ハプニング
夜はダンジョン入口から少し離れた広場で野営する。
今回は女性とも幕舎で過ごすことになる。
そして、夕食のメニューは飯盒炊爨でカレーだ。
この世界の根底部分は間違い無くヨーロッパだがちょくちょく日本要素が優先される。
何たって、この時代にあるはずのないたまご○ちや象○魔法瓶すら概念が存在するらしいことが先日の生徒会での雑談で判明したのだ。
まあ、それはともかく我がテントの周りは20名の大集団が騒いでおり、野趣溢れる食卓も賑やかだ。
「アンジェリカ、マライアも遠慮せずにお食べ。」
「ありがとうございます。殿下。」
「でも、さすがに高貴な方ばかりで緊張してしまいます。」
「オーッホッホッホ! 分を弁えればそれで良いのですわ。どうも怪しいのが一名混入しているようですが。」
「おいおい、髪型だけが高貴なヤツに言われたくねえなあ。」
「やはり、下賤な民は口も穢れておりますわ。」
「ところで、その髪型、明日どうするつもりなんだ?」
さすがニコラス君、みんなが聞けない所に素面で突撃する。
「もちろん、日の出前に私の高貴な専属がまいりますわ。」
「さすがです。キャロラインお嬢様。」
「いつも素敵な御髪に憧れております。」
「お嬢様は私たちの光、目標でございます。」
今日も愉快な仲間達は元気だなあ・・・
「でも、明日は午前中のみだね。」
「しかも、今日自信を付けたパーティーが追加で第2階層を目指すって聞いたよ。」
「あまり沢山のパーティーがひしめくと危険だからね。」
「じゃあ、俺たちは第三階層に行くか?」
「時間が足りなくね?」
「中央ルートを行かせてもらえば、第3街道制覇は無理でも、途中まではやれるぞ。」
「先生に頼んでみようか。」
「また私の成績が龍のように上ってしまいますわ。」
「せいぜいウナギだろ・・・」
「じゃあ、今夜は早めに休んで、早朝から準備しよう。」
「女性陣はどうする?」
「今日の様子なら、ローランド殿下を残せば問題無く勝てるよ。」
「じゃあ、フラワーさんとご先祖様にも残ってもらおう。」
「おいおい、残しすぎだろ。」
「まあ、ご先祖様はこれ以上、歩いてくれないよ。」
そういうことで、意外に早くお開きとなり、少し肌寒い中、眠りにつく。
翌朝、日の出直前に起床し、先生の許可を取り、他の生徒に先駆けて出発する。
「しかし、半分でもよくセットできたな。」
「今日は巻が足りないので不調かも知れませんわ。」
「お前の成績から引いておくよ。」
「あら、それでもあなたよりは強くてよ。」
「来たよ~、正面からいもむし2匹~!」
今日は第2階層到達前に魔物に遭遇する。
「じゃあ、女性陣でやってみよう。」
「カミラ、頑張るのです。」
「は、は、はい!」
女性陣はローランドパーティーのキャシー嬢、マライア嬢以外は全て後衛要員だ。
前衛の二人がヨツビシキャタピラーの前に立ちはだかり、ヤツらの前身を止め、後衛が魔法攻撃を行う。
彼女たちは命中精度、威力、射程全てにおいて初級者レベルのため、前衛の背中越しに打ち込むのが精々出し、何だか危なっかしいが、それでも7人が乱れ打ちしているのである。徐々にキャタピラーは動かなくなり、やがて倒された。
「カミラ、ロレッタ、それに皆さん達もよくやりました。」
「ありがとうございます。」
「怖かったです。」
「この経験があなたたちを大きくします。頑張りましたわ。」
「はい!」
「シェリーたちも良くやった。特に前衛の二人はよく逃げずに留まった。偉いぞ。」
「はい、ありがとうございます。」
「お誉めに預かり光栄です。」
前衛二人は、もう涙目だ。
その後も何度か戦闘があったが、連携もスムーズにできるようになったし、何より解体が上手くなって所要時間が短縮できた。
「これで連日の第2階層踏破だね。」
「これだけの人数がここまで来た年なんて無いと思うぞ。」
「私たちは、その、ズルですし・・・」
「いや、この光景を見た、知っている、そういうことは、これからの君たちにとって大きな財産になるし、箔が付いたとも言える。」
「そうだよ。他のご令嬢方にも自慢できる成果だと思いますよ。」
「ありがとうございます。ニコラス様、ドウェイン様。」
そう、ニコラス君はたった一人を除いて、女性に紳士的である。
そして、ローランド、カミラパーティーとはココで別れ、私たちの組は第三階層に降りる。
「ここは何が出ることになってるんだ?」
「グレイウルフやアイスレオパルド、マジックマッシュルームなどですね。」
何でその名前にした?っていうのが一つ混ざってる・・・
「猛獣系か、腕が鳴るな。」
最近、ここまで来る人がいないせいか、降りてすぐにミントからの知らせが入る。
「きのこだ。」
「前衛は下がって。魔法だけで迎撃する。」
「よし、任せた。」
痺れや睡眠、狂気や視野狭窄などの状態異常付与が得意なヤツだ。
接近戦は避けた方が安心だ。とは言っても6人で魔法を撃てば、瞬く間に相手は全滅する。
「やっぱ相手にならんな。」
「デーモンスレイヤーがいるからね。」
「クックック、」
「?」
あれは・・・笑い声か?
