みんなで火を囲む
ここからルシファーたちのいるダンジョンまでは約半日ということだった。
当然、ヤツらは飛行可能なので、実際はもっと早く到着するだろう。
そうなると、急いで戦支度をすれば、夜中の襲撃もあり得る状況だ。
ということで、我々は早めに夕食を摂り、身体を休めることにした。
今は就寝前の語らいの時間だ。
「それで、今夜は交代制にするのか?」
「いや、ミントとテンコー、フラワーさんは不意打ちに備えるけど、見張りの兵以外は十分休んで欲しい。」
「まあ、騎士達は慣れてるからな。」
「では、ニコラス卿も寝ずの番ですわね。」
「おいおい、騎士見習いは違いねえが、今はパーティーの一員だぜ。行動を共にするのが役目だ。」
「ルシアちゃんはこっちに座らないのかい?」
ローランド殿下に誘われた彼女はちょっと、いや、かなり嫌そうな顔をしている。
「殿下はホント、ブレないなあ。自由研究の時だってあからさまに断られてたじゃないか。」
「レディをお誘いするのは紳士の基本だぜ。ニコラスだってフリーなんだからご令嬢方をお誘いすればいいじゃないか。」
「俺は誰でもって訳じゃ無いぜ。」
「せっかく相方のキャロライン嬢がいるのに。」
「おれの相棒はジュリアーナ嬢だけだったんだぜ。」
「まあ、相棒だなんて、嬉しいですわ。」
「でも残念ながら、俺の不始末でこういう結果になっちまったんだぜ。」
「あら? 私の意志はどこにも無いんですの?」
「さすがにそっちの宰相様は、勘当された男との結婚を認めたりしないだろう。」
「あんな腐れメガネ、どうだっていいですわ?」
「何だ。そっちの宰相も腐ったメガネなのか。」
何か、メガネの風評被害がすごい・・・
「じゃあニコラス君、再婚約はどう?」
「おいドウェイン。婚約なんてそう簡単なもんじゃないぞ。」
「でも、ジュリアーナ様はニコラス君がいいんでしょ?」
ここで何も言えない自分がもどかしいが、元々はこの二人が婚約者だったんだ。
互いに好意を持っているなら、そっちの方がいい。
私には既にマルガレーテ殿下がいるし。
「まあ、二人がその気なら、私も陛下に頼んでみるよ。」
「いいのか?その、ジュリアーナ嬢はそもそも」
「あ~いいからいいから。それ以上はいいよ。」
「その上、俺は子爵家の次男だぜ?」
「問題ありませんわ。相棒とおっしゃっていただいたのですから、私も男を見せなければなりませんわ。」
いや、いくら何でも男は見せなくても・・・
「まあ、魔王や堕天使を倒したメンバーの一員という実績があれば、爵位は気にしなくていいし、私の権力で爵位をあげることだってできるし。」
「そうだな。ニコラス、ここで決めちまえよ。バレッタ王国でも公認してやる。」
「両殿下、ありがてえ。」
「確かに、両国の次期国王が認めた仲なら、ファルテリーニ王国としてもこれ以上の利益は無いだろう。」
「分かった。俺もここでバッチリ決めないとな。ジュリアーナ嬢、俺の生涯の相棒になってくれ。」
「喜んでお引き受けいたしますわ。このじゃじゃ馬、見事乗りこなして下さいな。」
「ああ、道がある限り、いや、道が無ければ切り開いてでも、まだ見ぬ世界を二人で見に行こう。」
何か、永遠の愛を誓うカップルがここで誕生した。
変なフラグ立たないといいんだけどなあ・・・
「さあ、今夜は目出度い席だ。パーッと飲み明かそうぜ。」
「いやいや、今夜だけは早く寝ないとダメだよ。」
「そうだった。決戦前だったな。」
「でも、ちょっとだけならいいと思うよ。」
「ミントたちには悪いけどな。」
「さあさあ、ささやかな宴だ。ルシア嬢もこっち来な。」
彼女も促されて仕方無くローランド殿下の隣に座る。
「畏れながら、殿下の隣はちょっと・・・」
「随分嫌われてるが、いいじゃないか。」
「でも・・・」
「しかし、嫌われる心当たりが全く無いんだが、理由を聞いてもいいか?」
「そりゃ、あれだけご令嬢を囲っているんですもの、いい感情を持てというのが無理よ。」
「しかし、初めて会ったのはいつだったっけ?美術室だっけか。その時から既に嫌われてたような気がするんだよな。」
「それだけ分かりやすかったんじゃないのか?」
「そうかあ? 俺は外面はこんなだが、内面は硬派だぜ?」
「じゃあ、今囲っているご令嬢の多くは、後で泣きを見るのですよね。」
「だが、まだ誰とも約束してないからな。」
「そういう問題ではないわ。気があるフリして後で振ることには変わりないわ。」
「大丈夫だ。ちゃんとアフターケアは考えてる。投げ捨てなんてするつもりはないぜ。」
「じゃあ、せめて今囲ってるご令嬢の中からお選び下さい。アタシはその中に入ってませんから。」
「随分身持ちの堅い聖女様だな。」
「聖女ですから。」
どうやら二組目は成立しないらしい。
しかし、人のことは言えないが、ローランド殿下はどうするつもりなんだろう・・・
「まあまあ、それはともかく、ニコラス君おめでとう!」
「おめでとう!」
ドウェイン君の発声でみんなはカップを合わせる。
ブランドンに帰ったら、盛大に祝ってあげよう。