ロフェーデへ出発
ついに堕天使ルシファー討伐隊の出陣となった。
ミントを含めた12名と、魔術師10名が6台もの馬車に分乗し、これに騎士10名、さらにロフェーデ王都まで護衛する騎士団員10名、荷馬車まで含めるとかなりのキャラバンとなる。
少なくとも、盗賊風情が手を出せるものではない。
「ではミッチェル、無事に帰ってきてくれ。」
「お任せ下さい。必ずや任を果たします。」
城内や臣民の不安を煽らないため、華やかな式典などは行わない。
人数の割に静かに出発し、城の跳ね橋を渡る。
「いよいよだな。」
「そうだね。さすがに緊張するよ。」
「殿下は剣を2本佩いているんですね。」
「対人や魔物との戦いも想定しているからね。」
「いや、殿下は聖剣が必要な時以外は体力を温存してて欲しいなあ。」
「大丈夫だよ。近くまで馬車移動なら。」
「しかし、テンコーは別に座席に座らなくても疲れ知らずなんじゃねえのか?」
「そりゃそうだけど、ウロウロしても迷惑だろうし。」
「ミントたち、飛び回ってるぞ。」
「シナモンちゃんだけかと思ったら、20人はいるよね。」
「ジャスミンちゃんとかヴァイオレットちゃんとかいたね。」
「顔が同じだから、どうせ見分けはつかんし覚えられねえよ。」
「そうだね。」
「ところで、険悪な二人は?」
「当然、別だよ。キャロとジュリー、ルシア嬢はフラワーさんと一緒だ。」
「それなら大丈夫だな。」
「ああ、ローランド殿下とルシア嬢のことだった?」
「ジェニファー様とルシア嬢も微妙だな。」
「確かに。」
「女子って難しいよな。」
その微妙な関係は解消されること無く、約二週間で国境を越える。
途中、何度か魔物との戦闘はあったが、我々が出るまでも無く、騎士達で片付けていた。
さらに一週間で王都に到着し、ここで護衛の騎士団と別れる。
「じゃあ、近衛の皆は役目大儀であった。」
「任務を無事完了し、安堵しております。」
「帰路も油断せず、また元気に再会できることを祈る。」
「殿下もご武運をお祈りしております。」
すると、向こうから一台の豪華な馬車がやって来る。
よく見ると、見覚えのある装飾だ。
中から、ついこの間見送りしたご令嬢が降りてくる。
「これはマルガレーテ・バルクナー第一王女殿下、お見送り感謝します。」
「勘違いしないで下さい。私は殿下を見送りに来た訳ではありませんわ。」
よく見るとドレスでは無く騎士の制服だ。もしかして・・・
「あの、つかぬことをお伺いしますけど・・・」
「聞くまでも無く、妾も討伐に参加するぞ。これでも戦う術は持っておる。」
「大変有り難い申し出ではありますが、我ら、これより戦場に赴きますので。」
正直、ロフェーデの人間は信用ならないのでご遠慮したい・・・
「まあ、あなた様がロフェーデの第一王女様ですの?」
「どなたかしら。」
「私はファルテリーニ王国宰相の娘、ジュリアーナ・カズコーニよ。以後、よしなに。」
ま~た面倒くさくなりそうな予感・・・
「オーッホッホ!私はミッチェル殿下に最も近いキャロライン・ゴールドバーグといいますわ。以後よろしく。」
「まあお二方とも。これは物見遊山ではございませんことよ。」
「私たちはウィンスロット王国を代表する戦力としてここにおりますのよ。」
「ウィンスロット王国も大したこと無いわね。」
「敗戦国の姫が何か言ってますわね。」
「おいおい相棒、ドリル、そのくらいにしておけ。」
「それでマルガレーテ様、国王陛下はよろしいとおっしゃっていたのですか?」
「妾を生け贄に出すような王の許可など不要ですわ。」
そういや国王に謁見しなかったな。
「殿下、どこに乗せる?」
「連れて行くの?」
「もう断れないだろ、雰囲気的に。」
「じゃあ、あの馬車で・・・」
「一人という訳にはいかないと思うぜ。」
「じゃあ、私が・・・」
「殿下だけだとジュリアーナが妬くぜ。ジェニファー様あたりも一緒にした方が良い。」
「じゃあ、フラワーさん辺りも借りるか。」
こうして、不思議なメンバーがロフェーデの馬車に乗り込み、どうにか出発する。
「改めて、ウィンスロット王国フレミング公爵家のジェニファーと申します。」
「ジェニファーさんね。マルガレーテよ、よろしくね。」
「しかし、まさかこんな危険な所に来るとは思わなかったな。」
「我が国内のことですもの。当然ですわ。むしろ、知らぬ存ぜぬを通す陛下が不抜けているのですわ。」
「まあ、こちらが要請しなかったのも原因ですので。」
「それでも、独自に調査するなり戦力を出すなり、為政者としての責任を果たすべきですわ。全く、勘違いもあそこまで行くと救いようがありませんわ。」
「ねえねえ殿下、ミントたちも紹介してっ!」
「ああ、そうだね。こっちはうちの学校に住んでる鏡の妖精、ミントだ。」
「ミントだよっ、よろしくね。」
「まあ、欲ご挨拶できました。可愛いですわね。」
「ありがとー。それでそれで、こっちがシナモン、おねえちゃん。」
「シナモンだよーっ、よろしくー。」
「シナモンちゃんね。みんな可愛くていいわね。」
「それでね。こっちがライムちゃん、シルクちゃん、ハニーちゃん、ヴァイオレットちゃん、ミストちゃん、モカちゃん、ジャスミンちゃん、バニラちゃん、ピーチちゃん、ワサビちゃん」
「分かった、分かったよ。ミント、一度には覚えきれないからね。」
「うん、分かったー、ゴメンね。あっ、この子が最年少のメイプルちゃん。この春生まれたばかりだよ。」
何か変な名前なのもいたけど・・・
「それで、彼女たちも戦うのかしら。」
「主に斥候だね。でも、魔術だって大人顔負けだからね。」
「空が飛べるなら戦力として十分ね。」
「まあ、彼女たちがいると癒やされるし、休憩時間は重宝するんだ。」
「良く分かりますわ。」
こうして我々は東に向かう。