王都への帰り道で
全ては終わり、私たちは帰路に就いている。
みんな精根尽き果てているので、馬車に座ってという訳にはいかず、荷馬車に足を投げ出したり寝転がっている。
「ああ疲れた。さすがにもう、動くのは勘弁して欲しいぜ。」
「そうだね。父上の鍛錬よりキツいよ。」
「皆さん、回復魔法は施しましたが、体力や気力が全て回復した訳ではありませんので、しばらくは身体を休めてくださいね。」
「ああ、ありがとう。しかし聖女様ってやっぱスゲえな。ルシア嬢がいなけりゃ今頃全滅だ。」
「でも、ニコラス君とローランド殿下の時間稼ぎって・・・何か、すっかりアツアツだね。」
「へっ?」
「ミッチェル殿下、妬くなよ。まあ、妬いてもあげねえからな。」
ローランド殿下とルシア嬢はもう、誰がどう見てもそれだ。
「いや、よくお似合いだと思うよ。ニコラス君たちも。」
「俺はどうしてこうなってるのか分からねえけどな。」
ニコラス君にはキャロライン嬢とジュリアーナ嬢がピッタリ寄り添っている。
「そ、それはそうと、しゅ、主役。そうです。この世界の主役とはどういうことなのですか?」
「ああ、ルシア嬢とジェニファー嬢は特に重要人物らしいね。」
「それは・・・」
ルシア嬢とジェニファー嬢は互いに顔を見合わせ、そして決心が付いたかのように話を始めた。
「信じてもらえないかも知れませんが、私たち二人には前世の記憶があるのです。」
「そしてこの世界は『スペ体質』という恋愛ゲームの世界で、彼女はヒロイン、私は悪役令嬢なのです。」
「恋愛ゲームの世界って何だ?」
「この世界そのものが恋愛ゲームのシナリオのとおり進んでいて、ヒロインが恋する予定の人物がミッチェル殿下、ニコラス卿、ドウェイン卿、ローランド殿下、ジェームズ先生なのです。」
「ジェームズ? あんなのに誰が好意を持つって?」
「それが、本来のシナリオと皆さんの性格がまるで違うのです。ドウェイン様は物静かになっちゃってるし、ジェームズだってホントはクールなキャラなのよ。」
「アイツが?」
「(笑)」
確かに、そう言われてみればこの和洋折衷の中途半端な世界の説明が付く。
「だが、前世の記憶なんてみんな持ってるんじゃねえのか?」
「えっ?」
「私はありませんわよ。」
「僕はあるよ。坂将太。前世では小学生だった。」
「俺は遠藤裕也、会社員だ。」
「私は安西敏郎。公務員だよ。」
「えっ?殿下もですか。」
「俺もだぜ。もしかして二人も日本人か?」
「そうです。」
「他の方々は前世の記憶は無いのですね。」
「ええ。」
「見事に攻略対象とヒロイン、悪役だけが転生者な訳ね。」
「前世ってことは、みんな一度は死んでるの?」
「ええ、アタシは食物アレルギーでポックリと。」
「私は大阪の堺の近くでタコさんマークのトラックに巻き込まれて。」
「おいおい、ウチの会社じゃねえか。俺も松原インターの近くでトラックに乗ってて死んだぞ。」
「ええっ!」
「令和4年3月18日だ。」
「それってもしかして・・・」
「私の命日も同じです。」
「僕は前の日だ。」
「ああ、雨の日ね。」
まあ、そこからは身の上話タイムだった。
みんなそれぞれ年齢も生活していた場所もバラバラだったが、同じ日本人っていうだけで連帯感がハンパない。
「そりゃ、殿下を巻き込んで申し訳なかったなあ。」
「いや、事情を聞けば諦めもつくよ。それに、死んだけどこうして元気にやってるし。」
「僕も一人じゃ無いと思うと、勇気が出るよ。」
「ニコラス。もう二度とあなたを死なせたりしませんわ。」
「おい、ドリル、ドリル刺さってる。致命傷だぜ。」
「ローランド、私たちもお互い健康で長生きしないといけないわよ。」
「ああ。今度は一人くらい幸せにしないとな。」
「しかし、私たちは運命に導かれてここにいるんだよね。」
「そうですね。何らかの意図があったのか、それとも運命のイタズラだったのかは分かりませんが。」
まあ、誰の何の意図があったかは分からないが、少なくとも強烈な吊り橋効果で沢山のカップルが生まれてしまったのは間違い無い。
「だが、ジェームズとは繋がって無いと思うぜ。」
「そうだな。ここにいないし。」
「いや、帰ったら確認してみようよ。」
「アタシはヤダなあ・・・」
「まあまあ、そう言わずに。」
行きの気まずさはどこへやら。
和やかな雰囲気で王都に帰る。