マルガレーテ・バルクナー
そして我を忘れて勉強と選挙準備に没頭し、立候補者受付が始まった翌日、今度はロフェーデ王国から第一王女殿下一行が到着した。
私はまたしても学校を休み、彼女を歓待している。
そうだ、四つ巴だった。
馬車が停車し、彼女が降りてくる。
「長旅お疲れ様でした。ウィンスロット王国第一王子、ミッチェル・アーネットです。」
「お初にお目にかかります。ロフェーデ王国第一王女、マルガレーテ・バルクナーでございます。この度は婚約の輿入れに参りました。よろしくお願いいたします。」
「では、中にご案内しますのでどうぞ。」
彼女を客間に案内する。
中には既に国王、王妃、宰相が待っている。
そう、今回は正式な謁見は行われない。
しかも、陛下と王妃はソファーに座ったままだ。
ファルテリーニとロフェーデでは明確な扱いの差がある。
「ではお集まりの皆様方に紹介します。こちらがロフェーデ王国マルガレーテ・バルクナー第一王女様です。」
「マルガレーテです。以後、よろしくお願いします。」
「うむ。よくぞ参った。余が国王エドガー・アーネット、こちらが妻のヴィクトリア・アーネットだ。」
「ヴィクトリアです。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
先日と違い、何だか雰囲気が堅い。
個人的にはそんなつもりは無いが、やはり為政者にとっては敵国の人間という意識が根強いのだろう。
「私が宰相のヴィクター・ラトリッジです。どうぞ、よしなに。」
「よろしくお願いします。」
彼女と私の分の茶と菓子が並べられる。
「長旅大儀であったな。特に変わりは無いか。」
「はい。恙なく旅を続けることが出来ました。」
「そうか。既に聞いておろうが、そなたには第一側妃となってもらう。人質のような空気で申し訳ないが、よろしく頼む。それと、10月1日をもって全土に公表する。」
「承知いたしました。」
「では、ここからは若い者同士の方がいいだろう。ミッチェル、よく歓待してあげなさい。」
「お任せ下さい。」
ここで陛下らは退室する。
全く歓迎する気ゼロだ。
「フーッ!さすがに緊張したわ。もう非公式ね。」
うん?こういうキャラなのか。
「あ、ああ、もう大丈夫だ。普段どおりに振る舞ってくれて構わない。」
「こういう堅苦しいの苦手なのよね。しかも、歓迎されてないし。」
「まあ、いろいろわだかまりもしがらみもあるのは事実だよ。それは時間を掛けて解消していくほかない。」
「分かってるわ。敗戦国の生け贄なんだから。でも、妾は負けるつもりも潰されてやるつもりも無いわよ。とにかく生き抜いてやるから。」
こりゃとんでもないお姫様の予感がする。
「まあ、陛下と王妃様だって悪い人ではない。何かあれば私を頼ればいいし、心配することはない。」
「勘違いしないで。妾はただの人質で終わるつもりはないの。心配も同情も無用よ。」
「いや、同情ではない。共に歩む者同士なのだから当然だし、勝敗は兵家の常と言う。立場が逆だった未来だってあったんだ。」
「妾はたとえ勝ったとしても、そなたなどお断りじゃ。それに、夫としての義務と愛情をはき違えるほど愚かにはなれぬ。」
困ったお嬢さんが来たもんだ。もしかして、ツン?
「まあ、取りあえず落ち着いたら庭園を案内しよう。マルガレーテ嬢の専用区画もあるから、どうするか構想を練ってもらってもいい。」
「女が全て花を愛でると思い込んでいるのは、殿方の大いなる勘違いですわ。あんなものは庭師に任せておくのが一番。妾の節介は不要。」
まあ、それはそうだが・・・
「失礼した。それでは長旅の疲れもあるだろうから、部屋でゆっくり休むとよい。」
「そうさせていただきますわ。そういう気遣いができるところは、ま、まあ、40点くらいは与えてもいいわね。」
高いのか?彼女基準で40点はどの辺りなんだ?
ゼロじゃないけど50でもないのは微妙以下ってことなのかなあ。
「では、案内するよ。」
「ちなみに、10点満点よ。」
想像以上に高かったーっ!
のっけからカンストしてんじゃん!っていかんいかん、素が出てしまった。
彼女を無事に部屋に入れて、ほっと方をなで下ろす。
「悪い子では無いと思う。」
どっと疲れが押し寄せて来るのを感じつつ、私も部屋に戻る。
結局、彼女は一週間ほど滞在し、輿入れ準備のためロフェーデに帰国していった。
ちなみに、ジュリアーナ嬢やジェニファー嬢とは今回は会っていない。
この城だって、そのくらいの広さはある・・・