生徒会役員選挙の準備
4月も中旬に差し掛かってくると、生徒会選挙の季節だ。
私たち三年生もこれで引退し、後進に譲ることになる。
来週から立候補の届け出なので準備を行うが、会長候補筆頭は現役員のライオネル君とローナさんだ。
「まずは名簿の確認だね。」
「氏名と所属クラスだけでなく爵位、成績、得意分野までしっかり把握しておくんだよ。」
「分かりました。でも、こうして見ていると色んな生徒がいますね。」
「そうだね。この中からあらかじめ役員候補も絞っておくといいよ。」
「しかし、私たちのいずれかが次期会長になるとは限りませんから。」
「それはそうだけど、2年生には有力な対抗馬はいないし、1年生も侯爵家の三男が最高位だね。去年の実績がある君たちには勝てないと思うよ。」
「殿下にそう言っていただけると心強いです。」
「家門を背負っているので、頑張りたいと思います。」
ここ二年、無投票が続いたので選挙の雰囲気を知る者は誰もいないが、1週間の届け出期間と、それを含む2週間の選挙戦、討論会を経て投票という流れになる。
もちろん、早く立候補して選挙戦に突入した方が有利なので、立候補者はいずれも公示初日に届け出を行うだろう。
推薦者は必要無いので、誰でも立候補可能だが、ポスターづくりや演説原稿、果てはサクラにいたるまでスタッフの強力は欠かせないため、自然と高位の家柄の生徒が有利になる。
「まあ、ここが生徒会室ですね。お忙しいところ失礼いたします。この度留学してきましたファルテリーニ王国のジュリアーナ・カズコーニと申します。以後、お見知りおきを。」
「良く来たね。みんなに紹介するよ。ファルテリーニ王国宰相の娘さんで、今回、留学生として編入されることになった。みんな、仲良くしてあげてね。」
ファルテリーニに帰る気が一切無いジュリアーナ嬢は、この学園で共に学ぶことになった。
ちなみに、婚約の件は依然内密なので、留学生なのである。
「まあ、これはこれは、久しぶりに私に並ぶ高貴な雰囲気を醸しておりましわね。私、この学園では最も高貴なキャロライン・ゴールドバーグと申しますわ。学園で生徒会副会長をしておりますので。よろしくお願いしますわ。」
「これはご丁寧に、よろしくお願いしますわ。」
「オーッホッホ!」
ハモった・・・
それにしても、キャロライン嬢と波長が合わせられるなんてポイント高い。
ウィンスロット語も流暢で、彼女の能力の高さが分かる。
「ジュリアーナ、気を付けろよ。コイツは口も髪も切れ味抜群だからな。」
「あら、総身なまくらに言われてしまいましたわ。」
「とても楽しげな雰囲気ですね。私は嫌いでは無いですわよ。」
生徒会が今月までで本当に良かった・・・
「ホッホッホ、私たち、気が合いますわね。」
「ありがとうございます。私もこの国に来たばかりでまだお友達がいないので、とても心強いですわ。」
「いいですわね。私の一番のお友達にして差し上げますわ。」
「キャロライン嬢に友達になってもらえたら私も安心だよ。」
「そうかぁ、不安しかないだろ。」
「まあニコラス卿、まだ元婚約者に執着しているなんて、みっともないことですわよ。」
「まあまあ二人とも、何でもバトるクセは直した方が良いよ。」
「まあ、ニコとキャロライン様はそういうご関係なのですね。」
「ジュリアーナ、決してお前が考えているような良好な間柄じゃないからな。」
「とても仲睦まじく見えますのに・・・」
「ジュリアーナ様。それは気のせいの大間違いですわ。」
「ところでジュリアーナ嬢、ニコというのは?」
「ニコラス様だからニコです。ああ、殿下も相性でお呼びした方がいいですわね。では、ミックなどはいかがですか?」
「わあ!いいですわね。では、私もそうお呼びしてよろしいでしょうか。」
「あ、ああ、まあ、いいけど・・・」
「嬉しいです。苦節2年。ようやく殿下を相性で及びすることができました。では、私のこともキャロでもロナでもお好きに呼んで下さいな。」
「では、私もジュリーとお呼び下さい。」
私はニコラス君に腕を引かれて部屋の隅に移動させられる。
「おいおい、ジュリアーナはともかく、ドリはまずいんじゃないのか?」
「いやしかし、ここで断るのも不自然だし。」
「今はあの二人、仲が良いように見えるが、殿下との関係を知った途端、第二次ジェニファー戦争が勃発しちまうんだぞ。」
「いや、あの二人でそうなるかなあ。」
「むしろ、ジュリアーナのノリならジェニファー嬢のようにしなやかに躱すねんてことはしねえぞ?」
「もしかして、ここに来てドロドロ展開か?」
「俺には殿下が鈍感系を装うのが目に見えるぜ。」
「ああ、気付かないことにしたいな。」
「陛下に言って、もう公表しちまえよ。」
「そこで何をコソコソしているのですか?」
「いや、次の役員人事をだな。」
「あなたがそんな真面目なこと考える訳無いことくらい、知っておりますわ。」
「真面目なことを考えたことすらないお前に言われるとは心外だな。」
「お二人はとても気が合うのですね。」
あ~分かる。これ後でとんでもない展開になるヤツだよ。
しかもあと半年はジェニファー嬢を加えた三つ巴だよ。
何でこうなるかなぁ・・・
「仕方無い。今は生徒会選挙に没頭しよう。ライオネル君、ローナさん、作戦会議だ!」
逃げる。私にはこれしかできない・・・