しかし、この階層には他の人間も、笑うような魔物もいないはずだが・・・
「誰かいるのか?」
すると、通路の影から人影が出てくる。
羽根が生えてるということは、鳥人間か?
「私の名はルシファー、魔王四天王が一、本日は聖剣の勇者のご尊顔を拝しにやって」
彼の言葉が終わる前にニコラス君が横から斬りつける。
ルシファーとやらは素早く後退すると、床を蹴って空中に逃れる。
「これはこれは、とても気の短い御仁がおられるようで。」
「無駄口は命取りだぜ。」
「まあまあ、少しは喋らせてくれてもよいではありませんか。今日はあくまで顔見せ。戦う意志はありませんよ。あっ!!」
いつの間にかルシファーの後ろに回り込んでいたテンコーがナイフを放ち、見事羽根の根元に刺さった。
「みんな、出し惜しみは無しだ。全力で行く!」
「そうこなくっちゃな。」
「全く、今時の勇者は話しもできないの」
全員が放つ魔術攻撃にルシファーは避けるのが精一杯だ。
いや、避けきれずに何発か被弾している。
何せ、彼は空中にいるので、上向きに撃てば同士討ちの危険は無い。
「これはお話になりませんね。では、今日の所はこれにて去ることにいたしましょう。」
弾幕を強行突破したルシファーは不思議な術を使って姿を消した。
「クソッ、逃がしたか。」
「どうやらもういないみたいだね。」
「イリュージョンを使ったのか?」
「いいえ、あれは恐らく転移魔法ですわね。」
「スゲえな。そんなモンがあるのか。」
「ええ、高位の悪魔は使えます。」
「とにかくみんな無事で良かった。探索は中止して撤退しよう。」
私たちは急いでダンジョンを出て先生に報告した。
研修は中止となり、全員が無事に帰ってきた。
通常なら、ここで戦果の確認と優秀パーティーの発表があるのだが、そんなことをしている場合でも無く、急いで帰校する。
「しかし、あれは何だったんだ。」
「ルシファーを名乗ってましたね。」
「何だ?それは。」
「堕天使だよ。」
「何だかカッコいいな。中二病のヤツか?」
「一般人が名乗ればそうだけど、あれは本物っぽかったよね。」
「そうだな。それで、あれは本当に羽根で飛んでたのか?」
「元天使だから飛翔能力は標準で装備されてるよ。」
「カーラジオみたいなもんか。スゲえな。」
「それにしてもニコラス君、早かったね。」
「奇襲は勝つために必要だし、わざわざ会話してやる理由もないからな。」
「不意打ち上等の騎士って、ある意味最強だよね。」
「スポーツと実戦は違うぜ。」
「確かに、私もニコラス君が正しいと思うよ。」
こうして、無事に学校に帰ることができた。
ちなみに成績の方はというと、私たち3つのパーティーが圧倒的な捕獲数で同率一位だった。
平等に山分けしたもんで・・・