それぞれの推定現在地
少し落ち着いて来ました。
いえ、本当は何が起きているのか分からず、混乱の極みですが、夢にしては思考がハッキリしています。覚めるなら覚めてもいいのですが、今の私の置かれた現状を整理したいと考えます。
まず、私の今の名はジェニファー・フレミング。ウィンスロット王国の公爵令嬢です。
そして、ジェニファーの記憶があるのは決して彼女の記憶が残っているからというだけではありません。
ついこないだまで私がハマっていたスマホゲーの登場人物なのです。
最近よくある転生モノそのままの設定ですね。何てテンプレなんでしょう。
ちなみに、このゲームのタイトルは「私のスペシャルな恋路を邪魔する方は、速やかにご退室願いますっ!」通称「スペ体質」。
私が大好きなゴッドスピード先生がシナリオを監修したということで、初めてプレイし、課金までしたゲームです。
ちなみに、先生の作品はタイトルが意味不明なものばかりですが、内容にハズレ無しです。
何せ代表作「王女のフェンリル」には、王女もファンリルも登場しませんし・・・
このゲームのストーリーはよくある学園恋愛モノですが、私は最後に婚約者である王子に断罪され、処刑台に送られる悪役令嬢です。
この事実を思い出したときは、目の前が真っ暗になりました。
また死ぬのかと・・・
そうです。私の最後の記憶は、3月18日の朝、いつものように出勤しようと溜池山王駅の階段を上っていたとき、前の人が突然こちらに倒れ込んできて・・・
そこから先は思い出したくもありませんが、あれで無事に済んだとはとても思えません。
私、桜井綾音は、そこで命を落としたのかも知れません。
それはそうと、このまま何もせず運命に流されたら、3年後には死が待ち受けています。
今度こそ、私は死なない・・・
~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/
こういうときはまず、自己紹介からするものだったね。
転生モノだと、誰に聞かれるまでもなく、ここから始まるもんね。
アタシの名は長谷部芽衣、中一よ。
普通の家庭で育ち、普通に公立に通ってたんだけど、春休みに入って遊びに行った友達の家で出されたお菓子を食べた途端、出たのよ、アレルギーの発作が。
もちろん、アタシの友達もそのことは知ってたんだけど、そこのお母さんは知らなかったのね。
私もうっかりしてた。
まあ、食べちゃいけないものがいくつかあって、中には味すら知らないものもあるから、不意に出されると分からないし、普段は知らない食べ物なんかに手は出さないのに、油断しちゃった。
ということで、いや、本当は訳わかんないけど、とにかく今はここがアタシの居場所ってわけ。
そう、このスペ体質の中が・・・
このゲーム、さっきまで友達とやってたから忘れようが無い。そして、このピンク、ヒロインのルシア・ウォルフォードっていう、元平民の男爵令嬢が今のアタシ。
ゲームなら楽しいんだけど、自分で実際動くとなるとね。何だかウザい。
それに、恋に興味はあるけど、現実のクラスの男子ってロクなのいないし。
これからゲーム開始の入学式らしいけど、どうしよう。
アタシ聖女だから結構危険な目に遭うし、バッドエンドだってある。
まあ、やるしかないか・・・
~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/
「一夜明けたが、今日も王子なんだな・・・」
私の本当の名は安西敏郎。大阪府庁に勤める42才。
妻と子供と暮らす、ごく平凡な中年オヤジだ。
自宅は大阪市内なんだけど、去年から岸和田の出先に転属となったので、高速に乗ってバイク通勤の毎日だった。
そしてあの日、事故に巻き込まれた。
あれは直感で分かった。絶対助からんヤツだ。
そして今、私は王子をやっている。
そして、誰も私が王子であることを疑いもせずに接してくれている。
私が分かったのは、この国がウィンスロット王国というヨーロッパ風の王国で、順当に行けば私が次の王になるということだけだ。
それ以外は、まだ状況がよく掴めていない。
ああそうだ。どうやら4月から学校に通うらしい。王子なのに・・・
~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/
とにかく俺はこんなところでのんびり夢なんて見てる場合じゃ無いんだ。
早く目を覚まして、愛する珠里亜と寿機亜、和子を安心させたいのに!
