが、一緒に解決していこう。」

「もう少しお時間をいただければと思います。」

「分かった。取りあえずは私の心にしまっておこう。ただし、一人で抱え込んではいけない。何かあれば私に相談して欲しい。」

「ありがとうございます。」

「それと、あまりあからさまに私を避けると変な噂が出る。それはお互いにとっていいことじゃないから、そこは気を付けて欲しい。」

「分かりました。」


「説教じみた話になって申し訳ない。別に怒っているわけじゃ無いから、あまり気に病まないで欲しい。お願いばかりで恐縮だけど。」

「いいえ。全て私が悪いのです。殿下こそ、私のことなどあまりお気になさいませんよう、お願いします。」


 気にしない訳にはいかないんだけどなあ、とは思うが、どうやら彼女の中ではかなり深刻な悩みになっているようだ。

 婚約を解消したら、きっと王妃になるのと同じくらい辛い目に遭うだろう。

 それをどうやら分かった上での悩みであり、決心であるようにも思える。

 何が彼女をそこまで追い詰めているのかは知る由も無いが、あまりこちらがプレッシャーを掛けるのは得策ではないだろう。


「とにかく、まだ時間はある。ゆっくり考えて行こう。」

「はい。」

「さあ、難しい話は終わりだ。深刻な顔じゃランチが美味しくなくなる。ここからはいつもの声の大きさで話そう。」

 もちろん、私だって空元気だ。


「今度、生徒会で七不思議の調査をすることになったんだよ。」

「まあ!それは大変ですね。危なくはないのですか?」

「う~ん、多分大丈夫だとは思うけど、危ないからジェニファーを誘えないのが残念だね。」

「お化けはかなり苦手ですわ。」

「ハハハッ!実は私もだよ。」

「でも生徒会って、そのような危険なこともするのですね。」

「何故かみんなそこそこ乗り気なんだよね。七不思議並に不思議な現象だ。」

「皆さん、刺激が欲しいのですね。」

「そうかもね。ジェニファーもいい顔になったね。」

「そうでしょうか・・・その、ありがとうございます。」


 最後は何とか持ち直してくれたようで良かった。


~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/


 やっと張り詰めた時間から解放されました。

 思い切って婚約解消まで話すことができましたが、さすがは殿下です。とても冷静に対処されました。


 この時代の、しかも王族ですから、このような話をすれば普通なら間違い無く激高されるでしょうし、場合によっては謹慎を含む厳しい処分が科されても文句が言えない状況でしたが、さすがは攻略対象です。


 受け入れていただけないことも仕方ありません。

 王族の結婚に関する重大事をそう簡単に曲げられるものではありませんし、ゲームの強制力というものがあるのなら、婚約解消ではなく、ヒロインの活躍と私の悪事による婚約破棄になるはずですから。


「お嬢様、あまりお顔がすぐれないようですが、大丈夫でしょうか。」

「ブレンダ、ありがとう。あなたにも心配をかけてしまいましたね。」

「私は、どのようなことになっても、お嬢様に付いていきます。」

「ありがとう。あなたがいてくれて、本当に良かった。」

「私こそ、とても光栄でございます。」


「それにしても、七不思議の調査は心配ですね。」

「私もお化けは苦手です。」

「私はもっと苦手ですよ。それに、あれはルシア嬢の光の魔術で浄化しないと解決できなかったと思いますから。」

「そうなのですか?」

「彼女も生徒会に入っていないようですし。」

「それは心配ですね。」

「でも、調査だけならそれほど身の危険は無いと思いますわ。」


 ちなみに、このイベントはオカルトが苦手な人に配慮したためか、ゲームの攻略には必須というほどでは無い。

 それに、ヒロインが参加しないのであれば、むしろ解決しない方が良いとも言える。

 いずれにしても、私がいても百害あって一利なしのイベントだ。


 それはともかく、今は緊張を強いられるシチュから解放された安堵に浸りたいと思います。


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