ターレンの街
マルシャ遺跡を出発して一週間。
途中山越えをしてロフェーデ王国東部のオリャール地方に入った。
予定ではこの地方の中心地であるターレンに到着しているはずだったが、モンスターや魔族の出現が多く、予定は大幅に遅れている。
「山超えたらいきなり敵が増えたな。」
「ファルテリーニ軍は大丈夫かしら。」
「軍なら大丈夫じゃねえか?物資さえあれば。」
「でも、連絡を絶ってから2ヶ月以上が経ちます。さすがに心配ですわ。」
「この先にミノちゃんいるよ~。」
「うん、3匹いたよ~。」
「分かった。では、騎士団はここに残って馬車の護衛、討伐は我々のパーティーで行う。総員配置に着け。」
「はっ!」
私たちが前進すると、1kmほど先の街道上にミノタウロスが鎮座していた。
「アイツら、何してんだろうな?」
「僕たちを待ち構えているのかな?」
「俺たちが来なかったら、ずっとあそこで待ってるつもりか?」
「じゃあ、試しに別の道を通ってみるかい?」
「いや、あの程度、やっちまった方が早いぜ。」
こちらが隊列を組んだ状態で近づくと、ミノタウロスたちもこちらを見つけたようで、突っ込んで来る。
先制は後衛の魔法だ。さすがにあの巨体が3頭も突っ込んできたら後衛に被害が出てしまう。
彼らを分断しつつ突進を止めていく。
その間に、ニコラス君とドウェイン君が左右に展開し、ミノBとCを攻撃する。
残ったミノAは私とフラワーさんで攻撃しつつ、後衛がミノの後ろに回って魔法攻撃する。
ミノタウロスは魔法も使うが、知能は高くないため基本は物理攻撃である。
気を付けないといけないのは突進攻撃と、興奮状態でヤケクソ気味に繰り出される火属性魔法だ。
このパーティーで水属性魔法が使えるのは私だけなので、前衛をジュリアーナ嬢に替わってもらい、私が中衛の位置から魔法攻撃する。
さすがに頑丈なミノたち。
時間は掛かるが徐々に動きが鈍くなっていき、最終的には黒焦げの焼き肉になった。
「さすがに堅かったな。」
「生命力はずば抜けているよね。」
「じゃあドウェイン、ちゃちゃっと切り分けてくれ。」
「任せて。」
ドウェイン君が風魔法で肉を切り分けていく。
「しかし、食べきれるかなあ。」
「干し肉にできればいいんだけどな。」
「コックさんならできるんじゃありません?」
「設備と薪が無いよね。」
「せめてもっと街に近ければなあ。」
そうこうしていると、ミントたちが呼んで来てくれたのか、物資を満載した馬車が到着し、本格的な解体と調理が始まる。
天下の往来を塞いでBBQなんていくら王族といってもあり得ないのだが、今は我々以外、人っ子一人いない。
まあ、あんなものが頻繁に出てくるような所、人が来る訳がない。
「さあ、食事にしよう。」
「馬も休憩が必要だったし、丁度いいね。」
「コック同伴の旅っていいもんだな。」
「魔物さえ出なければ優雅な旅だよ。」
「しかし、これで街は無事なのか?」
「少なくとも物流は止まっておりますわ。」
「そうですわね。とても無事とは言えませんわね。」
「あと、どのくらいだろうね。」
「まだ3日くらいは掛かると思いますわ。」
「じゃあ、今日は水場を探して、そこで休むか。」
そして4日後、我々はターレンの街に入る。
街は大きく破壊されており、あちこちで煙が立ち上っている。
「やられたな。」
「ああ、人もほとんどいないね。」
「逃げたか、あるいは・・・」
「魔物に襲われたのでしょうか。」
「間違い無い。戦場になったのなら軍民問わず、もっと死体が転がってるもんだ。」
「我が民を・・・許せませんわ。」
「それで、これからどうする?」
「取りあえず、ここの領主の館を拠点にしよう。周辺の情報を集めて今後の進軍経路を決めよう。」
「そうだな。」
「ミント、テンコー、索敵よろしく。」
「まかせてーっ!」
「やっぱり、疲れ知らずが沢山いると助かるな。」
そして、街の中心にある領主の館に入るが、生き残った僅かな住民が隠れていた他は誰もいなかった。
調度品なども激しく壊されていたものの、略奪の形跡はなかった。
「やっぱり魔物だね。」
「ああ、金目の物が残っているということは、さほど知能の高くないヤツらの襲撃で間違い無いな。」
「まあ、建物は比較的無事だし、ここを拠点にしよう。」
こうして情報収集を進めた結果、北に約100kmの所に真新しい城があるとのこと。
マルガレーテ殿下に確認したが、そんなところにロフェーデの城郭は無いとのことだ。
みんなが敵の本拠地に間違い無いというので、我々はそこに向かうこととした。
さて、次は何が出てくるのか・・・