解体作業をしながら
ついに魔王を退治したわ。
ゲームじゃこれ以上のイベントは起きないはずだから、このままなら誰ともくっつかないノーマルエンドを迎えるわね。
魔王がイレギュラーな形で出現した時はどうなるか不安だったけど、いざ戦ってみると大したことなくて良かったわ。
そうよね。このゲーム、女子向けだから戦闘なんて形だけなんだし、実際のゲームでは考えられないくらい戦力も充実じてたし。
後は卒業して聖女様として穏やかに暮らしていけばいいのよ。
早く帰ってアニーのお茶を飲んでイリアちゃんたちと遊んで・・・
誰もざまぁされない世界を目指すわよ。
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私はこみ上げる涙を抑えきれずに、広間の外に出る。
これはうれし涙というより、安堵の涙だ。
ここに来るまでに多くの魔族を倒し、その首魁も倒した。
もう、私が魔族に体を乗っ取られる心配はないし、バッドエンドに至るイベントもクリアできたと思う。
ここまでルシアに危害を加えていないし、彼女も事情をよく知る転生者だ。
法的にも状況的にも私を断罪する材料はない。婚約も解消できた。
この世界に来て2年半、私はようやく安住の地を得た。今のはきっとその涙だ。
後は卒業まで残された時間、ブレンダたちと穏やかに微笑みながら過ごしていきたい。
私の望みはそれだけ・・・
「ここにいたんですか。」
「殿下、申し訳ございません。作業を手伝わないといけませんのに。」
「いや、解体は男性陣だけでやるよ。というか、ほとんどテンコーがやってくれてる。」
「先ほどからあの曲が流れていますものね。」
「まあ、そういうことだし、見てて気持ちのいいものでもないから、無理せず休んでてよ。」
「しかし、何のお役にも立てず、申し訳ございませんでした。」
「そんなことはないよ。それに、こういう危険な所に来てくれるご令嬢なんて、普通はいないよ。」
「でも、キャロラインさんを始め、多くの女性が馳せ参じております。これも偏に殿下の人望あってのものです。」
「それほどでもないよ。それに私は、そんなに女性にモテないはずなんだ。」
「まあご謙遜を。」
「事実、ジェニファー嬢には避けられていたし、ルシア嬢にはフラれたからね。」
「それは、重ね重ねの失礼、お詫び申し上げます。」
「いや、いいんだよ。別にジェニファー嬢に頭を下げさせようと思ってここに来たんじゃない。」
「ありがとうございます。では、最後に少しはお役に立たないとなりませんね。解体のお手伝いをしますわ。」
「まあ、あまり無理はしなくていいと思うよ。」
「キャロライン嬢に嫌味を言われるのも癪ですしね。」
「やっぱりあれ、ムッと来てた?」
「フフッ、私も普通の人間ですよ?」
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「おいドウェイン。ミントたちと遊んでないで、少しは手伝ったらどうだ?」
「僕、血は苦手なんだよ。」
「騎士団長の息子が何言ってんだよ・・・」
「じゃあ僕もそちい行くね。」
「おいテンコー、お前まで行っちまったら作業終わらねえじゃねえかよ。」
「では、私たちがお手伝いいたしますわ。」
「侯爵令嬢方が何言ってんだよ・・・」
「ニコラス、相棒なら当然よ。」
「おう、ジュリアーナなら大歓迎だぜ。」
「ニコラス卿、あなたは相変わらず失礼ですわね。」
「ルシアちゃん、かなりお疲れのようだけど大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですから寄ってこないで下さい、殿下。」
「相変わらずツンツンだねえ。デレは」
「来ません!」
ゴゴゴゴッ!
突然大きく地面が揺れる。
「地震だっ!」
私たちは逃げようとするが、揺れている中では思うように走れないし、石造りの建物では、どこにも安全な場所は無いように思える。
上から小さな石や天井材が落ちてくる中でどうすることもできないでいると・・・
「ハッハッハ。私のシナリオを壊そうとしている輩がいるのはここかね?」
大きな声が城内にこだまする。