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ジェニファーとルシア

 私は今まで、スペ体質の主要キャラは基本的に避けてきたわ。

 理由は、自分の命を守るため。

 そう、これだけはこの2年、一貫してきたわ。


 でも、よく言われる物語の強制力は、常に私を話の輪に入れようとするし、私の命を脅かしてくる。

 そして、肝心な物語はバッドエンドに進んでいる。


 そうなると、やっぱり私は命の危険にさらされるの。どんなに頑張って我慢しても・・・

 でも私は諦めない。

 どんなに狭く泥濘んだ茨の道でも、活路があるなら開いてみせるわ。


「ルシアさん、少しお時間をいただいてもいいかしら。」

「あ・・・ジェニファー、様・・・」

「あなたと少しお話がしたいと思ってね。」

「はい。」

 私たちは荷馬車の荷台に腰掛ける。

 別に秘め事にする必要はないし、周囲に人目のある方が、彼女も安心するだろう。


「以前は同じクラスでしたのに、こうしてお話しする機会には、ついぞ恵まれませんでした。」

「そうですね。私も男爵家の人間ですので、A組に馴染むことが出来ず、B組に入り浸っていましたので。」

「あなたがB組に落ちたのは故意ね。」

「いえ、実力です。」


「まあいいですわ。それで、ルシアさんは心に決めた殿方がまだいらっしゃらないんでしょうか?」

「恋バナ、ですか?」

「ええ恋バナです。私はあなたの恋愛に興味がありましてよ。」

「それはなぜですか?」


「あなたは聖女です。信じていただけないでしょうが、あなたはこの時代、いえ、この世界の主役です。あなたの恋の行方は大きな影響をもたらすのですよ。」

「わ、私は決してミッチェル殿下を横から奪おうなんて思っておりませんわ。」

「ええ、そうでしょうね。今でも積極的に避けておられる。」


「私にはまだ、恋とか恋愛は良く分かりませんし、好きな殿方もおりません。むしろ殿方は嫌いですから。」

「ここにおられる殿方で、婚約者のいないのはローランド殿下だけですね。学校全体を見回しても、後はジェームズ先生しかいませんね。」


「あの・・・ジェニファー様はもしかして・・・」

「多少、先が見えるとだけ、言っておきましょうか。」

「そうですか。私も、今のままでは状況が悪くなる一方だということは分かっています。」

「私が危ういことも。」

「はい。」


「そこまで分かっておられるなら、私からこれ以上申し上げることはございませんが、皆が幸せな結末を迎えられるよう、お願いしますね。」

「分かりました。大変なご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした。」

「いいえ。私もあなたとお話しできてよかったと思っております。」



~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/ 


 アタシは半ば放心状態でテントに戻って来たわ。

 この世界にやってきて、これほど緊張したことはなかったし、彼女の底知れぬ力量に当てられて消耗しきってしまったわ。


 そのまま力なくへたり込んで、狭いテントの天井を見上げる。


「彼女は何者・・・」

 この手の物語ならジェニファーも転生者だし、私という存在がある以上、それを否定することなんてできない。

 彼女が「シナリオを知っている」とか「予言した」ではなく「先が少し見える」と言ったのは、聖女相手に異端審問クラスの発言をしたくなかっただけね。


 でも、どうして彼女がシナリオと全く違う動きをし続けていたのかは分かったわね。

 そして、彼女は決してアタシを敵として認識していないことは分かったわ。取りあえず、これはいい情報ね。


 ただ、これで深まった謎もある。

 これが「スペ体質」を再現する世界なのか、悪役令嬢ジェニファーによるヒロインざまぁの世界なのかということよ。


 今までは、アタシが唯一の転生者として、シナリオを消化していけばいいと思ってたんだけど、彼女のやり直しストーリーなら、アタシの方が悪役としてキャスティングされたことになるわ。

 しかも、そんなストーリーをアタシは知らない。まあ、悪い事さえしなければいいんだろうけど、どんな強制力が働くか分からない状況では、今まで以上に慎重な行動が求められるわね。


「でも、ミッチェル殿下に手を出さない限り、ジェニファーがアタシの敵にならないことと、アタシが今から動くとすればローランド殿下とJしかいないっていう認識が正しい事は分かったわね。」

 だからといってどうしようも無いが・・・


 あの二人がサイテーなキャラなのも、ヒロインざまぁの世界線だから?

 ここに来て初めて突きつけられた可能性に、しばし絶望する。


「どう転んでもバッドエンドじゃない・・・」


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