旅は続く
私たちはデビルを退けた翌日、東部の街、ターレンに向けて出発した。
ここからだと山越えで一週間ほどかかるようだ。
そして、バレッタとファルテリーニの兵も加わり、馭者や後方支援まで含めると、いつの間にか百人規模の大部隊となっている。
私とニコラス君、ドウェイン君は気分転換がてら、馬に乗ってい移動している。
「しかし、得体の知れない悪魔との戦いを除けば、どこも平和だなあ。」
「そうだね。ついこの間まで敵だったここでさえそうだからねえ。」
「そうですね。農家の方々が作業しているところなんて、世界共通です。」
「そういえば二人とも生き生きしてるね。ドウェイン君の馬はちょっと気の毒だけど。」
この世界では標準体型の私、むしろ小柄なニコラス君に比べると、騎士団長の遺伝子を存分に受け継いだドウェイン君は、その温厚な性格とは裏腹にとても大柄だ。
「そうですね。僕もちょっと馬には申し訳ないと思ってるところですよ。」
「殿下の白馬は何と言うか、あまり似合ってねえなあ。」
「ああ、もっとイケメンじゃ無いと似合わないよ。これは・・・」
「しかし、王子は白馬って決まってるからな。ヤンキーが金髪なのと同じだぜ。」
「そのレベルか~。」
「ニコラス君、側近でなかったらとっくに不敬罪で捕まってるよね。」
「そうだな。俺もその自覚はあるぜ。殿下が温厚で本当に良かった。」
「そういうニコラス君は馬より荷馬車が良かったんじゃないの?」
「そうだな、午後は代わってもらおうかな。」
「しかし、騎乗より荷台がいいって言う騎士も珍しいね。」
「荷馬車ってのは鈍重で、なかなか思うに任せない。だが、それを上手く操り、限界に向かってどこまでも道を行く。荷物を待っている人の笑顔、更にその先にあるドライバーとしての高みを目指して、今日も走り続ける。それが荷馬車のセールスドライバーだ。」
「どっかの運送会社みたいだね。」
「まあ、俺の将来は騎士団だがな。この身分でなければ間違い無く運送業を興してたと思うぜ。」
「世界で一番馭者に理解がある騎士になれるね。」
「ああ、そして馭者兼騎士、これが俺の目指す理想だ。」
私の側近は凄く変なものになろうとしている・・・
「ところで、女性陣は喧嘩してないかな。」
「まあ、渦巻きはジュリアーナと、ジェニファー様はマルガレーテ様とコンビを結成したみたいだからな。ルシア嬢はどっちかっていうと渦巻き寄りだが、ローランド殿下がいない方にいるって感じかな。」
「たった5人しかいないのに派閥ができる。」
「女ってそういうもんだよ。だが、ミントやテンコーたちがいい味出してる。」
「ああ、彼らを連れて来て本当に良かったよ。」
「さて、そろそろ休憩だね。」
「じゃあ、干し草を用意するか。」
私たちは隊列の先頭に移動し、休憩場所に誘導していく。
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「ソウカ。デビルガ敗レタカ・・・」
ここはロフェーデと隣国の国境付近に築かれた魔王城。
ここに幹部達が一堂に集められている。
バロールは真新しい玉座に深く腰を下ろし、肘をついている。
「バロール様、サタンでございます。」
「ナニ? デビルトサタンハ違ウノカ?」
「ああ、そ、そうですね。ヤツによると明確に違うそうで、言い間違いには敏感でした。」
「ダガ、死ンダノナラ問題アルマイ。」
「まさか、あれほどあっさり倒されるとは思いませんでしたが。」
「そうです。面白半分にしゃしゃり出ていって為す術無しとは、恥さらしもいいところだ。」
「四天王ダッタノダガナ。」
「最弱でしたな。」
「アア、ハエ以下ダッタナ。」
「皆、四天王最強を侮り過ぎでは無いか?」
「ならば次はお前が行けばいい。」
「最強は最後だろ。」
「マア待テ。今後、勝手ナ真似ハ許サン。アスモデウス、ルシファー、ベルゼブブヨ、次ハオ前達ガ眷属を率イテ共同戦線ヲ張レ。良イナ。」
「これはご冗談を。こんなヤツらと一緒に戦うなどまっぴらゴメンでございます。」
「私も怠け者やハエなどと一緒はお断りですな。」
「何だと!」
「黙レッ!我ニ歯向カウカッ!」
「そもそもバロール様などの従う義理なギャッ!」
ベルゼブブがバロールに踏みつぶされて絶命する。
「コレデモ単独デ勇者ニ勝テルナドト寝言ヲホザクカ?」
「・・・も、申し訳ございません。」
「我ら二名、必ずやバロール様のご期待の沿うよう努めます。」
「ウム、分カレバ良イ。ベルフェゴール、スクブス。」
「はっ。」
「コノ汚ラワシイモノヲ捨テテコイ。」
「御意。」
二人は潰れた巨大なハエを運び出す。
「全ク、魔族ノ知能ノ低サニハ辟易スル。」
「我々はそのようなことございませんので、ご安心を。」
「自分ニ有利ナフィールドヲ造リ、油断スルコト無ク確実ニ始末シロ。」
「必ずや。」