魔王城に至る道
ルシファーとアスモデウスを退けた私たちは、魔王バロールの居城を目指す。
ここ数日は、馬上で語らうことが多い。
「しかし、ルシファーはともかく、アスモデウスは無口だったな。」
「あれはみんなが喋る機会を与えなかったからだと思うよ。」
「だがルシファーは良く喋ってたぞ。」
「もっと喋りたそうにしてたんだけどね。」
「空飛んでたんだから、勝手に喋ってりゃ良かったんだよ。」
「あれだけ集中砲火浴びせたら無理だと思うよ。」
「容赦ねえな。」
「ニコラス君がそれ言う?」
「そういう殿下だって、あっさりトドメ刺してたぜ。」
「怖かったんだよ。首だけになってもまだ喋ってたし。」
「相当な話し好きだな。」
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何か、定員の関係でアタシとジェニファーが同じ馬車になっちゃった。
まあ、ローランド殿下がいないだけマシだけど、せめてミントちゃんかテンコーさん来てくれないかなあ・・・
「あの、いい、天気ですね。」
「そうですね。すっかり夏めいて来ました。日焼けしないように気を付けるのが大変ですわ。」
「闇魔法で窓の外に日除けを作るとよろしいですわ。」
「それは素晴らしいアイデアですね。早速やってみましょう。」
やはり、アタシが知っているジェニファーとは真逆の人だ。
むしろイメージとしてはキャロライン様の方が近い。
まあ、あっちはチョロいけど・・・
「ところで、ジェニファー様はミッチェル殿下とは?」
「何か知っておられるようですね。」
「はい。以前、陛下に謁見したときに、婚約者は作るなと言われてしまい、何となく。」
「陛下とミッチェル殿下は何か申しておられましたか?」
「いいえ、それ以上は。」
「では、私から申し上げることは何もございませんが、ルシアさんは殿下のことを?」
「いいえ。ジェニファー様を前にこんなことを言うのも何ですが、何とも・・・」
「ウフフッ、別に怒ったりしませんよ。たとえルシアさんが私に取って代わったとしても。」
「やはりそうでしたか。」
「今はまだ。」
「ご心配は無用です。ミッチェル殿下は素晴らしい方だとは思いますが、あり得ませんから。」
「では、どなたをお慕いしているのですか?」
「いませんね。」
「でも、そういう訳には行きませんよ。他の方はともかく、あなただけは。」
「スペ体質・・・」
長い沈黙が続く。馬の蹄と車輪の音だけが響いている。
「やはりそうでしたのですね。」
「ジェニファー様も。」
「ええ、桜井綾音と申します。」
「私は長谷部芽衣、中学生でした。」
「では、どなたかを選ばないといけないことは知っていますね。」
「はい。」
「ならば、ミッチェル殿下にすると良いでしょう。お人柄も、今さら申し上げるまでもございませんし、卒業までは公表されませんが、既に婚約は解消されています。」
「ええっ?!じゃあ、ジェニファー様は?」
「卒業後は修道院に行くことが決まっています。」
「そんな、何も悪い事してないのに・・・」
「これは私の意志です。そしてこの2年間、そうなるように動いていたのです。」
「でも、そんなの・・・」
「いいのです。あなたが誰を選ぼうとも、原作では必ず処分されていた存在です。本当は、魔族の前に身をさらしたく無かったんですけどね。」
「大丈夫です。ジェニファー様のことは、私が必ずお守りします。」
「ありがとう。心強いです。」
「でも、やっぱりジェニファー様はミッチェル殿下と一緒にいるべきです。」
「残念ながら、もう遅いのですよ。」
「遅くなんてありません。それにしても、どうしてあんな明るいシナリオなのに、こんな悲しい結末になってしまったんだろう。」
「ジェニファーにとっては明るくないですけど。」
「いいえ。これがシナリオならひっくり返しましょうよ。もしかしたら悪役令嬢がリベンジする物語かも知れませんし。」
「スペ体質にスピンオフは無かったと記憶していますが。」
「でも私たち、死んじゃってるんでしょう?」
「まあ、とにかく私は断罪されなければ、それでいいのですよ。それより、このことは二人だけの秘密にしましょう。」
「でも、全てを打ち明ければみんな協力してくれるかも知れませんよ。」
「いいえ。リスクが大きすぎます。変人だと笑われるだけならいいですが、下手すれば社会から抹殺されるか、教会から異端認定を受けます。」
「分かりました。それは私もジェニファー様も望む所では無いですもんね。」
「ええ。でも、聖女があなたで本当に良かった。」
「私も、優しい悪役令嬢で良かったよ思います。」
「見えたぞ、多分、あれが魔王城だ。」
遠くで騎士の声が聞こえる。
いよいよ最終決戦が幕を上げる。