先生の憂鬱
「ああ~、今日も収穫無しか~・・・」
職員室の椅子にドッカリ腰をかけ、背伸びする。
「どうかしたの?ジェームズ先生。」
「いや、上手く行かないことが多いなあって。」
「授業ですか?」
「まあ、そんなとこ。」
女子がなかなか引っかかってくれません、何て言えない。
こんなに超絶イケメンになったのに、何が問題なんだろう。
確かに、この世界はイケメンだらけだ。
日本で上位1%クラスが5割を越えるこの世界では、このルックスをもってしても多少埋もれてしまうのは仕方無い。
でも、その中でも光っていて、知的で、教師なのだ。
魔術だって、上位貴族の間ではインパクトが無いといっても、それなりに名が通った存在だ。自分で言うのも何だけど、かなりの優良物件なのに。
何だ?何が問題なんだ?子爵家出身だから?家を継がないから?
「先生、それより採点早くして下さいね。総合成績発表、月曜の朝一に張り出しですから。」
「ああ、分かってるよ。すぐに終わらせるから。」
仕方無く机に向かい、3年生の採点を行う。
たまには授業以外の仕事もこなさないといけないが、何かテンション上がらない。
そう、始業式からこっち、ナンパに明け暮れ、最初の頃こそ入れ食い状態だったのに、徐々に食いつきが悪くなり、今週は釣果ゼロだ。
しかも、女子たちの距離が少しづつ開いて来ているのを感じる。
むしろ、避けられているような・・・
「何が原因なんだろう。」
つい、ポロッと言葉が出てしまう。
男は見た目が9割だから、残り1割に問題があるというのか?たった1割なのに。
じゃあ、その1割は何だ?やはり実家の爵位か?将来の肩書きか?
「やはり、魔術で何らかの貢献をして、爵位を得るしかないのかなあ。」
「先生、どうかしたんですか?」
「クレア先生、魔術教師が爵位を得る方法って、何か知りませんか?」
「学校内に限れば、爵位は必要ありませんよ。ジェームズ先生。」
「それはそうだけどさあ。男としては欲しいんだよね。ステータス。」
「確かに、殿方はそう考える方が多いですね。一番は実績を上げ、差し当たっては教頭を目指すのがいいと思いますよ。そのためにはサボらずに、すぐに採点を終わらせて下さい。」
「確かに、教頭なら男爵位くらいもらえるかもしれないけど、髪が薄くなってからじゃ間に合わないんだ。」
「確かに今の教頭は・・・でも、無位の者が若くして爵位を得る方法なんて、学校にはありませんよ。」
「やっぱり宮廷か軍に入るしかないの?」
「普通はそうです。教師だと、ミッチェル殿下クラスの方を救助するとか、そんな千年に一度レベルの功績がないと無理ですね。」
「そうか!、でもそうじゃない。」
「おかしなこと言ってないで、お願いしますね。採点まだなの、先生だけですよ。」
「ああ分かった。やるよ。」
しかし、ルックスが最高レベルなのに、後の1割をどうにかしないと女性にモテないなんて、シビアな世界だな。
爵位は時間がかかるから、それ以外の要素で魅力を積み上げないといけない。
何だろう。金、やっぱり金か?
まあ、この学校の給料は悪くない。この時代の教師なんて勝ち組だから、そこいらの騎士なんて問題にならない。まあ、先祖代々高位の家柄っていうお嬢さんには物足りないだろうが、子爵男爵レベルなら問題ないはずだ。
そういや、あのピンク聖女様も男爵家の令嬢だったよな。
思いっきりグーパンされたけど、思えばあれ以来不調が続いている。
何かやらかしたか?
あれくらい、指導の一環で、問題無い範囲のスキンシップだと思うが。
そんなことを悩みながらも、僕は自慢の超速採点で仕事を終える。
なに、魔術の座学テストなんて採点基準があって無いようなもんだ。
そこらあたりで十分なのである。
「できましたよ、クレア先生。」
「ありがと。じゃあ、この名簿に沿って、各自の点数を記載してください。」
「ええ?そんなことまでするの?」
「ここは教科担当の先生方がそれぞれ記入されています。主任だってご自分で記入されているのですよ。」
「分かりましたよ。」
というふうに、教師は次から次へと仕事をこなす必要がある。
たまにはご令嬢のお茶会に参加したいのに。
三年だけで120人もいるから、結構時間はかかるが、何とか日が落ちる頃には片付けて帰宅する。この学校には部活も課外授業も無いので、放課後は速やかに生徒がいなくなる。
例外は生徒会くらいのものだが、今は選挙期間中だからほぼ活動休止状態だ。
すっかり暗くなった学校をトボトボ帰宅する。
「高校なら、この時間が一番ロマンチックなんだけどなあ・・・」
ぼやきながら校門を目指す。
一体どうしたらモテるんだろう。