女達の群像
王都ブランドンを発って約一月半。
私たちの旅は続く。
パーティーにやたら女性が多く、互いが牽制し合ってるからか、空気は微妙だけど私が一人一方的に責められる状況になっていないのは救いね。
キャロライン嬢は一番当たりが強いけど、所詮は学校の延長に過ぎないし、常識を大きく逸脱することもないのでそれほど心配はいらないわ。
ルシア嬢は女性陣全員と適度な距離を取ろうと気を使ってるのが良く分かるわ。
でも、みんなとお近づきになりたいというよりは、みんなと離れたいっていうのが正直な所なのでしょうね。
ジュリアーナ嬢はキャロライナ嬢と気が合うらしい。
とてもサバサバしている方で、細かな人間関係を気にするタイプじゃないわね。
ただし、ロフェーデのマルガレーテ殿下だけは避けてるみたいね。
まあ、両国の関係からすれば当然でしょうけど。
そのマルガレーテ殿下はみんなと距離があるけど、それを気にもしていないようね。
とても強い方だわ。
側妃になるそうだけど、誰がミッチェル殿下の正妃になっても大変だと思うわ。それほどの手練れよ。
そんな中で目立たす、しかしある程度は戦力であることを示さないといけないのは大変ね。
いっそのこと、婚約は解消同然だと言えると楽なんだけど、そうは言えない以上、もう少し耐えないといけないのね。
それと、この物語は間違い無くバッドエンドに突き進んでいる。
シナリオどおりだと魔王バロールが出てくるはずなんだけど、それは2年前に殿下らが倒したと言われている。
だから代わりにルシファーが出てきたんでしょうけど、これを倒せば後はノーマルエンドに向かってスムーズに行くのか。更なるシナリオの強制力によって世界の混乱が深まるのか、不安は尽きない。
唯一救いがあるとすれば、ルシファーもデビルも私を乗っ取らなかったこと。
私の魔法も問題無く通用しているみたいだから、全体のストーリーはバッドに向かっても、私には平和な未来が待っていると思えることね。
絶対に無事帰って見せるわ。
「ジェニファー殿、先ほどから無言じゃが、何かお考え事でも?」
「ええ、少し気になっていたことがございまして。」
「ルシファーのことであるか?」
「はい。」
「もし、ルシファーがデビルと同程度の輩であれば、心配は不要じゃ。」
「そうですね。同程度であれば。」
「違うと。」
「油断はなりませんし、他にどれだけの強敵が潜んでいるかは分かりません。まだ私たちは、敵の黒幕も正確な戦力も把握していないのですから。」
「そうじゃのう。しかし、どんな相手でも我らならば勝てる。そして勝つ。」
「マルガレーテ殿下はお強いですね。力だけでは無く、お心を含めたそのあり方まで。」
「ジェニファー殿、妾は側妃じゃ、そこまでへりくだる必要はないぞよ。」
「マルガレーテ殿下こそ、公爵家の者に遠慮は不要ですわ。」
「そういう訳にはいくまい。今があって将来があるのじゃぞ。」
将来は王妃と修道女ですけど・・・
「マルガレーテ殿下がお側に控えているなら、ミッチェル殿下も安心です。」
「何か、そなたとおると調子狂うのう。もっとバチバチ来ても良いのじゃぞ?」
「そのような事は望んでおりません。以前の私ならそうしたかも知れませんが。」
「不思議な姫君じゃ。」
そういえば、殿下は最初から覚悟が決まっていましたね。
意外に私たちは似た境遇にあるのかも知れません。
せめて、彼女とは最後まで上手くやろうと思いつつ、それからはちょっとだけ女の子らしい話題で盛り上がりました。
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もう半月以上、不便で緊張感溢れる馬車の旅を続けているわ。
このゲームの魔王降臨イベントって、王都近辺で魔王が復活してその当別に向かうんだけど、ターン制の戦闘シーンがあるだけのものだったのよ。
もちろん、それに敗れたら攻略対象が死んじゃったり街が破壊されたりかなり酷い結果になるんだけど、少なくともあっという魔に終わるミニゲーム扱いなの。
まさかこんな長期戦になるなんて思いもしなかったわ。
しかも、できることならお近づきになりたくない方々が揃ってるし、女性陣の雰囲気は悪いしで気分は最悪よ。
アタシは男性陣に興味は無いし、聖女っていう独自の立場があるから、高貴なご令嬢方に敵視されずに済んでるけど、できるだけ早くここからおさらばしたいわね。
いや、おさらばしたいんだけど、キャロライン様とジュリアーナ様に捕まってる。
「向こうは未来の正妃と側妃で何を話しているのかしら。」
「キャロライン様、気になりますの?」
「そうですわね。ミッチェル殿下もあと一年で正式に後継指名を受けるでしょうし、側妃も決まってしまいましたわ。さすがに高貴な私が第二側妃というのは許されません。何としてでもジェニファーを追い落とさねばなりませんわ。」
「それはさすがに難しいのでは?」
「あれは今でこそ大人しくしておりますが、昔は酷かったのですわよ。殿下もかなり辟易したご様子でしたし、人間、そう簡単に代わるものではございませんわ。」
「なるほど。キャロは正妃狙いなのですね?」
「あなたも狙ってるんでしょう?」
「何故、そう思われるのです?」
「それは、あのニコラスと婚約破棄した上で、この国に来たからですわ。他に理由など考えられませんから。」
「まあ、陛下と父からは上手くやるように言われているのは事実ですわ。」
「やはりそうなのね。まあ、あのニコラスと別れたのはとても良い事ですが、また一人ライバルが現れたのは由々しきことですわね。」
「キャロは他に婚約者候補はいなかったのです?」
「殿下以外、ロクなのがいなくて・・・クラスを見渡せば分かると思うけど。」
「まあ確かに。校内でもニコラス以外は見るべき殿方はいないですわね。」
「あらあなた。目が曇って来ておりますわよ。」
「そんなことはございませんわよ。確かに、以前は暗くてオドオドしてて酷かったですけども、今は堂々としてて100倍格好良くなりましたわ。」
「でも、あれは今や子爵家の次男坊。やめておいた方が身のためですわ。」
「そうかも知れないけど、ニコラスさえ良ければ、再婚約したっていいと思ってるわ。」
「あなた、見た目以上にやるわね。ところで、聖女様は将来を誓ったお相手などいらして?」
「いえ。私はまだ・・・」
「今、この国の婚活レースを不透明にさせているのは私とあなたなのですよ?」
「キャロライン様はそうでしょうが、私などは限りなく平民に近いですし。」
「聖女というのは王族に匹敵する格式があるのです。身の程を弁えているという点では好ましく思いますが、あなたの動向がはっきりしないと、動けない殿方も多いのですわよ。」
そんなこと言われても、知らないわよ・・・
「まあ、修道士でもいいかなと・・・」
「なりませんわ。ルシア嬢は跡取りでもあるのでしょう?」
「ああ、そうでした・・・」
「せめてお相手は貴族でないといけません。そしてあなたの子のいずれかを入嗣させるのですわ。」
「はい、そろそろ自分の身の振りを考えたいと思います。」
こんな会話が、夕食を準備してたコックさんが来てくれるまで延々続いたのよ。
あ~、早く帰りたい。