陛下の執務室にて
ダンジョン研修の翌日、王宮で緊急対策会議が開かれた。
陛下を始め、宰相、騎士団長、軍務卿などお歴々が揃う。
私たちのパーティーメンバー6名も、当然呼ばれている。
「皆、よくぞ集まってくれた。」
「陛下、それとミッチェル殿下。ルシファーが現れたとのことですが、それはまことでしょうか。」
「ルシファーを名乗る天使のような者が出現したのは事実です。」
「人型の有翼魔族はいくつか存在すると思いますが。」
「ハーピーやデビル、一部のヴァンパイアなどですね。しかし、これらはいずれも伝承の域を出ないものです。」
「しかも、かなり高位の種だな。」
「私たちが見たものはハーピーやデビルといった、単に人型だったというレベルでは無く、色と翼以外は人そのものの見た目でした。」
「ちなみに、羽根は黒かったぜ。」
「まさに伝え聞くルシファーそのもののように思えるな。」
「恐れながら陛下、まず、問題を整理したく存じます。」
「そうだな。ジェニファー嬢のいうとおりだ。何か良い案があるかね。」
「はい。ルシファーが本物かどうか、目的は何か、対処法はあるかが重要ですが、彼の真贋は教会にお任せした方が良いと思います。
「ならば、限られた時間で検討するなら、ヤツの目的と対処法か。」
「あの黒天使は本来、何のために悪さしてんだ?」
「神になろうとして堕天したと言われる。神とそれを崇める人間に強い恨みを持っていることは間違い無いだろう。」
「ヤツにとって人間は敵であり、利用するものであり、嗜虐の対象でもあるだろう。」
「ということは、ヤツの目的を特定するのは困難ですね。」
「むしろ、ルシファーの思うがまま振る舞うと考えた方が良さそうだな。」
「ロフェーデで起きた異変は、ヤツによるものなのでしょうか。」
「その可能性はある。ルシファーの能力で黒い霧や大規模爆発が起こせるものなのか、ということについても、教会に調べさせよう。」
「対処法だが。聖剣は通じるのか。」
「やってみないと分かりませんね。聖女の光魔法も。」
「だが、切り札に何も心当たりが無い状況よりはずっといい。」
「そう言えば、ルシファーはミッチェル殿下のことを"聖剣の勇者"と呼んでおられましたわ。」
「確かに・・・」
「ならば、ヤツが聖剣の存在を気にしている可能性はあるな。」
「それと、通常の攻撃手段も、全く通じない訳では無いようでした。」
「相当頑丈に出来てるみたいだったけどな。」
「でも、ナイフが刺さった所は、血が出てましたよ。」
「では、騎士団や軍による力押しは有効と考えるか?」
「いいえ、ヤツは空を飛べます。先日はたまたまダンジョン内だったので、魔術が届く高さでしたが、野戦は不利です。」
「狭いところにおびき寄せて、精鋭で叩く先方を採らざるを得ぬか。」
「相手がそう都合良く出てきてくれるかは疑問ですが。」
「そうだな。眷属を大量に従えて進軍してくることもあり得る。」
「やはり、ルシファーが大規模攻撃手段を持っているかどうかを調べる必要がありますね。」
「それでは、差し当たってこれらを調べて検討するとともに、バレッタ、ファルテリーニへ速やかに情報提供することとしよう。」
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お城での会議を終えた私は、ブレンダとともに帰宅した。
「お疲れ様でございます。お嬢様。」
「ブレンダも大変でしたね。あのような国の重鎮を前に色々聞かれて。」
「いいえ、とても誇らしかったです。」
「頼もしいですね。」
「お嬢様のお側にいると勇気100倍でございます。」
「これからもよろしくね。」
「はいっ!」
でも、いくつか気になることはあった。
まず、スペ体質の物語に出てくるのはあくまで魔王バロールであって、ルシファーは出て来ない。
それが証拠に、ルシファーは聖剣の勇者の存在は認知してたけど、魔族に精神を乗っ取られる都合の良い駒については認識してなさそうだった。
つまりは、中途半端な形でストーリーに絡んでいるイレギュラーと考えた方がいい。
次に、研修中に私が乗っ取られなかったこと。もちろん、私は闇落ちなんてしていないが、今回のことで少なくとも魔王バロール以外で私を強制的に闇落ちさせられる存在いないということが判明した。
これは、このままバッドエンドを進んでも、バロールにさえ会わなければ、私の命の危険はかなり低いと考えることが出来る。
また、今回のことで、戦闘がターン制でないことが分かった。
スペ体質には、魔王と邂逅する際のゲームイベントはなく、戦闘もミニゲーム程度のものだ。
そもそも魔王バロールとの戦い自体、悪役令嬢が倒されるためのエピソードに過ぎないし、あくまで女性用恋愛ゲームなのだ。
「お嬢様、茶の準備ができました。」
「ありがとう、メアリー。」
私はこの時間が何より好き。
この穏やかで心地良いひとときがいつまでも続いてくれたらなあ、と思う。




