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時は流れて

 そしてあっという間に卒業式。


 生徒会を引退した後はほとんど学校生活の実感は無かったが、取りあえず人生の大きな節目であることには違いない。


 今は大講堂の演壇に立ち、答辞を読んでいる。

 いや、元生徒会長ですし・・・


「先ほどは、身に余る送辞を賜り誠にありがとうございました。また、校長を始めとする学校関係者、在校生、保護者各位におかれましては3年間大変お世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。この3年、様々な経験を積ませていただき、私たち114名はウィンスロット王国を支えるべく新たな旅に出ます。ここで得た知識と経験、人脈、そして皆様方からいただきました暖かい激励を胸に、逞しく活躍していくことをここに誓います。在校生の皆さんも、この限られた貴重な期間を活かし、更なる研鑽に励みますよう祈念して、お別れの挨拶とさせていただきます。本当にありがとうございました。」


 満場の拍手に送られ、演題から下がる。

「殿下、お疲れ様でした。」

「ローナさんももうすぐ生徒会選挙だね。」

「はい。後一月ですけど、最後まで立派に役目を果たしてみせます。」

「期待しているよ。ライオネル君とも仲良くね。」

「はい。またパーティーでお会いできる日を楽しみにしています。」


 そうこうしている間に式典は終わり、中庭に集合する。

 卒業式と言えば、あの帽子投げだ。

 掛け声とともに一斉に帽子が宙を舞う。


「ああ、これでやっと勉強から解放されるぜ。」

「これから側近としての教育があるんじゃないの?」

「何言ってる。それじゃ学校通った意味がねえじゃねえか。」

「ニコラスはもう少し礼式を修めた方がいいと思いますわ。」

「そういうお堅い場所はお前に任せるよ。」

「この高貴な私が指南しますから頑張りなさい。未来の騎士団長様。」


「私は騎士団で旦那様を支えますわ。」

「ホントにジュリアーナ嬢は騎士団に入るの?」

「退屈しのぎですわ。団長の許可もいただきましたの。」

「やっぱりニコラス君のとこは凄いことになりそうだね。」

「結婚後に住む屋敷も建設中だしな。」

「ゴールドバーグの屋敷より大きな物を建てておりますのよ。オーッホッホ!」


「それで、結婚はいつにしたんだい?」

「殿下より先にする訳にいかねえし、ドウェインと一緒に来年やろうなと思ってるぜ。」

「そのドウェイン君は宰相府だから、それこそ毎日会うことになるね。」

「まずは王太子付け補佐官を目指します。」

「アナベル嬢もあと一年、学校頑張ってね。」

「はい。ありがとうございます。殿下。」


「ローランド殿下はいつ帰国するんだい?」

「来週の火曜だ。」

「寂しくなるねえ。」

「まあ、当分王位に就くことはないから、割と自由が利くからな。殿下の婚礼には来るし、そうでなくても年一くらいは顔を出せるさ。」


「ローランド、もう行っていい?」

「そんなに急がなくても、もう少しくらい卒業の余韻に浸ってもいいじゃないか。」

「イリアちゃんたちと打上げに行きたいのよ。」

「分かったよ。行ってよし。」

 ルシアは向こうで待っている友人達の元に走り去っていく。



「それで殿下は?」

「俺はこれからパーティーの解団記念パーティーさ。」

「彼女たちとはちゃんと清算済みなんだよね。」

「心配はいらねえさ。キャシーとマライアはウチで働きたいっていうから連れて帰るけど。」

「よくルシア嬢が認めてくれたね。」

「さらについでで、イリア嬢たちご友人3名を王子妃付従者にしてやったからな。機嫌がいいんだよ。」


「随分ウィンスロットの人口が減るな。」

「いいじゃないか。マルガレーテ殿下とジュリアーナ嬢を輸入できたんだからさ。」

「あ~いたいた。両殿下、ご卒業おめでとう。」

「おう、ジェームズじゃねえか。」

「良かった。みんな卒業したらおいそれと会えない人ばっかりだから。」

「そうだな。バレッタは性犯罪者は入国禁止だからな。」

「なら、ローランド殿下は帰国できるのか?」

「おいおい、バレッタにだって、まだ犯罪者じゃないヤツを処罰する法律は無いぜ。」


「じゃあ、ローランド殿下はお気を付けて。」

「ああ、タカも元気でな。クレア先生ならいつでも歓迎するから。」

「そりゃ酷いよ・・・」

「じゃあみんな、そろそろ帰ろうか。」


 満開の桜を背に、私たちは最後の校門をくぐる。

 空はまごう事なき日本晴れだ。



~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/


「お嬢様、ご卒業おめでとうございます。」

「ありがとう。メアリー、ドロシー。」


 お茶を運んでくれる二人の専属メイド。

 彼女たちがいてくれたからこそ今日があると行っても過言では無い。


 あのストーリーが現実になっていたら、きっと彼女たちも私に連座し、処刑を含む厳しい処分が下されていたはずだが、今日も変わらぬ笑顔でここにいてくれる。


「お嬢様、明日からはお城で準備期間に入ります。今日だけは身体をお休め下さい。」

「ブレンダもありがとう。明日からもよろしくね。」

「はい。確かに承りました。」


 ブレンダだって同じだ。

 私は自分の保身に終始した未熟で臆病な人間だが、彼女たちを守れたことだけは胸を張りたい。

 そして、メアリーとドロシーは専属の任を解かれるが、ブレンダは引き続いて私の側にいてくれる。

 とても有り難いことだ。


「でも、こうしてゆっくりお茶できるのも、今日が最後なのですね。」

「いいえ。一時は忙しいでしょうけど、また余裕もできてきますよ。それに、殿下ならたまの里帰りもお認め下さるでしょう。」

「そうね。今度はメアリー達ともお茶を飲みたいわ。」

「とても嬉しいです。是非、ご一緒させていただければと思います。」

「ええ、私も楽しみにしてるわ。」


「でも本当に良かったです。もし、お嬢様が修道院に入っていたらと思うと。」

「本当に皆には心配を掛けてしまいました。本当にごめんなさい。」

「いえ。私たちはお嬢様がお幸せに成られたことだけで満足です。」

「そうです。」


「夏にはいよいよご成婚ですね。」

「はい。不安も大きいですが、皆に恥じない働きをしてみせます。」

「では、準備は私たちに任せて、ごゆっくりしてくださいね。」

「ええ、お言葉に甘えさせてもらうわ。」


 悪役令嬢としては破格のハッピーエンドを迎えることが出来て本当に良かった。

 これからも油断せず、謙虚に、良き伴侶となれるよう頑張ろう。

 そう思いながら窓の外を見る。


 春の目映い光に照らされる王都の町並みは、どこまでも明るかった。


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