そう思ってはいるが、なかなか意識を取り戻せないみたいで、あれから数日、俺はまだ変な国の大臣の息子をやっている。
本来の俺は浜岡星矢。運送会社の従業員で、今は大型の運転手だ。
相棒の名はジュリア-ナ。これは俺が勝手に付けた名前だが可愛いだろ?みんな彼女のことを日野レンジャ○だろって言うが、断じて違う。ジュリア-ナだ!
それはいいが、あの日、俺は水戸から大阪の堺に引っ越しの荷を夜通しで運送してた。
今はかき入れ時で忙しいんだよな。
そして、近畿道を走行中に、ハンドルを握った者のIQを激しく下げることで有名なポヨタのマイエースが無理な車線変更をしてきた。
荷物を満載した大型トラックが事故を避けられる訳も無く、高架橋を突き破って下に転落。
死を覚悟したが、どうやらまだ生きてはいるらしい。
最近流行りの異世界ってヤツかも知れねえが、本来、トラック運転手は「おくりびと」であって、送られる側では無いはずだ。いや、送られかけ人か。
とにかく、こんなところで油を売ってる場合じゃ無いが、今のところ解決策が浮かばない。
とにかく、モットーである「道がある限りどこまでも」を実践するしかないな。
~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/
俺ってラッキーだよな。何たってバレッタ王国の王子、ローランド・グレゴリーになったんだからな。
もうしがない会社員、遠藤裕也からはおさらばだ。
俺は学生時代からリア充のパリピでとにかくモテた。
それが社会人になってからは灰色の毎日だ。
憂さ晴らしにコンビニの前でたむろしてた兄ちゃん達に喧嘩売って、気が付いたら王子様だよ。
きっと何かいいことしたんだな。
しかもこの世界、みんなイケ女なんだよ。
こりゃやる気が満ちるってもんだ。
きっと俺の身分を利用すればどんな女だって選び放題だし、これから高校みたいなとこに通うことになるらしい。
勉強はダルいが青春は悪くない。
これから灰色をレインボーで上書きしてやる。
~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/
「何でこんなことになっちゃったんだろう。お父さん、お母さん、本当にごめんなさい。」
あれから僕は、一人になるとずっと泣いている。
ぼくはあの雨の日、塾に向かうために千住新橋を渡っていた。
そこに自転車が突っ込んできて橋の欄干を越えて下に落ちたところまでは覚えている。
そして気付けばここにいて、毎日大きな剣を持たされ、父という人に怒鳴られ続けている。
確かに坂将太だった時と比べたら、身体も大きいけど、中身はまだ4月に6年生になる予定の児童なんだ。
それに、勉強ならともかく剣の修行ってなに・・・
僕は幼い頃から頑張って、大学の付属小に合格した。
それからも頑張り続けて、来年は有名私立を受験するつもりなんだ。
本当は、こんなことしている場合じゃないんだよ。
でも、ここには参考書もスマホも無い。あるのは羽根でできたペンと重い剣だけだ。
僕はこれから先、どうなるんだろう。
~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/
さあて、まずは自己紹介だよね。
僕の名は飛鳥野昴暁。たかちゃん、じゃないよね。今はジェームズ・バルフォア。
子爵家出身の教師だ。
元は二十歳の大学生で、自他共に認めるアニオタだったんだけど、どうやら念願叶って異世界転生できたみたい。
何で転生したのか分からないけど、よく考えた末に出た答えは、おそらく火事に巻き込まれたんだろうということだ。
そしてここは、魔法のあるファンタジー世界だ。
今、このジャンルは流行っているので、きっとそういう世界の一つだろう。
この数日で集めた情報から、この世界はスペ体質が濃厚だけど、まだ情報が少ないし、アニメ化予定のもの以外はあんまり詳しくないから、まだ半信半疑だ。
でも、もしそうなら王子とヒロイン、悪役令嬢や攻略対象関係者以外は基本フリーだから、彼らを無視してこの世界を存分に楽しみたいと思ってる。
たかちゃんの第二ラウンド開始だ!