秩序は取り戻される
王都に帰ると、私たちは救国の英雄として歓迎を受けた。
まあ、記念式典や後始末などで1ヶ月くらい忙殺されて、気が付けば9月10日になっている。
この間にジェニファー嬢とルシア嬢からの聞き取りも進み、この時代の研究も進んだ。
ゴッドスピードがこの世界のシナリオを監修した人物であったこと、ルシア嬢が攻略対象の一人を選んだことでシナリオが正常化して、ゴッドスピードがこの世界に干渉する力を失ったであろうこと。
魔王バロールの出現、ロフェーデとの戦争がシナリオに織り込まれた出来事だったということなどだ。
ただし、ルシファーの出現や親睦会の襲撃などは分からないということだったし、疫病も発生しなかったとのこと。
ローランド殿下達が悪ノリして下水道を焼き尽くしたからからか?
そして、三カ国によるロフェーデ王国の統制も進んでおり、戦争の懸念が当面無くなったこともあり、徐々に平穏な日々が戻りつつある。
ちなみに、ジェームズ先生も元日本人だった。ルシア嬢に言わせればあんまりな配役ミスとのことだが、彼も一応仲間だ。
先生としての威厳は女性とのトラブルも含めて完全にゼロになったが・・・
「ニコラス君、二人と結婚するんだって?」
「ああ、まさかのまさかだよな。ドリルはもちろん、ジュリアーナとの再婚約が認められるなんてな。」
「私はもちろんとは、どういう意味ですの?」
「いや、お前はミッチェル殿下を狙ってたんじゃねえのか?」
「私は狙っておりましたけども、両親は王家に嫁ぐのには反対でしたの。」
そう言えば、母親同士険悪だったんだよね。
「しかし、俺は高貴じゃねえぜ。」
「殿下の側近ですもの。爵位くらいくれますわよね、殿下。」
「あ、ああ、そりゃもちろん。」
「くれなくても騎士団長になればいいんです。ドウェイン様には申し訳ありませんが、団長を今すぐ倒してらっしゃい。」
「おいおい、無茶言うなよ。」
「でも以前、闇討ちしようって話、してたよねえ。」
「もう義理の父なんだ。まあ、実父ならいつでも闇討ちしてやるけどな。」
「どっちもしないでよ。それにしても、お似合いだよね。」
「ええ。これほど男気に溢れた御仁は、高貴な殿方の中でもそうそういるものではございませんわ。ジュリアーナさん共々、生涯守っていただけると嬉しいですわね。」
「それは任せとけ。ジュリアーナにも国から帰ってきたらちゃんと話はするぜ。」
「ところで、殿下もお話をしないといけない方がおられるのではないですか?」
「うん? マルガレーテ殿下なら大事するよ。周囲には、敵国の姫だって言う人もいるだろうけど関係無い。今度のことで信頼関係もできたと思う。」
「それは良いですが、あと一人。」
「ああ、ジェニファー嬢はねえ・・・」
「いけませんわよ。私もライバルがひっそりと落ちぶれる所が見たいわけではございません。今からでも間に合うはずですわ。」
「お前も随分強引だな。まあ、そこが良い所だと最近気付いたが。」
「全く、勉強しないのと、成績が中身を表しているのとでは雲泥の差ですわ。ニコラスはもう少し精進なさい。」
「へえへえ、分かったよ。」
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「こうして二人でお茶するのも久しぶりだね。」
「そうですね。婚約解消のお話をした時以来でしょうか。」
「そうだね。一年以上前か。」
「はい。殿下にはその前も含めて、ご迷惑ばかりお掛けして、大変申し訳ございません。」
「二人の時は安西でいいよ。」
「いいえ、そういう訳にはいきませんわ。それに、卒業したらもう、お会いすることも叶いませんので。」
「いや、その話だけどさあ、国の英雄を修道院に入れる訳にはいかないんだよね。」
「そうは言いますが、私は自分の保身のみを考え、周囲を混乱させた人間です。責任を取らないと皆に示しがつきません。」
「今回のことはあくまで双方合意の上での解消だ。誰にどんな責任を負わせるものではないよ。それに、私だって逆の立場ならきっと同じ事をしてる。」
「殿下はきっと、そのようなことはなさらないと思いますよ。」
「ありがとう。でもさあ、もう大丈夫なんでしょ?」
「恐らくは。しかし私は、ヒロインがどのルートに入っても断罪の憂き目に遭う運命なのです。」
「元のシナリオはそうだけど、君は何も悪いことはしていないし、周囲からの人望も厚い。それにみんな事情は把握してるし英雄の一人だ。誰も断罪なんてできないよ。」
「そう言ってっていただけるだけでありがたいです。」
「もう大丈夫なんだからもっと気楽に過ごして欲しい。何かあれば同郷の者はみんな味方だし、他にも味方は数多くいる。」
「本当に、こんな私に、ありがとうございます。」
「それと今、陛下とヒルマン卿との間で再婚約の話を進めてるんだよ。」
「えっ? 父上と?」
「そりゃそうでしょ。誰よりも相応しいし、宰相や騎士団長を始め、複数の高位貴族から嘆願が提出されているんだ。婚約解消とは何事だってね。」
「そのような・・・」
「もう何も懸念することはないし、何があっても私と王家が責任を取る。だから再考を是非、お願いしたい。」
「あの、よろしいのでしょうか。」
「ああ、私はジェニファー、君がいい。ちなみにマルガレーテ殿下も正室は君がいいそうだ。」
「いつの間にか外堀が埋まっていました。」
「もう誰にも掘らせないからね。お互い、今度はハッピーエンドにしなきゃ。」
「本当に・・・本当に・・・」
こうして、複雑に絡み合っていた糸はほつれ、本来あるべき姿に収斂していく。




