子は成長し、大人に近付く?
生徒会で役員候補について話し合った次の日、私はお父様に呼ばれて執務室に赴いた。
「失礼いたします。」
「来たか。入りなさい。」
父の執務室に入るのは久しぶりだと思う。
ゲームでも一度しか登場しないレアな場所だけど、さすが事務室らしい落ち着いた雰囲気の部屋だ。
「まあ、そこにかけて。」
「はい。何かございましたでしょうか。」
「ああ、今日陛下にお会いする機会があってな。そこでお前の話になった。何でも、生徒会役員に推挙されたのに、断ったそうじゃ無いか。」
「申し訳ございません。公爵家のことを考えたら、受けるべきだったでしょうに。」
「そうだな。何か理由でもあるのか。」
「お妃教育もしっかりこなさないといけませんし、学校の授業も最初が肝心です。それらと両立する自信がありませんでしたし、私の評判はとても芳しいものとは言えませんので、辞退させていただきました。」
「そうか。私としては受けて欲しかったんだがな。しかしどうしたんだ。ミッチェル殿下をあれほど慕っていたというのに。」
「殿下をお慕いする気持ちに変わりはございませんわ。ただ、私ももう子供ではございません。自分をしっかり見つめ直す時期に来ているのだと思います。」
「そうか。確かにここ最近のお前は好ましい方向に変わって来ていると感じている。正直、寂しさもないではないが、嬉しくもある。」
「そうですが。お父様にそうおっしゃっていあただけると、励みになります。」
「まあ、学校生活は三年あるし、生徒会の役員改選もあるだろう。都度、自分の立ち位置を考えて、良い答えを出していけばよい。」
「ありがとうございます。」
「それにしても、立派なレディになったな。これならお前の立場も安泰だ。早く私と母上を安心させてくれ。」
お父様、本当にごめんなさい。そう思いながら部屋を後にする。
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「何だドウェイン、また勉強などしておるのか!」
「落第するわけにはいきませんから。」
「たわけが!勉強など必要最低限でいいのだ。そんな暇があるなら剣を振れ!」
「しかし父上、殿下の側近として、恥ずかしい結果を残す訳にはいきません。」
「お前の役目は殿下の盾だ。割り算ができたところで役に立たんだろう!」
父上、できないんだ・・・
「父上、とにかく邪魔しないで下さい。勉強が長引くと、その分鍛錬の時間が減ってしまいます。時間は有限なのですよ。」
「そんなことは分かっている。だから早く支度しろ!」
「鍛錬はします。だから勉強に口を出さないで下さい。」
「何をッ!」
父が椅子に座っている僕の襟を引っ張り、訓練場に行こうとする。
「父上、やめてください。」
「お前には学校より大事なものがある。」
父の言いたいことくらいは分かる。でも僕は、父のようにはなりたくない。
そう思いながらも、僕はまだ、父を押し切るだけの力が無い。
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「おいニコラス、ここの数字、間違っているぞ。」
「済みません、父上。」
今日も今日とて、俺は父の仕事の手伝い。こんなの、部下にやらせろよ。
「最近、緊張感が足りないのではないか?以前より格段にミスが増えている。」
そりゃ、向かない人間にやらせればそうなるだろ。
「慣れない生活で、疲れているのかも知れませんね。」
「確かにそれはあるのかも知れないな。それで、生徒会には入れそうなのか。」
「はい。お陰様で庶務になれそうです。」
「そうか。ミッチェル殿下をよく補佐し、来年は副会長を目指すように。」
「分かりました。」
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「それでミッチェル、最近、婚約者と上手くいってるの?」
「はい。母上。」
学校から帰って来るなり、母上に呼ばれ、テラスで優雅にお茶を飲んでいる。
「でも、あの子最近城内で見かけないのよねえ。ついこの間までは、毎日廊下で騒ぎを起こしてたのに。」
「良い傾向なのではありませんか?」
「そこがどうなのか、あなたに聞きたいのよ。何か変化はあったの?喧嘩した訳じゃないのよね。」
「ええ、特に喧嘩をした記憶などございませんし、教室内でも静かなもんですよ。何がきっかけなのかは、私も存じ上げておりませんが。」
「婚約者のことなんだから、しっかり把握しておきなさい。ちゃんと話はしているんでしょう?」
そうは言われても、この世界に来てからほとんど話したことはない。
二人の距離感はそんなもんだろうと思っていたが、そうではないのか?
「まあ、子供が思春期に、そして大人になる過程で一時的に気まずくなることは誰にでもあるわ。でも、その時に離れすぎると、元には戻らないことが多いのよ。公爵家との関係は言うまでもなく重要なのだから、しっかり繋ぎ止める努力を怠ってはダメよ。」
「承知しました。気を付けます。」
「まあいいわ。あなたも随分しっかりしてきたみたいだし、今日はこのくらいにしといてあげるわ。」
「母上にご心配をお掛けすることのないよう、努めます。」
正直言うと、避けられている気もするので、あまり話しかけたくないが、一度、機会を設けないといけないんだろうな。